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脳梗塞の原因、梗塞巣別の機能障害と理学療法戦略
1. 発生機序別の分類と生じやすい機能障害
アテローム血栓性脳梗塞(大血管疾患)
概要: 脳の大動脈が動脈硬化により狭窄・閉塞するタイプです。
特徴:
高齢者や高脂血症、糖尿病患者に多く見られる。
症状は夜間~早朝にかけて徐々に進行する。
一過性脳虚血発作(TIA)を繰り返した後に本格発症することもある。
神経症状は発症当初から広範囲(例:片麻痺、感覚障害、皮質症状)になりやすい。
血行力学の変動で進行性に悪化する「進行梗塞」が起こる可能性がある。
皮質症状(失語、半側空間無視など)を伴い、重症度は中等度~高度になる傾向がある。
心原性脳塞栓症(心房細動などが原因)
概要: 心臓由来の血栓が脳血管を閉塞するタイプです。
特徴:
突然発症し前触れがないことが多い。
大梗塞になりやすく、重度の片麻痺や意識障害を引き起こす。
心房細動に伴う脳梗塞は90日予後が悪い。
初回1年以内の再入院率は20~27%と高く、アテローム血栓性脳梗塞より約40%高いというデータもある。
症状は大脳半球の広範囲に及び、左半球の場合は失語、右半球の場合は無視などの高度な皮質症状を呈する。
ラクナ梗塞(小血管疾患)
概要: 直径15mm未満の小梗塞で、脳深部の穿通枝動脈の閉塞が原因です。
関連・特徴:
高血圧や糖尿病と関連し、複数回発症すると脳小血管病変の一部として認知機能に影響する可能性がある。
皮質症状は伴わず、特徴的なラクナ症候群を示す。
代表的な症候群として、純粋運動性片麻痺(内包後脚や橋の梗塞)、純粋感覚障害(視床VPL核の梗塞)、失調性片麻痺、構音障害‐不器用な手症候群などがある。
局所症状のみで高次機能障害は伴わず、複数回発症すると歩行障害や認知症状につながる。
その他の原因
頸動脈解離:
若年者の脳梗塞原因として重要。頭頸部の激しい痛み(頭痛・頸部痛)を伴い、そこから生じた血栓が原因となる。
nebraskamed.com椎骨動脈解離:
後頸部痛や小脳・脳幹梗塞症状(めまい、複視など)を呈する。
nebraskamed.com脳血管炎(動脈炎):
全身性血管炎や中枢神経限局の血管炎により、時間的・空間的に多発する梗塞がみられる。静脈性脳梗塞(静脈洞血栓症):
頭痛や痙攣発作で発症し、時に両側性の症状や出血性梗塞を呈する。
例として、上矢状静脈洞血栓では両側の脚の麻痺や意識障害が生じる。
髄液圧上昇による頭痛、視力障害、けいれんなどが特徴。
2. 梗塞部位別の機能障害と特徴
中大脳動脈(MCA)領域
特徴:
最も好発する領域で、対側の片麻痺と感覚障害が現れる。
顔面と上肢の障害が顕著で、下肢の麻痺は比較的軽度。
同名半盲(対側視野欠損)がしばしば伴う。
言語・認知障害:
損傷側が優位半球(通常は左)の場合、ブローカ失語、ウェルニッケ失語、または全失語となる可能性がある。
劣位半球(通常は右)では、半側空間無視が顕著に現れる。
前頭葉・頭頂葉の侵襲により遂行機能障害や注意障害、観念運動失行も起こる可能性がある。
前大脳動脈(ACA)領域
特徴:
内側前頭前頭葉~頂葉前部を栄養する領域。
対側下肢に優位な麻痺と感覚障害を生じ、上肢と顔面は比較的保たれる。
下肢の筋力低下により歩行困難になる。
認知・行動障害:
前頭葉内側面の障害から意欲低下や遂行機能障害(発動性低下、プランニング困難)が生じる。
両側ACA梗塞では無動性無言や人格変化、失禁、原始反射の再出現もみられる。
後大脳動脈(PCA)領域
特徴:
後頭葉(視覚野)と内側側頭葉(海馬など)を栄養するため、視覚認知の障害が中心。
対側の同名半盲(視野半分の喪失)が典型的。
その他の症状:
物体認知障害(視覚性失認)や視覚的注意障害が現れることもある。
海馬や側頭葉内側の梗塞ではエピソード記憶の障害が出る。
両側PCA梗塞では重度の記憶障害(健忘症候群)の可能性がある。
まれに左の頭頂後頭接合部の障害で超皮質性感覚失語が報告される。
幻視や視覚的錯覚も起こり得る。
脳幹への影響:
穿通枝の閉塞により中脳や視床の梗塞を合併し、意識障害や垂直注視麻痺、視床症候群を呈することがある。
脳幹梗塞(中脳・橋・延髄)
概要:
脳幹は生命中枢を含むため、小さな梗塞でも重篤な症状を引き起こす。主な症状:
構音障害(嚥下困難、呂律不良)
眼球運動障害
四肢の麻痺・感覚障害
重度の場合、意識障害や呼吸障害に至る
例:
橋の腹側部閉塞では、四肢麻痺と顔面・舌下神経麻痺が生じ、閉じ込め症候群となる。
延髄外側部の梗塞(ワレンベルグ症候群)では、嚥下障害、嗄声、めまい、平衡障害、交代性温痛覚障害、小脳失調、ホルネル徴候などが出現する。
参考: uchealth.com
小脳梗塞
特徴:
小脳半球や小脳虫部の梗塞で、主に運動失調(協調運動障害)と平衡障害が現れる。
立位や歩行時にふらつき、協調不全が認められる。
診察所見:
指鼻試験、踵膝試験で嚢錯(ターゲットを超えた運動)や分解運動が見られる。
眼振や回転性めまい、構音障害(小脳性構音、スキャンニングスピーチ)が起こり得る。
症状は病変と同側に現れる(小脳は同側支配)。
重篤な場合:
大きな小脳梗塞では脳幹圧迫による急性水頭症や脳ヘルニアのリスクがあるため、意識状態の変化や高度な頭痛、嘔吐に注意する。リハビリ:
転倒リスクが高いため、平衡訓練や協調運動練習を重点的に行う。参考: ncbi.nlm.nih.gov
3. 特に重要な機能障害と理学療法戦略
運動麻痺に対するアプローチ(片麻痺の機能回復訓練)
基本原則: 「使うことで回復させる」を目標に、繰り返しの課題指向型訓練を実施する。
拘束誘導運動療法 (CIMT):
健側上肢を拘束し、麻痺側上肢の使用を強制する集中訓練。
Fugl-Meyer評価で効果量0.69、ADL自立度(改訂Barthel指数)の向上が報告されている。
日常生活動作への波及効果は限定的なため、ADL訓練との併用が重要。
AHA/ASAガイドラインでは、適応のある患者に対してCIMTまたはその修正版がグレードIIa(エビデンスレベルA)として推奨される。
ロボット支援訓練:
上肢・下肢のリハビリ用ロボットを使用して反復的な課題練習を提供。
エビデンスとして、ロボット訓練併用群は通常リハのみの群に比べ上肢機能やADL能力が有意に向上している。電気刺激療法 (NMES/FES):
麻痺筋に電気刺激を与え、収縮を促すことで運動学習を補助する。
慢性期の足関節背屈筋へのFESは歩行能力と歩行速度の向上に有意な効果がある。課題指向型訓練と反復練習:
機能的な課題の反復練習が神経可塑性を引き出す。
ADL動作練習(食事、更衣、トイレ動作など)や実際の歩行練習、精神的な運動イメージ反復(メンタルプラクティス)も有用とされる。
筋力強化訓練
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