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大東京カワセミ日記その8 2021年5月15日。怒鳴るカワセミ撮影老人とカメラ雑誌の休刊。

「おい、写真撮ってるんだぞ!気をつけろ!そこ通るな! ったく、わかってないな。ほんと迷惑だ」

大声を出したのは、70過ぎと思われる男性だ。髪の毛をやや赤い色に染めている。背格好は160センチ半ば。釣り上がった眉に細い目。眉間に皺。

カワセミという鳥には、たいがい「おっかけ」がいる。
巨大な超望遠レンズとフルサイズの一眼デジを合体させた巨砲部隊。
ご近所の池や池に、三人以上巨砲を抱えた人たちがいたら、まず間違いなく、巨砲の先にはカワセミがいる。


ここのカワセミにも、おっかけがついている。
まだこのエリアを散歩したのはたった3回目だが、常におなじメンツがいる。五人。年齢は60代後半から70代。40代くらいが一人。全員男性である。
ファッションは、チェックのシャツ。カメラベスト。カーキかオリーブのズボン。二人に一人は帽子をかぶっている。カメラは、ニコンが目立つ。フジもある。40代の男性は機種不明のおそらく超望遠コンデジ、である。なぜかキヤノンは一人もいない。オリンパスもペンタックスもいない。

そのなかの牢名主(70歳前後 フジのミラーレスに超望遠 日焼け)が、池にかかった橋をわたるカップルに、叫んだのであった。
「おい、写真とってんだぞ!」と。


もちろん、ここは公営の「公園」である。野鳥公園ですらない。

のんびり池を見ている老夫婦、たもあみを持ってザリガニとったりする親子、そしてデート中のカップル。なんのルール違反も犯してない。ちなみに、このカップルはしゃべってすらない。ただ、橋を渡って歩いているだけなのであった。

あえていうならば、この怒鳴っている赤く髪を染めた男性こそが、カワセミにとっては鬱陶しい存在だろう。

さらにいえば、でっかいレンズを抱えて、威圧的に池沿いにならぶひとたちのほうが「迷惑」だったりする。


カワセミは、池のハジからハジをこまめに動きながら、魚をとっていた。そして、カップルが橋をわたったとき、そもそも近くにカワセミの姿はなかった。
でも、おじさんは怒鳴ったのであった。
カップルは困ったことだろう。

まさか、この巨砲を抱えたひとたちが、長さ10センチの小鳥を撮るために休日1日ねばっっていることなど、つゆ知らないからである。


先月老舗のカメラ雑誌「日本カメラ」が休刊した。

誌面をみれば、わかるが、カメラ雑誌は「老人媒体」である。投稿欄の写真に記された年齢は、70代が中心で80代も混じっている。そう、鳥のおっかけの方々とは市場がぴったり一致する。
いまや世界中のあらゆる人間がカメラを常備している。ただしカメラのかたちはしてない。世界でいちばんメジャーなカメラは、キヤノンでもニコンでもなく、スマホのカメラユニットである。
カメラメーカーの多くが、だれもが写真に親しみ、これほど多くの写真をとっている時代に、市場をどんどん失っている。
もちろんこの怒鳴りつけたおじさんのようなひとはごく一部だろう。ほとんどのバード写真家はこういうことはしないだろう。たぶん。
でも、たった一人の行動が、その集団のイメージをつくってしまう。そんなケースはしばしばある。
鳥の撮影はとっても楽しい。私始めてみてわかった。そもそも写真撮影は楽しい行為である。いまやあらゆる人間が写真家である。スマホというカメラを誰もが手にし、インターネットという発表の場を誰もが持っているからだ。

では、なぜカメラ雑誌の客は減ってしまったのだろうか。なぜカメラメーカーは販売不振にあえいでいるのだろうか。

怒鳴るカワセミ撮影老人の行動で、いろいろなことを想像してしまった。

カワセミが戻ってきた。そしてレンズに対して、そっぽを向いた。

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