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膝OAのTKA後に行う理学療法の概要

1. 疫学データ(好発年齢・性別・発症率 など)

変形性膝関節症(knee osteoarthritis, OA)は高齢者に非常に多く、特に女性に好発します。60歳以上では症候性膝OAの有病率は男性約10%、女性約13%と報告されています。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

世界的な推計では、40歳以上の22.9%がX線で膝OAを有し、罹患率も年齢とともに増加します​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

女性は男性より発症しやすく、膝OAの有病率・発症率は男性の約1.3~1.7倍高いとされています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

肥満や加齢、膝関節の外傷歴などが膝OAのリスク因子であり​pmc.ncbi.nlm.nih.gov、人口の高齢化や肥満増加に伴い患者数は今後も増加が予想されます。

日本においても膝OA患者は非常に多く、地域研究(ROADスタディ)によれば40歳以上では男性の約42%、女性では約61%にX線上の膝OAが認められています​。researchgate.net

進行した膝OAは関節痛と可動域制限により日常生活に支障をきたし、階段昇降や歩行の困難は要介護の一因ともなります。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov

重症例では人工膝関節置換術(TKA)が有効であり、実際に膝OAは人工膝関節置換の最も多い原因疾患です​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

TKAの施行件数は世界的に増加傾向です。例えば米国では2010年時点で人口の1.52%(約470万人)が膝関節置換術を経験しており​mdpi.com、2013年には年間66万件以上のTKAが行われました​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

日本でも高齢人口の増加に伴い年間手術件数が増えており、高齢の患者でも手術適応となるケースが増加しています。TKAを受ける患者の平均年齢は概ね65~75歳で女性の割合が高く(報告によっては女性が55%以上​)pmc.ncbi.nlm.nih.gov80歳以上の超高齢者でもTKAが行われ効果を上げています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov pmc.ncbi.nlm.nih.gov

実際、ある日本の報告ではTKA症例の約34%が手術時年齢80歳以上でありpmc.ncbi.nlm.nih.gov、こうした高齢患者でも若年層と同等の術後機能改善が得られたとされています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

以上より、膝OAは高齢女性に好発する疾患であり、その末期には人工関節置換術がしばしば選択されている状況です。


2. TKA後に起こりうる機能障害(理学療法で対応できる範囲)

人工膝関節全置換術(TKA)後の患者には、手術前の膝OAによる障害が改善する一方で、手術に関連した種々の機能障害が残存・出現することがあります。理学療法によって対応し得る主な機能障害として、以下のようなものが挙げられます。

  • 大腿四頭筋の筋力低下: TKA後は大腿四頭筋を中心とした膝伸展筋力の著明な低下が生じます。術後6か月経過しても、健常高齢者と比べ患側の膝伸展筋力が有意に低い状態が残存することが報告されています​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 関節可動域の制限: 術後の膝関節は疼痛や腫脹、あるいは瘢痕組織形成により可動域(Range of Motion; ROM)が制限されることがあります。特に膝の屈曲可動域制限が問題となりやすく、術後6か月時点でも膝屈曲角度が術前より改善しきらず健常者より有意に低いままの例が報告されています​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 疼痛や腫脹の残存: 人工関節置換により多くの患者で関節痛は軽減しますが、術後しばらくは手術侵襲による疼痛や腫れが残存します。急性期の疼痛・腫脹は筋抑制や可動域制限の一因となり、リハビリの妨げとなります。また一部の患者では慢性的な膝周囲痛(例えば膝蓋骨周囲の痛みや神経痛様の痛み)が続くことがあり、術後の満足度にも影響します​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • バランス能力・固有感覚の低下: 膝関節周囲の筋力低下や可動域制限、また人工関節置換による関節固有受容器の変化から、術後のバランス能力低下が生じます。TKA患者では膝の位置覚が低下しやすく​

    1. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • 歩行・階段動作の障害: 筋力低下や可動域制限、バランス低下により、術後の歩行速度や耐久力、階段の昇り降り能力が低下します。術後6か月の時点でもTKA患者は健常同年代者に比べ歩行能力(6分間歩行距離)や階段昇降速度が有意に劣ることが示されており​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

このように、TKA後の患者には筋力・可動域・バランス・歩行機能など複数の領域で機能低下がみられます。ただしこれらの多くは適切な理学療法プログラムにより改善が期待できるものであり、実際にこれらの障害をターゲットとしたリハビリ介入が重要です​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov pmc.ncbi.nlm.nih.gov

逆に言えば、これらの障害が十分改善されない場合、患者は術前と同程度の機能制限を依然抱え続ける可能性があり​pmc.ncbi.nlm.nih.gov、日常生活の質に影響するため注意が必要です。


3. 機能障害のメカニズムの解説

上記のような術後の機能障害が生じる背景には、手術に伴う生理学的・生物力学的な要因が存在します。それぞれの障害のメカニズムを以下に解説します。

  • 筋力低下のメカニズム: TKA後の大腿四頭筋筋力低下は、筋萎縮と神経筋制御不全の双方によって引き起こされます。手術前からの痛みによる活動低下で筋萎縮が進行しているところに、手術侵襲による炎症や術後疼痛・腫脹が加わり、関節性筋抑制(arthrogenic muscle inhibition)が生じます​pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • 関節可動域制限のメカニズム: 膝関節の可動域が術後に制限される要因として、①術前からの関節拘縮や骨変形の影響、②手術による瘢痕形成や軟部組織の癒着、③疼痛や腫脹による一時的な運動制限、が挙げられます。術前に重度の屈曲拘縮や伸展制限があった場合、手術によって機械的アライメントは矯正されても軟部組織の伸張性低下が残存し、術後の最大可動域にも影響します(術前ROMが大きいほど術後ROMも良好であることが報告されています​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 疼痛のメカニズム: TKA後の疼痛は多くの場合術前の骨関節痛と比べ軽減しますが、術後早期の疼痛は手術侵襲による組織損傷と炎症が主な原因です。骨切りや軟部組織への牽引・縫合などで術創周囲に炎症が起こり、術後数日~数週間は安静時痛や運動時痛が現れます。適切な鎮痛が行われないと、この痛みが前述の筋抑制や可動域制限を助長します。また、一部の患者で見られる術後慢性痛のメカニズムには、神経障害性疼痛過度な瘢痕形成による組織拘縮痛、場合によっては人工関節周囲炎(低度の感染や無菌性ゆるみ)などが考えられます。例えば、人工膝関節手術の際にしばしば皮下で切離される脛骨神経の枝(伏在神経膝下枝)の損傷後神経痛や、膝蓋骨を置換していない症例での膝蓋大腿関節痛などが慢性疼痛の一因となり得ます。ただし大部分の患者では疼痛は術後数ヶ月で落ち着き、疼痛の軽減自体が機能改善・生活の質向上に大きく寄与します​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • バランス能力低下のメカニズム: 膝関節の固有受容感覚(位置覚・動覚)は、関節包内の神経終末や靱帯・半月板の受容器によって担われています。TKAでは骨切りや靱帯の緊張変化、場合によっては前十字靱帯の切除(多くのTKAではACLは除去されます)や後十字靱帯の代替/犠牲が行われるため、関節固有感覚フィードバックに変化が生じます。その結果、患者は術前とは異なる感覚で膝をコントロールする必要があり、特に術後早期には膝の位置感覚の低下がみられます​

    1. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • 歩行・ADL障害のメカニズム: 筋力低下・可動域制限・バランス低下・疼痛といった要因が組み合わさることで、歩行や日常生活動作の遂行能力に影響を及ぼします。術前に長期間痛みをかばって形成された不正な歩行パターン(例:患側に荷重しない歩行や、膝を完全に伸ばさない歩行など)が身体に染み付いている場合、術後痛みが軽減してもその歩行パターンが持続してしまうことがあります。また筋力や可動域がまだ不十分なうちは、本来可能なはずの人工関節の可動範囲を使いこなせず、ゆっくりとした歩行速度短い歩幅になりがちです。階段昇降では、術前からの癖で手すりに頼ったり一段ずつ昇降したりするパターンが残存する場合があります。膝の伸展筋力不足は階段昇降や立ち上がり時に顕著に現れ、特に降段時に膝ががくっと折れる不安感につながります。一方、膝の深い屈曲(約120°程度)は正座や和式トイレ動作に必要ですが、人工関節では構造上は可能でも患者の恐怖心や違和感、皮膚の突っ張りなどから膝立ちや深い屈伸を避ける傾向がありえます。総じて、TKA後の機能障害は**生物学的要因(筋・関節の状態)行動学的要因(術前からの運動パターンや心理的要因)**の双方が関与しており、これらを踏まえたリハビリテーション戦略が必要となります。

4. 推奨される評価指標とその解釈(カットオフ値も含む)

TKA術後患者のリハビリテーションにおいては、多面的な評価指標を用いて患者の状態を把握し、経過を追うことが重要です​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

痛みや可動域などのインパイアメント指標から、歩行能力・ADL能力などの機能的指標、さらには患者本人の主観によるアウトカム指標まで、総合的に評価します。それぞれの評価項目と代表的な指標、およびその解釈のポイントは以下の通りです。

  • 関節可動域(ROM): 膝の屈曲角度・伸展角度をゴニオメーターで測定します。正常膝は0°まで伸展し約135°屈曲しますが、日常生活に必要な範囲はその一部です。少なくとも90°の屈曲があれば椅子への着座や平地歩行は可能で、110°程度の屈曲が得られれば階段昇降や浴槽への出入りなど多くの動作を支障なく行えます。伸展については膝が完全に伸展しきらない(例えば残り5〜10°曲がったまま)場合、立位バランスや歩行の推進力にマイナスとなるため、伸展拘縮がないこと(0°まで伸びること)を目標にします。術後経過に応じて可動域が改善しているかを追跡し、必要に応じて可動域訓練の強化や医師によるマニピュレーション検討など判断します。特に術後6〜12週時点で屈曲90°未満の場合は拘縮形成のリスクがあり注意が必要です(この時期までに約90°の屈曲獲得が一つの目安)。可動域は簡便に測定でき信頼性も高いため​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 筋力測定: 主に膝伸展筋力(大腿四頭筋)を評価します。徒手筋力テスト(MMT)による大まかな評価のほか、ハンドヘルドダイナモメーターや等速性測定装置が利用できる場合は定量的な筋力値を測定します​

    1. mdpi.com

  • 歩行能力・持久力: 実用的な歩行能力の評価にはTimed Up and Go (TUG)テスト6分間歩行テスト (6MWT)が用いられます​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • ADL機能・下肢機能: 階段昇降テスト(一定段数の階段の昇り降りに要する時間)も有用で、特に術後は降段に時間がかかる傾向を把握できます​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • バランス・安定性評価: 片脚立位バランス保持時間やBergバランススケール等で静的・動的バランス能力を評価します。TKA患者では術前から患側脚での片脚立位時間が短縮しがちですが、術後も筋力や感覚の問題でバランスが不安定なことがあります​

    1. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • 疼痛評価: 疼痛の程度はNumeric Rating Scale (NRS)やVisual Analog Scale (VAS)で定期的に評価します。安静時痛が術前比で軽減しているか、運動時痛がリハ経過で減少傾向にあるかを追います。痛みの質についても、鋭い痛みか鈍い痛みか、夜間痛の有無などを問診し、必要なら術後合併症(感染や神経痛)の兆候を鑑別します。痛みの評価は主観的指標ですが、患者の努力度やリハビリ許容度を判断する上で重要です。一般に術後は安静時痛は徐々にゼロに近づき、動作時痛も軽度(NRS 2-3程度)になることを目標にします。

  • 患者報告アウトカム評価: 患者の自覚する疼痛・機能制限・生活の質を評価する尺度として、WOMAC (Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)やKOOS (Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score)、日本語では日本整形外科疾患評価質問票(JOA膝評価尺度や改訂版KSSなど)も使用されます。特にWOMACやKOOSは膝OA/TKA患者の評価によく用いられ、信頼性・妥当性に優れた指標です​

    1. mdpi.com

以上のように、評価指標としては関節可動域や筋力などの客観的指標TUGや6MWTなどのパフォーマンステストWOMACやKOOSなどの主観的指標を組み合わせて用いることが推奨されます​。mdpi.com mdpi.com

。例えばOARSI(変形性関節症研究会議)は膝OA/置換術患者の機能評価に30秒椅子立ち上がり、40m歩行テスト、階段昇降テスト、TUG、6分間歩行の5つを推奨しています​。mdpi.com

これらの結果を年齢別の基準値やカットオフ値と比較しつつ解釈することで、患者の現在の機能水準が把握できます。また経時的な評価によってリハビリ効果を客観的に示すことで、治療方針の微調整や患者教育にも役立てます​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov pmc.ncbi.nlm.nih.gov

5. 介入前に確認すべき検査結果とその解釈

理学療法による介入を行う前に、術前・術後の検査結果を把握しておくことは安全で効果的なリハビリテーションのために重要です。具体的には、以下のような検査所見を確認し、その解釈に基づいて注意点や目標設定を行います。

  • 術前の画像所見: 術前のX線画像やMRI所見から、膝OAの重症度(関節裂隙の狭小化や骨棘形成の程度)、変形の種類(内反・外反変形の角度)、骨質の状態(骨硬化や嚢胞形成)などを把握します。重度の内反変形を伴う例では内側側副靱帯の短縮が強かった可能性があり、術後も内側組織の伸張痛や可動域制限につながる場合があります。逆に外反変形が強かった例では外側支持機構が脆弱で術後は膝崩れに注意する、といった配慮につなげます。また手術方式(骨切りの範囲や靱帯の温存/切除)も把握しておきます。前十字靱帯の有無は術後の関節感覚に影響し得ますし、膝蓋骨の置換の有無は術後の膝前面痛に関係する可能性があります。これら術前情報により、患者固有の問題点(例えば術前から屈曲90°までしか曲がらなかったなど)を念頭に置いたリハ計画を立案します。

  • 術後のX線画像: 手術直後のX線画像で人工膝関節の設置状態を確認します。大腿骨コンポーネントと脛骨コンポーネントの軸が正常なアライメント(ほぼ真っ直ぐ)に矯正されているか、脛骨コンポーネントの後傾角は適切か、膝蓋骨の位置(外側偏位の有無)などをチェックします。適切なアライメントが得られていれば、荷重時の力学が正常に近づき長期的な人工関節の安定性が期待できます​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 血液検査データ(炎症・感染の指標): 術後の感染予防・早期発見のために炎症マーカーを確認します。CRP(C反応性蛋白)や赤沈(ESR)は術後に一過性に上昇し、その後低下する経過を辿ります。CRPは術後2~3日でピークを迎え、2~3週間(14~21日)で正常値に戻るのが通常です​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 血液検査データ(その他): 術後貧血の有無も確認します。人工関節術では周術期に出血量が多く、術後Hb(ヘモグロビン値)が8~10g/dL程度まで低下する例もあります。高度の貧血が残っていると起立性低血圧や全身倦怠感を訴えやすく、歩行訓練中のふらつきにつながる可能性があります。理学療法士はHb値を把握し、貧血が強い患者には頻繁な休息を入れる、強度を緩やかに上げる、といった配慮をします。またD-ダイマー値も術後には上昇しますが、特に術後数日以降に非常に高値を示す場合は深部静脈血栓(DVT)形成の示唆となります。もっともD-ダイマーは術後は炎症でも上昇するため、主に圧痛や下肢腫脹など臨床所見と組み合わせて判断します。その他、感染素因となる糖尿病の血糖コントロール指標や、免疫抑制状態(高齢によるものやステロイド内服の有無)も念頭に置きます。例えば糖尿病患者では創傷治癒が遅れ感染リスクが高まるため、厳重な創ケアと血糖管理が重要です​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 画像検査(超音波検査など): 下肢の**深部静脈血栓(DVT)**の有無について、術後超音波検査結果があれば確認します。下肢深部静脈の血栓は術後数日〜数週間で生じやすく、無症状のこともあります。リハ介入前に超音波検査でDVTなしと確認できていれば安心ですが、もし検査未実施の場合や症状が出現した場合は、ふくらはぎの腫脹や圧痛、足関節背屈時の腓腹筋痛(Homans徴候)などを理学療法士が注意深く評価します。疑わしい所見があればただちに主治医に報告し、必要な検査・処置が優先されます。DVTが存在する場合、血栓が血流で移動し肺塞栓症を引き起こすリスクがあるため、リハ介入は中断・制限され抗凝固療法が開始されます​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 術創の状態: 患部の傷の創癒合状況を視診します。手術後約2週間で皮膚縫合が外れ創閉鎖となるのが通常ですが、高齢者や糖尿病患者ではもう少し時間がかかる場合もあります。創部に発赤や熱感、浸出液の分泌がないかをチェックし、これら発赤・腫脹・発熱・排膿といった所見は感染徴候として注意します​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 神経・血管の状態: 術後にまれな合併症として総腓骨神経麻痺があります。特に外反変形が強い膝の矯正で術中に牽引ストレッチが加わった場合などに生じることがあり、高齢患者では注意が必要です​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

以上をまとめると、リハ介入前には以下を確認すべきです:

  • 患者の全身状態(バイタルサイン、貧血の程度、合併症の有無)

  • 膝関節の画像所見(人工関節のアライメント・固定状態、骨の状況)

  • 炎症所見(CRP・赤沈・白血球数のトレンド):感染兆候がないか​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 下肢の血栓リスク(DVT有無の検査結果、下腿の腫脹・疼痛の有無)​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 創部の状態(創の閉鎖状況、感染徴候がないか)​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 下肢の神経学的状態(足関節背屈の筋力・知覚、その他末梢神経障害がないか)

これらの情報を総合して、理学療法プログラムの安全策(例: DVTハイリスクならマッサージ中止等)や重点課題(例: ROM不足ならCPM検討等)を決定します。

6. 予後(生命予後、機能予後)

生命予後: 人工膝関節全置換術は高齢者にも施行される手術ですが、周術期合併症の管理技術向上により安全性は高く、術後の生命予後は一般人口と大きく変わらないか、むしろ術を受けないで障害を抱えた場合より良好である可能性が報告されています​。consultqd.clevelandclinic.org

大規模メタ解析によれば、TKA後の死亡率は30日以内で約0.14%、90日で0.35%、1年で1.1%と極めて低率であり​consultqd.clevelandclinic.org、その後5年で5.38%、10年で10.2%程度と推定されています。consultqd.clevelandclinic.org

これらの数字は、高齢患者の自然死亡率と大差なく、TKAを受けたことで特別寿命が短くなるということはありません。むしろ、重度の膝OAにより活動性が低下したまま過ごす方が転倒や生活習慣病のリスクが高まり、死亡リスクにつながる可能性があります。一部の研究では、膝の痛みで日常生活が制限された人々よりも、TKAを受けて痛みと機能が改善した人々の方が10年後の生存率が高かったとの報告もあります​。consultqd.clevelandclinic.org

また、高齢だからといって術後死亡率が著増するわけではなく、80歳以上の超高齢者における90日以内の死亡率も0〜2%程度と報告されています​。eor.bioscientifica.com

無論、心肺疾患など重篤な合併症を持つ場合は手術リスクが上がりますが、現在では周術期管理の充実により年齢そのものは生命予後を大きく損ねる因子ではなくなっています​。consultqd.clevelandclinic.org

総じて、TKAの生命予後は良好であり、高齢患者に対しても安全に施行できる手術となっています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

機能予後: 人工膝関節置換術は疼痛の劇的な軽減と日常生活動作の向上をもたらし、大多数の患者で術前より機能が改善します​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

術後は痛みのためできなかった歩行や階段が再び可能になり、患者の生活の質(QOL)は大きく向上します​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

典型的には術後3か月頃までに疼痛は大幅に減少し、膝の可動域や筋力もリハビリにより改善して、6か月で日常生活に必要な機能はほぼ回復します​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov pmc.ncbi.nlm.nih.gov

多くの患者は杖や歩行器を卒業して屋外歩行が可能となり、階段も手すりを使えば昇降できるようになります。術前に困難だった趣味活動(庭いじりや買い物など)も再開できる例が多く、手術の成功率は高いと言えます。実際、患者満足度の調査ではおよそ80%以上の患者がTKAの結果に満足すると報告されています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

例えばBourneらの研究では、1703人の一次TKA患者の約81%が術後1年で結果に満足し、「膝の痛みが大幅に軽減した」「日常生活動作が楽になった」と回答しています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

特に疼痛軽減の満足度は72–86%、機能改善の満足度は70–84%と高率でした​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

しかし一方で、完全な痛み消失や健常者並みの機能回復に至らない症例も一定数存在します。上述の満足度調査では約19%(5人に1人)は術後結果に不満を示しています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

不満の理由として、「期待していたほど痛みが取れなかった」「まだ膝が思うように曲がらず正座などができない」「階段や坂道では痛みや不安が残る」などが挙げられます​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

特に術前の期待が高かった患者で術後のWOMACスコアが低調に留まった場合や、術後合併症(例:感染で再手術)があった場合に不満が強くなる傾向でした​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

したがって、患者の術前期待を適切にマネジメントし、術後も現実的な目標設定を共有することが満足度向上には重要です。

機能面では、術後も健側との筋力差可動域の制限が残る場合があります。先行研究によれば、現在の標準的リハビリでは術後6か月の時点でも健常対照と比較して患肢の筋力・歩行能力・階段能力に有意な低下が残存することが示されています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

具体的には、膝の屈曲可動域は術前より改善するものの健常者より平均で約10°程度低く、6分間歩行距離も健常者より100m以上短いままでした。pmc.ncbi.nlm.nih.gov pmc.ncbi.nlm.nih.gov

さらに四頭筋筋力は術前値まで回復しても健常高齢者より劣り、その状態が1年後、2年後、3年後まで持続するとの報告もあります​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

つまり、現在のリハでは完全には正常値まで機能を取り戻せていないのが現状であり、今後さらなる介入法の工夫が必要とされています。pmc.ncbi.nlm.nih.gov pmc.ncbi.nlm.nih.gov

もっとも、患者本人にとって大切なのは「痛みなく自立歩行できる」「日常生活が送れる」レベルに回復することであり、大多数の症例でそれは達成できています。重度の変形で歩行困難だった人が杖歩行で買い物に行けるようになる、といった社会参加の向上は大きな恩恵です。

長期的な観点では、人工膝関節の耐久性(インプラントの寿命)も機能予後の一部です。近年の人工関節は高性能で、15年間で約90%前後が良好に機能し​pmc.ncbi.nlm.nih.gov25年後でも82%程度は破損・ゆるみなく生存すると報告されています​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

特に初回置換の場合、適切なアライメントと患者の協力(高衝撃活動を避ける等)があれば多くは患者の生涯にわたり機能し続けます。若年発症で寿命が長い場合や、感染・ゆるみ・摩耗などの合併症が起これば再置換術(リビジョン)が必要になる可能性はありますが、その確率は年率1%未満程度と低いです​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

人工関節の素材やデザイン改良も進んでおり、20年以上問題なく使えるケースが増えています。

総合すると、TKA後の機能予後は良好であり、痛みの劇的軽減とADL自立度の向上が期待できます。ただし健常者と全く同じレベルには戻らない部分も残りうるため、患者には「痛みなく歩けるようになる」「日常生活は支障なくなる」一方、「正座など深い曲げは難しいかもしれない」「違和感は多少残るかもしれない」といった現実的な見通しを説明します。適切なリハビリテーション介入により、ほとんどの患者は社会的に自立した生活を長期間営むことが可能となります​。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

また、痛みが取れて活動性が上がることで全身の健康度も増し、要介護予防や寿命延伸にもつながる可能性があります​。consultqd.clevelandclinic.org

7. 理学療法介入にあたり注意すべき点

人工膝関節置換術後の理学療法を行うにあたっては、患者の安全確保と効果的な機能回復のためにいくつかの留意点があります。以下に、理学療法士が特に注意すべきポイントを示します。

  • 深部静脈血栓症(DVT)の予防と早期発見: TKA術後は下肢の静脈血栓リスクが高まるため、術直後から足関節のポンピング運動や弾性ストッキングの着用など血流促進策を指導します。またリハ中もふくらはぎの異常な腫れや圧痛、呼吸苦など肺塞栓症を示唆する症状に注意を払い、少しでも疑わしい場合は直ちに主治医に報告します​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 術創の管理と感染予防: 術創部位の状態を毎回チェックし、発赤・熱感・浸出液・異臭がないか確認します​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 疼痛管理とモニタリング: 患者の痛みを適切にコントロールすることはリハビリの質を高めます。術後疼痛が強い場合は、アイスパックや後述の**寒冷療法(クライオセラピー)を用いて腫脹軽減と鎮痛を図ります​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 関節可動域訓練と拘縮予防: 術後の早期から膝関節の屈伸運動を開始し、関節拘縮(arthrofibrosis)の予防に努めます​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 筋力強化と筋抑制への対応: 大腿四頭筋の筋力回復には、術後できるだけ早期からの筋収縮訓練が有効です。ただし術直後は筋の随意収縮が不十分(筋抑制)なため、**筋電気刺激(NMES)**の併用や、軽負荷での多回数収縮による再教育が推奨されます​

    1. frontiersin.org

  • バランス・歩行訓練と転倒予防: 術後のバランス能力低下に対しては、早期からの立位バランス訓練歩行練習が有効です。平行棒内での立位保持や重心移動練習から始め、左右片足立ちや前後・左右への重心シフト訓練を行います。バランスパッドや不安定板を用いた訓練は、患者の能力に合わせて段階的に導入します。固有受容感覚を改善するため、立位での膝の曲げ伸ばしや、閉眼立位練習なども有用です​

    1. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • 過度な衝撃や負荷の回避: 人工関節は耐久性が高まっているものの、高衝撃の反復過度の荷重負荷はインプラントの摩耗や弛み(ゆるみ)につながる可能性があります。理学療法士は患者に対し、術後の運動としてジョギングやランニング、ジャンプなど膝へ強い衝撃を与える活動は控えるよう指導します。特に若年患者ではスポーツ復帰への希望があるかもしれませんが、推奨されるのは低衝撃のエクササイズ(例: ウォーキング、水泳、サイクリングなど)です。一方で正座や深いしゃがみ込みについては、文化的・生活様式的に必要な場合もあります。正座は人工膝でも構造的には可能ですが、無理に行うと皮膚や組織にストレスがかかり易いため、患者の希望と膝の状態を見ながら判断します。日本人では正座を望む方も多いですが、「膝に負担がかかるので長時間の正座は控えましょう」と説明し、代替動作(椅子使用や足を投げ出す座法など)を提案します。深い屈伸は生活上避けられない場面もありますが、その際もゆっくり動作すること、痛みを感じたら中止することなどを伝えます。また重い物を頻繁に持ち運ぶ仕事などは膝への累積負荷となるため、作業方法の工夫(台車を使う等)や休息の取り方をアドバイスします。理学療法士自身も、リハ中の運動で膝に不自然な力が加わらないよう注意します。例えば、他動的ストレッチの際に膝を捻らない、加圧位置を適切にする、といった技術上の配慮をします。過負荷の回避は人工関節の長持ちに直結するため、患者教育の段階から繰り返し強調します。

  • 患者教育と心理社会的サポート: TKA患者のリハ成功には、患者本人の協力とモチベーションが不可欠です。そのため、術前からの患者教育が推奨されており、入院前後でリハの流れや自主トレ内容、目標などを十分説明します​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

  • 合併症や個人因子への配慮: 各患者の抱える合併症や個人因子にも注意します。例えば高度肥満(BMI高値)の患者では、術後の創治癒合遅延や感染リスク、リハ中の心肺負荷増大に注意が必要です​

    1. pmc.ncbi.nlm.nih.gov

8. おわりに

いかがでしたでしょうか?
以上のように、理学療法士はTKA術後患者の身体状態と心理社会的背景の両面に配慮し、安全で効果的なリハビリを遂行する必要があります。
特に合併症管理(DVT・感染・循環障害など)と機能訓練(筋力・可動域・バランス)を両立させることが重要です。

※この文章はChatGPTのdeep researchを使って作成した文章です。

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