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この世は悪が勝つ。善は負ける。善は多数居ても善だが、悪は1人でも悪党という。

この日本の教育には「借りたお金は返しなさい」という、当たり前
の教育が非常に欠落している。

先日、私のお金をチャラ(破産申立準備)にすべく債務者が弁護士に
依頼。

この弁護士は受任後、仕事もせず逃げ回るので証拠を取り現在弁護
士会の懲戒委員会に紛議申立を出した。さあどうなるだろう。

さて、私が金融業をしてる時に、こんな疑問と持論があった。

競馬や競輪場の馬券や車券を盗んで、ギャンブルをすれば窃盗罪で
ある。クラブやラウンジで飲み食いし、お金を払わなければ無銭飲
食で詐欺罪となる。

しかしその目的の為にお金を借りて、博打や飲みに行きお金を払い
債権者に返さなくとも、借り手を刑事罰には問えない。

被害者は、貸した側だが民事不介入。10万の洋服を買う為お金を
借り、計画的に返さずとも、まず詐欺の立証は不可能だ。

「明らかに自分の欲を達成する為、或いは返す手法がなく金銭消費
貸借を行い返さない場合【意図的お金を返さない罪】となる」。

罪名 意図的お金を返さない罪
罰条 刑法 〇〇条

なぜこんな法律がないのか。

若い砌に知人、友人、道を歩く全然知らない人、その他犬や猫に、
そう力説した事がある。

「なる程」という人が多かったが、単なる飲み屋での酒の肴であ
り、ただ面白おかしく話しただけだった。

その頃、私には来なかっただけで、世はバブル真っ最中であった。

世事に疎いのは昔からだが、末野興産を筆頭に借り手責任が問われ
銀行から借りた大口債権者は、懲役刑となった。

貸し手、つまり銀行、住専は罪に問われず、世間の批判を浴びただ
けだった。

こう比較すると腑に落ちぬが、今回はそんな話をする訳ではない。

下の手紙を見てほしい。
私より一回りくらい上で、30年前程前、中州でブイブイ言わせた
方達は、下の手紙の差出人名を知ってる人は多いと思う。

当時30歳の私は、育ての親に秘書の様に付いて、中洲で酒も飲ま
ず、この男の経営する風俗店とカジノバーに、度々案内された。

お酒と女性が苦手な我が親方は、カジノに行ってもそもそもこんな
高貴なギャンブルのルールを知らぬ。

風俗店を指差し「社長、あれが私の店で中洲一ですよ」と言うが、
親方は「柳原、クリニックて病院か?」と言う。

「風俗店ですが、あんなデカい風俗店もって金貸せ、て借りる所が
ないからですよ」。

「凄いな柳原。ここ日本か」。そう笑わせていたが、私の猛反対も
意味を成さず、6400万ものお金を廣瀬に貸していた。

育ての親と結構披露宴で

平成10年5月のゴールデンウィーク。私は当時付き合ってた女性と
湯布院に行く予定だった。その出発2日前、親方に呼ばれこう言わ
れる。

「廣瀬が金返さん。従業員の八木に福岡に行かせてるが、1円も取
れん!お前行ってこい」。

「はい分かりました」。
福岡に行き即座に200万円を集金し、その旨報告した。

亡き後、何故か私宛に来た手紙

「何とか200万作らせました。これ以上コイツは鼻血も出ません」

この時電話の向こう越しだが、生まれて初めて怒られた。

「200くらいの金、何の役にも立たんのじゃ!全額取るまでお前も
福岡におれ!」。

私の湯布院とゴールデンウィークは、こうして終わった。

が、一度も怒られた事がない私が、ここまで言われるのが何か嫌な
予感を感じさせた。

結果その予感はこの月の末、親方が癌で死ぬと言う最悪のシナリオ
で終わる事となる。

さて、湯布院の旅館に電話すると、キャンセル料がどうだと言う。

こう見えてケチな私は「そうですか。しかし柳原は現在6400万の
集金に行き、暴力団から拉致されてます。警察?いや、ではそちら
にお任せしますので、その組の名前と電話番号を教え・・・」。

まだ話は終わってないのに、電話を切られた。きっといい人だろ
う。お返しに行きたいのだが、旅館名を忘れた事が悔やまれる。

さて、その翌日廣瀬がこう言う。

「私の経営するファッションヘルスは、ここらでも有名な親分が面
倒見てるんです。ここの親分には散々いい時、お金を払ってますか
ら、ここで絶対借りれます」。

絶対借りられないと思った私はすぐ親方に伝えた。

「もう1人、小倉から人間を生かせる。八木も入れて4人で行って
こい」。

言われた通り、廣瀬の言う組事務所の近くのセブンイレブンで助っ
人?を待った。

待つこと2時間。

「わざと遅れたな、このおっさん」。
口には出さなかったが、揃った時点で親方に報告する。

「廣瀬に電話をさせて、お前達は中に入るな。外で待っとけ」。
そう言われたが、本当にそこに廣瀬が入り、借金を頼むか分からな
いので、廣瀬の横に立って見ていた。

明らかに組事務所から、廣瀬の電話で出てきた30過ぎの男、正確
に言うと組員だが、髪を後ろに束ね、少林寺拳法の太った使い手み
たいな組員が、怪訝そうに歩いてきた。

途中で目を細め、一瞬立ち止まる太った少林寺。

というのも廣瀬が昨夜、死んで詫びると言い、腹に包丁を刺した。

勿論止めなかったが結局死にきれず、廣瀬の白いセーターは、翌日
のこの日も血まみれだった。その廣瀬の横に立ってる私。

どうかこのシチュエーションを想像してほしい。

私は当時、正規の金融業者。債権者の私が、親分が面倒を見る廣瀬
社長を刺した上、この組の親分に金策をさせに来た。

誰が見てもそう見える。私が見てもそう見える。


更に小倉から来た応援部隊は「ちょっと喉が渇いたな。おいセブン
イレブンが横にあるやないか。」。

おーい!セブンイレブンで集合するて言って、ここで待ち合わせた
んやないかーい。

この間2分。応援部隊はそそくさと、初夏とも思える位暑いこの日
に、店内で缶ビールを一気飲みしている。

涼しそうだなあ、いいなあ。

そう思い横を見てると、少林寺組員が駆け足で向かってくる。その
間睨み合い。いつも私はこう言う役目で、もう慣れていた。

所詮人間は自分さえ良ければいい。私は自分の腕しか信じない。

少林寺が此方を睨み、何か言いたそうだ。この少林寺は迫力があ
った。

「俺になんかあるんか!」
私がいうが早いか、少林寺が走って向かってきた。

廣瀬は片手で私を押さえ、片手で少林寺の胸を平手で押さえた。
廣瀬は185センチの巨漢。その体は伊達ではなく、力が強かった。

結局待たされること5時間。廣瀬は矢張り手ぶらで出て来て「無理
でした、どうすればいいでしょう?」。

結局この話のオチは、以下の様になった。

親方は過労とストレスで、肝臓癌で検査入院中、の筈だった。

ある日を境に、続々と普段は来ないお金持ちの社長達が、病院の個
室に見舞いに着だした時期が、この頃だった。

「あと半年の命」。

入院時から医者が身内にそう言ったそうで、気づき出した親方の債
権者が、どうにか全額返してほしい。そう遠回しに言いに来ていた
そうで私は席をその都度外す様言われた。

親方も自分の死期は分かってたと思う。

少林寺と私が睨み合ってる時、やっと小倉で、数千万のお金が作れ
たそうで「至急帰って来ていい」。

そう言われ私達は、一旦小倉に戻った。

その後、即ち5月31日。

私は朝から新幹線で博多に行き、廣瀬と話し具体的にいくらか忘れ
たが「まとまったお金が入りそうだ」と言質をとり裏どりをした。

この裏どりはかなり信憑性の高い話で、私はこれでいい報告が出来
る。そう思い新幹線で小倉駅に戻る。

その途中、新幹線内で携帯に「今亡くなりました」と、病室にいた
人から電話が入る。

「何かの間違いであってほしい」。

小倉駅に迎えに来させた者の助手席に乗り「信号は全部無視せえ!
前の車にライトあげえ。クラクション鳴らしっぱなしにせえ!」。

無茶を言い病室に行くと、そこには数十人の身内が集まり、嗚咽が
聞こえた。

親方は女性にも食にも欲がなく、服は毎日同じ作業服。車も持たず
只々「お金を貸して下さい」と言われると金策し、相手に渡した。

親方の実父は北九州市議会議員だった。

ドが付くほど真面目な方で。高齢者や身体に障がいのある人の陳情
を、特に傾聴し役所に掛け合う。

小倉名物ドキドキうどんという、小倉の名物うどんがあるが、この
うどんの牛肉を、地元の貧しい人に安く入れ、うどん屋で生活でき
る様にした。

今の食肉センターを末広町に作る尽力をし、名も欲も捨て地元に貢
献した人だった。お金になる事は本当にしなかった。

この市議の息子である親方の口癖は「柳原。親父が市会議員辞めて
くれんと、俺は一生金は残らんぞ」だった。

当時の我々の選挙区は、一票いくら、とお金で買う。
ゆえに現金と言う実弾が飛び交い、これがないと受からない地区だ
った。

その為、良い悪いではなく、私はいつも横にいて、親方の指示通り
動き、先生にバレない様、裏選対を仕切ってお金を任され配分して
いた。

親方は一円のお金も残さず死んだ。

お金を返さない者に時に怒り、1分で怒りを忘れる。そして新たに
お金を借りにきた者へ、お金を作って貸す。

こうして父である市議の支援者を作る。

あと6か月の余命宣告が、2か月しか持たなかった。
廣瀬が手紙に書いてる様、彼らのストレスがトドメとも言えるが、
廣瀬のせいで死んだとは思っていない。

セッカチで常に親や私らの事を、いつも考えるので不眠症だった。

親方の間違いは、まず自分の幸せを考えない生き方をしたからか
な、と最近思う。

本当は廣瀬の事を書きたかったのではない。
いつも見た目はニコニコし頭の低い、印象のいい奴に悪党が多い。

親方は声が大きく口が悪かった。深い付き合いではない人は、迷惑
そうにしていたが、一度付き合うと殆どの人が魅了された。

いつも世も見た目が誠実で、自分をよく見せる悪党が生き残る。

この世の矛盾であるが、これが事実である。

今日ふとした事でこの手紙を見つけた。
きっと親方が「お前、このままだったら俺みたいになるぞ」。

そう言ってる声が聞こえ、何か考えさせる手紙の様な気がした。
いつの世も無駄な事などあろうはずが無い。

私も口が悪いがもうそんな事より、死んだ師匠の生前を振り返り、
いろんな事を考える時期に来た。

私もよく今まで命があったものだ。
きっとお親方が私の分も被って、天国に行ってくれた。

これから来るであろう、大きな仕事を達成しよう。
せめてもの恩返しだ。







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