葡萄
最近さあ 何故あれが無いの。
村本はタバコを吸いながら つぶやいた。
ここは駅前の古い喫茶店である。
スモーカーの村本は話しがあると 必ずこの喫茶店を指定してくる。
何が無いわけ?
キャンベルだよ。
キャンベルって何?
葡萄の品種だよ 最近はスーパーマーケットに行っても ピオーネとかサインマスカットとか
知らない葡萄が置いてあって 僕の好きなキャンベルが無いんだよ。
サインマスカットじゃなくて シャインマスカットだろ。
そんな ことはどうでも良い。
一度そのマスカットを食べたけど 甘いだけで
どこが良いの。
俺はあの酸っぱいキャンベルが好きなんだよ。
それは消費者が甘いマスカットを好んでいるからじゃないのか。
いつから 日本人はべたべた甘いものを嗜好するようになったのかね。
苺にしてもそうだよ。昔は酸っぱかったけど
最近はやたらと甘い。
俺はおかしいと思うね。
村本はタバコを灰皿につぶしながらつぶやいた。
ところで、今日はなんの話しだと村本に聞いた。
いや、今日は久しぶりに天気が良いから君と
コーヒーを飲みたいと思っただけ。
まあ、良いかと思って僕はタバコに火を付けた。