「間身体性」(かんしんたいせい)の話
2020年のコロナ禍をきっかけに、オンラインでの活動が一気に加速・一般化しました。それに伴って、「オンラインは効率がいい」「対面で会う意味がなくなった」といった意見も飛び交うようになりました。オンラインの恩恵で効率よく働けていることを実感している身として、よく分かります。でもその一方で、「対面で会うことの重要性」は残り続けると思います。そう思っている理由について書いてみます。
実は書籍の編集に携わりました
2022年6月に出版された『共に働くことの意味を問い直す 職場の現象学入門』という書籍に、編集で参加しました。色々なご縁があって、初めて書籍の編集に携わりました。
この書籍は「現象学(という哲学)の考え方を使って、職場の人間関係の課題を良いものにしていこう。そして創造的な職場をつくっていこう」という内容です。言ってみればビジネス書ですが、現象学についてもとても分かりやすく説明されています。そして現象学の考え方は性について考える上でもとても役に立つと感じています。
この書籍の中で紹介されている内容を紹介しつつ、「対面して話すことの重要性」について書いてみたいと思います。
「間身体性」(かんしんたいせい)という超重要ワード
この記事では「間身体性」(かんしんたいせい)というキーワードを覚えていただきたいです。
コミュニケーションというと言葉でのやり取りを想像することが多いですが、実はその前提として「身体と身体がその場に物理的に居合わせる時、言葉にしなくても伝え合っている何かが常にある」みたいな考え方が間身体性の考え方です。
例えば、会議室に入った時に「今日の会議はなんだか荒れそうだな…」と思っていると本当に会議が荒れたり、「この人、口では応援するって言ってくれてるけど、本当はそんなこと1ミリも思ってないだろうな」ということが何となく感じられる、みたいなことはすべて間身体性の働きによるものです。
間身体性を発揮するために、人間が物事を察知するレーダーは常に(人間が寝ている時でさえも)働いていると考えられています。だから、寝ている時に人の気配を感じると起きる、初対面の人に違和感を感じるとやっぱり後でその違和感は正しかったことがわかる(相手が変な人だったり横暴な人だったりする)、といったことがあるのです。
間身体性から考える、居合わせることの重要性
オンラインミーティングでは、主に聴覚と視覚を使います。別の見方をすれば、言葉で表現できること、文字(資格資料)に落とし込めることの交換がメインになります。
一方で、相手と同じ空間に物理的に居合わせれば、間身体性の働きにより、聴覚や視覚だけでは押さえられない非言語の情報を様々な形で伝え合うこともできます。
・自分が信頼している人と対面すると、気持ちが落ち着いたり嬉しくなったりする
・逆に、嫌いな相手や苦手な相手と会うと、緊張したり疲れたりする
・「久しぶりに人に会うのはやっぱりいいね」と感じられる
これらはすべて、間身体性の働きを通して、言葉になっていない様々な情報を、相手と居合わせている間、常に交換しているからです。
対人援助と間身体性
「性の話を扱うためのアティチュード」の話を考える時にも間身体性は重要なキーワードになります。
対人援助の現場は基本的に対面です。対面している以上、間身体性は常に働いています。だから、自身のアティチュード(態度、価値観、向き合い方)は被援助者に伝わってしまうのです。対人援助の実践の質の向上には、自身のアティチュードの見直しが欠かせません。
理論理屈では説明できないものも大事
現代は、頭で考えること、理論で説明すること、論理的に説明のつくことをやっていくことが評価されやすく、そうでないものは「説明がつかないならダメ」と言われることが少なくないように感じます(個人の経験に基づく感想です)。
例えば、究極の状況(存在を揺るがすようなピンチな状況など)に追い込まれた時、個人であれ人の集まりであれ、理論では説明のつかないような物凄い力を発揮することがあります。こうした説明のつかない「火事場の馬鹿力」的なものの存在は、論理的な説明がないと気持ちが悪いと感じる人にとっては、受け入れがたいもの・否定したくなるものなのだと思います。
確かに、理論理屈でロジカルに説明ができることは重要です。それと同じくらい、説明はつかないけど確かに在るものの存在をきちんと認められることも大事だと思うのです。
身体感覚を磨く
説明はつかないけど確かに在るものの存在をきちんと認める。このためには、身体感覚を磨くことが大事ではないでしょうか。人間の身体は、物事を察知するレーダーを必ず持っています。それを持って生まれてくるからです(上記の書籍ではその辺りについても現象学の視点から説明しています。この記事では割愛しますが、ご興味のある方は書籍をお読みください)。
でも、そのレーダーの感度は人によって違います。物凄く感度のいい人。社会生活の上でけっこう役立つ感度を持っている人。感度を鍛えれば色々な可能性が拓けそうな人。アンテナが折れてしまっている人。
人間には身体があるので、身体感覚を磨くことは何よりも大事です。間身体性のアンテナを磨くことはもちろんですが、「あなたもOK、私もOK」をどんな時にも自然に体現・実行できるようにすることも身体感覚です。権利や人権は頭で考えて守るだけでなく、普段から自然にそういう振る舞いができることが重要です(振る舞いは身体感覚の問題)。
まとめ(話が脱線しましたがこれだけは覚えてほしいです)
・間身体性(かんしんたいせい)というものがある
・身体と身体が物理的に同じ空間に居合わせ時、言葉にしていない様々なものを伝え合う、というのが間身体性
・例えば、会議室に入った時に「今日の会議はなんだか荒れそうだな…」と思っていると本当に会議が荒れる。「この人、口では応援するって言ってくれてるけど、本当はそんなこと1ミリも思ってないだろうな」ということが何となく感じられる。みたいなのが間身体性の働き
・間身体性はまさに身体感覚の問題なので、身体感覚を磨くことはとても大事
自分の生まれついた在り方が生きづらさの理由になるのではなく、誰もが「自分は自分に生まれてよかった」と思える世界をビジョン(実現したい世界像)に掲げる「性の健康イニシアティブ」の立ち上げ人/代表です。ビジョンに共感してくださる方はリアクションお願いします。