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心不全患者のフレイルを質問紙で評価したい時にみる記事

序論

心不全(HF)患者では、高齢化に伴いフレイル(虚弱)の合併がしばしば問題となります。
フレイルとは、生理的予備能の低下によってストレスに対する脆弱性が増大し、要介護や入院、死亡といった転帰リスクが高まる症候群として定義されます​。
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HFとフレイルは共通の基盤(加齢や多臓器機能低下)を持ち相互に悪化させ合う関係であり、​pmc.ncbi.nlm.nih.gov 
実際にHF患者の少なくとも約半数がフレイルと報告されています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov 

特に射出率保たれた心不全(HFpEF)ではフレイル合併率が高く、高齢女性に多い傾向があります​。
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フレイルを有するHF患者は有しない患者に比べ、全死亡および再入院リスクが1.5~2倍に増加するなど予後不良であり​、
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その評価はリスク層別化において極めて重要です。またフレイルの身体的基盤にはサルコペニア(筋力・筋量の低下)が大きく関与し、HF患者ではサルコペニアの併存率が非HF患者より約20%高いとも報告されています​。
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このように心不全とフレイル・サルコペニアは深く関連しており、適切にフレイルを評価することがHF患者の包括的ケアに欠かせません。


フレイル評価に用いられる質問紙の概要

心不全患者のフレイル評価には、簡便に実施できる質問紙(問診票)が多く利用されます。
代表的なものとして以下が挙げられます。

  • FRAILスケール: 5つの質問項目からなる簡易スクリーニングツールです。Fatigue(疲労)、Resistance(抵抗力:階段昇降困難)、Ambulation(歩行能力)、Illnesses(併存疾患数)、Loss of weight(体重減少)の頭文字を取ったもので、各項目1点で合計0~5点となります。​

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  • 基本チェックリスト(Kihon Checklist, KCL): 日本の地域包括ケアで広く用いられる25項目からなる自己記入式質問紙です。高齢者の生活機能全般について、「はい/いいえ」で答える質問から構成され、7つの領域(身体機能、栄養状態、口腔機能、社会活動、認知機能、抑うつ傾向、生活習慣)を包括的に評価します。KCLはもともと要介護リスク者のスクリーニング目的で開発され、地域高齢者の自立度評価に活用されています​。

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  • SARC-F: サルコペニアのスクリーニング用に開発された5項目の質問紙ですが、フレイル評価にも転用可能です。内容は筋力低下や歩行速度、起立動作の困難さ、転倒歴、体重減少といった項目で、各項目0~2点で評価します(合計0~10点)​。

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  • その他の質問紙: 上記以外にもいくつかのフレイル評価スケールが存在します。**エドモントンフレイルスケール(EFS)**は認知機能テストや気分、バランス評価など11項目を含む包括的指標、Tilburg Frailty Indicator (TFI)は15項目の自己記入式質問紙で身体・心理・社会の3領域を評価するツールです。さらに臨床的フレイル尺度(Clinical Frailty Scale, CFS)は問診や観察に基づき要介護度を1(健常)~9(重度虚弱)で直感的に評価する簡便な指標で、問診票という形ではありませんが臨床で広く用いられています​。

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各質問紙の比較と有用性

信頼性・妥当性: FRAILやKCL、SARC-Fといった主要な質問紙はいずれも一定のエビデンスに裏付けられています。
FRAILスケールは元来一般高齢者集団で開発・検証され、縦断研究において「FRAILでフレイルと判定された群は将来のADL障害や死亡リスクが有意に高い」ことが示されています​。
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KCLも日本の地域高齢者で縦断的な妥当性検証が行われており、総得点に基づくフレイル分類(非フレイル/プレフレイル/フレイル)が3年以内の要介護発生や死亡の予測に有用であるとの結果でした​。
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SARC-Fもフレイル評価ツールとして最近検討が進み、上記のようにFried基準との比較で適切な感度・特異度を示しています​。
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一方、Clinical Frailty ScaleやEdmontonスケールのような包括的評価も、簡便な割に詳細な情報が得られる点で有用です。
例えばCFSは医療者の目視評価を主体としますが、「一見して評価でき時間を要さない利点があり、フリード指標より簡便で欠測も少ない」とされています​。
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総じて、質問紙によるフレイル評価は専門的な身体計測を伴う評価と良好に対応し、一定の信頼性・妥当性を持つと考えられます。


実臨床での適用可能性: 忙しい臨床現場でフレイル評価を行うには、簡便で迅速なツールであることが重要です。包括的老年症候群評価(CGA)のような詳細な評価はゴールドスタンダードとされるものの時間と人的資源を要し​、
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高齢HF患者全員に行うことは現実的ではありません。
その点、FRAILスケールやSARC-Fは5問程度と短時間で完了し、KCLも25問ながら選択式で特別な器具も不要なため、医療従事者が少ない労力で評価を実施できます​。
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CFSに至っては診察時の印象で評価できるため、瞬時にフレイル度を把握する手段として有用でしょう​。
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これら質問紙は患者や家族による自己記入や、看護師・リハスタッフでも実施可能であり、多職種で共有しやすい形式です。
以上のように簡便性と汎用性に優れる点は質問紙法の大きな利点であり、日常診療でフレイルのスクリーニングに広く用いることができます。


予後予測との関連性: フレイル評価は単なる現状把握だけでなく、予後予測指標として重要です。多くの研究がフレイルの存在が心不全患者の死亡や再入院リスク上昇と関連することを示しています​。
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各質問紙について見ると、KCLはそうした予後予測能力が特に高いことが示唆されています。
たとえば日本の急性心不全コホート研究では、KCLで「フレイル」と判定された患者群は2年以内の全死亡率が有意に高く(Kaplan-Meier推定17.7% vs 7.2%)、多変量解析でも全死亡のハザード比が約2.9倍に達しました。
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心血管死に至ってはフレイル群で有意に増加し(調整後HR 7.026)​、
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総合得点が1点上昇するごとに死亡リスクも有意に上昇しています​。
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この研究はKCLを用いた評価が心不全患者の長期予後を良好に層別化できることを示し、著者らも「KCLはAHF患者のリスク評価に有用なツール」と結論付けています​。
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Clinical Frailty Scaleについても、HFpEF患者842例のデータからCFS≥4(脆弱以上)の群で1年死亡率・心不全再入院率が顕著に高く、CFSは独立した予後不良因子であることが示されています​。
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同研究ではCFS高値群の1年死亡率は17%と、低値群(7%)の約2.5倍であり、調整後の死亡リスク比も2.5倍以上でした​。
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一方、FRAILスケールやSARC-Fについては心不全患者での大規模検証はまだ限られますが、小規模研究では概ねフレイル有無による予後差を捉えており、6つの評価法を比較したパイロット研究ではいずれのツールも感度88–92%、C統計値0.71–0.73と良好な予測能力を示したと報告されています​。
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その中でFRAILスケールは特異度が最も高かったものの、小規模ゆえ統計的有意差に至らなかったとの解析でした​。
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著者らは「FRAILは心不全に適した評価法の候補であり、更なる検証が必要」と述べており​、
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今後大規模研究でのエビデンス集積が期待されます。
総じて、質問紙によるフレイル評価は予後予測において価値ある情報を提供しうるものの、それぞれカバーする領域や特異性が異なるため、患者の状況に応じて適切なツールを選択・併用することが望ましいでしょう。


FRAGILE-HFの知見

FRAGILE-HF研究は「心不全高齢患者における身体的フレイルおよび社会的フレイルの有病率と予後」をテーマに日本全国の複数病院で行われた前向きコホート研究です​。
center6.umin.ac.jp 
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平均年齢約80歳の入院心不全患者1,300例超を対象に、身体的フレイル指標(歩行速度や筋力等)と社会的フレイル指標(独居や社会活動状況等)を評価し、これら複数領域のフレイル併存と予後との関連が解析されました。
その結果、複数のフレイル領域が重複して存在する症例が非常に多く確認され(マルチドメイン・フレイル)、特に身体・認知・社会の3領域全てでフレイルを呈する患者も少なくありませんでした​。
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さらに重要な所見として、フレイル領域の数が多いほど心不全症状や臓器機能障害の程度も大きく、予後が悪化することが示されました。
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具体的には、フレイル領域を多く抱える患者ほど入院中の身体機能障害が重度で、退院後の死亡・心不全再入院の複合アウトカム発生率が有意に高かったのです​。
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このようにFRAGILE-HFは、高齢心不全患者において身体的・社会的フレイルが高頻度に併存し、それが予後不良と直結することを初めて実証的に示した研究といえます。


特にフレイルの「社会的側面」に光を当てたサブ解析(JAHA誌2021年報告)は注目に値します。
従来、心不全領域のフレイル研究では身体的指標に重点が置かれ、社会的フレイル(Social Frailty: 孤独や社会参加の低下など)は十分検討されていませんでした​。
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FRAGILE-HF研究の一部解析では、入院高齢心不全患者1,240例中825例(66.5%)に社会的フレイルが認められたと報告されています​。
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社会的フレイルあり群では、退院後1年間の全死亡率および心不全再入院率がフレイルなし群に比べて有意に高く(ログランク検定ともにP<0.05)​、
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多変量解析で他の臨床因子を調整後も独立した予後不良の予測因子となりました(複合エンドポイント調整HR 1.30、全死亡HR 1.53)​。
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さらに社会的フレイルの情報を既存のリスク因子に加えることで予後予測能が有意に向上する(再分類改善効果の有意性)ことも示されています​。
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以上より「社会的フレイルの評価は高齢HF患者の予後予測に付加価値を与える」と結論付けられました。
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研究陣は、「簡便な質問紙を用いて高齢HF患者の社会的フレイルを評価することは日常診療でも十分実施可能である」ことを強調しており​、
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身体的指標だけでなく社会的な脆弱性にも目を向けることで、より的確なリスク評価とケア介入につながると示唆しています。


FRAGILE-HFから得られた知見は、心不全診療においてフレイルを多面的に捉える重要性を示しました。
従来の身体能力中心の評価に加え、社会的要因や認知・精神面を含む包括的フレイル評価が、患者の全体像把握と予後予測に有用であると裏付けられたのです​。
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特に社会的フレイルの高頻度と予後関連の強さは、新たな発見であり、高齢者の孤立や支援体制不足といった課題に対する介入の必要性を浮き彫りにしました。
FRAGILE-HFは臨床現場に対し「フレイル評価には身体機能のみならず社会的な健康(Social Health)の視点が不可欠」であることを示し、今後の心不全患者ケアの指針となる貴重なエビデンスを提供しています。


まとめと今後の展望

心不全患者における質問紙を用いたフレイル評価は、高齢患者の脆弱性を把握し予後予測を行う上で有用な手段です。
FRAILスケールやKCL、SARC-Fといったツールは簡便で実施しやすく、臨床の様々な場面で活用されています。
しかしながら、その適用にあたってはいくつかの課題も認識する必要があります。

第一に、心不全症状との判別の問題です。
例えば疲労感や運動耐容能低下、体重変動といった項目はHFそのものの症状と重複しうるため、フレイル評価項目が心不全の活動度評価と混同される恐れがあります​。
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その結果、心不全の急性増悪で一時的に状態が悪化しているだけの患者を「フレイル」と誤分類したり、逆に慢性的な虚弱を見逃したりするリスクがあります​。
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現行の基準ではHF患者に合わせた補正は行われていないため、こうした症状オーバーラップの影響を考慮しつつ解釈することが求められます。


第二に、評価手法自体の限界です。
質問紙や簡易尺度の中には主観的評価に依存するものもあります。
例えばClinical Frailty Scaleは簡便ですが、評価者の印象によるバイアスが入り得る上、フレイルの原因となる具体的要素(身体機能か認知機能かなど)を明示できないため個別介入の指針としづらいという指摘があります​。
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同様に、質問紙による自己申告は患者の認知機能や理解力に左右され、認知症を合併する患者では正確性が下がる可能性もあります。
さらに各ツールは評価領域や設問形式が異なるため、異なるツール間で結果を比較する際には注意が必要です。
現状では「この質問紙さえ使えばフレイルを完璧に捉えられる」という決定打はなく、心不全患者に最適化されたフレイル評価基準は未確立なのが実情です​。
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こうした課題を踏まえ、今後の展望としては心不全患者に適合したフレイル評価ツールの開発・導入が期待されます。
理想的なツールは、心不全固有の症候との重複を最小化しつつフレイルの多次元的側面を評価でき、予後予測にも優れ、かつ簡便であることが求められます​。
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その実現に向け、いくつかのアプローチが考えられています。
例えば複数ドメインの統合評価です。
身体的指標(歩行速度や筋力)、生理学的指標(栄養状態や炎症マーカー)、心理社会的指標(鬱症状や社会的つながり)などを統合し、機械学習なども活用してHFとフレイルの寄与を解析する試みは有望でしょう​。
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こうした多面的データを組み合わせることで、HFに起因する障害と純粋な老年症候群としてのフレイルをある程度切り分け、個別患者に合わせたリスク評価が可能になるかもしれません​。
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さらに、心不全領域の専門家や老年医学の専門家が協力し、エビデンスに基づいたHF-specificフレイル評価スコアを開発・検証していくことも重要です。


とはいえ現時点でも、既存の質問紙を用いたスクリーニングは高リスク患者を抽出し介入につなげる上で大きな役割を果たします。
フレイルと判定された心不全患者に対しては、心臓リハビリテーションや栄養指導、社会的支援など多職種介入を早期に導入することで、フレイルの進行抑制や機能改善が期待できます​。
jacc.org 
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実際、最近の研究では包括的な心臓リハが身体機能を向上させフレイルを改善する可能性が示唆されており​、
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積極的な介入によって脆弱な患者の予後を好転させる余地があります。
超高齢社会を迎えた現在、心不全とフレイルが重なり合う患者はますます増加すると見込まれます。
フレイル評価質問紙の適切な活用と今後の手法開発を通じて、こうした患者の包括的ケアと予後改善に繋げていくことが重要です。

※この内容はChatGPTにより作成されました。


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