大東京カワセミ日記147 20221229 オスは上流、メスは下流。
公園の反対側の梯子にメスがいた。
忙しなく、ご近所を行ったり来たりして。
狩をする。
獲物は?
中国産の陸封型ヌマエビ。冬でも外来種のカナダモの中で活動している。数も多いので、ここでは餌に事欠かない。ちなみにこの川は、もっと大きな川の支流だが、途中に地下水路があり、水系が半ば分断されていること、そしてものすごく浅くて、水深はいちばん深いところでも50センチもないこと。場所によっては20センチ程度なこと。そのせいか、水はものすごく綺麗になっているのに、住んでいる水生生物は限られている。
まず、魚がほぼいない。下流部にはたくさんいるコイもいない。おそらく浅すぎるのと、下流と地下水路で分断されているからである。フナもモツゴもいない。2021年度の東京都の河川生物の国勢調査を見ると、この川については、魚類は1種も確認されていない。何とアメリカザリガニすらいない。
データだけで見ると死の川である。
ところが、この調査ではトンボも皆無だが、私自身はこの川でギンヤンマの産卵、クロスジギンヤンマ、シオカラトンボ、種名は不明だがイトトンボの仲間、そしてある程度水が綺麗な清流じゃないと住めないハグロトンボを複数確認している。
また、アメリカザリガニと、海から遡上してきたモクズガニも確認している。
つまりだ。水質的には、ちっとも死の川ではない。
では、なぜ魚がほぼいないのか?外来種のアメリカザリガニが全部食べたのか?ありえない。そもそもアメリカザリガニすら確認されていなかったのである。
理由は何か。はっきりしている。公害だ。1950年台後半から1980年台までの河川の徹底的な水質汚染、下水の垂れ流し、工業廃水の垂れ流し、付近の田圃などの農薬の垂れ流しなどが見事に効いて、この川は一度、完全な死の川になったわけだ。
戦前はこの川の流域は、ホタルの名所で知られていた。まちがいなく、フナもタナゴもどっさりいただろう。テナガエビもたくさんいただろう。でも、公害と生活排水と農薬で全滅した。だから都の調査で何と魚が1匹もいない、という結果になったわけである。
工場はなくなり、下水は高度処理が進み、田んぼは皮肉にも無くなって住宅街になった。昆虫は飛んでこれる。だから、清流に暮らすハグロトンボまでが戻ってきた。
ところが魚は飛んでこれない。下流と分断されているから、本流の魚も上がってこれない。
結果、一度死の川になったこの川は、水は綺麗だけどほとんど生き物がいない状態が続いた。データを見る限りそうである。
ところが。誰が捨てたかわからないが、外来種のカナダモ、そしてやはり外来種で釣り餌として中国から輸入されたヌマエビが、川に流れ込んだ。ニッチは空いている。何せ、水は綺麗な、死の川、なのだ。
かくして、ライバルがいないこの川で、カナダモは繁茂し、ヌマエビはどんどん増えた。しかも日本の川エビの大半は降海型で幼生は海で育つ。このため、海と繋がっていない川では絶滅する。この川は地下水路で分断されている。が、中国のヌマエビは、陸封型で淡水で子孫を増やせる。ライバルがいないこの川は、ヌマエビの繁栄にうってつけだった。
そんなヌマエビを、主食にしているのがこの川に暮らし、子育てをしているカワセミだ。私の1年半の観察結果では、カワセミの食事の8割型がこの川のヌマエビである。残りは隣の公園の池に暮らすモツゴとメダカ。あとはたまにアメリカザリガニだ。
この川のカワセミは、だれも想定しなかった不思議な都市生態系の一部を成している、というわけである。
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/ikimono2/shousai.html#shousai_teisei
この後、さらに下流へ飛んでいった。橋の下で姿を消す。橋の下に隠れ家があるのかもしれない。
上流の公園へ。すでに年末で閉まっている。隣の通路から池が見える。
いた、オスのカワセミだ。このカワセミ、ほんのり嘴の下が赤い。去年も同じ嘴の個体がいた。同一個体か。でも、ちょっと若いような気もする。このちょっと赤いのは、オスなのか。それとも性成熟する直前のメスなのか?
誰もいない公園の池を我が物顔に飛び回る。
で、時々飛び込んで小魚を捕まえる。おそらくモツゴ。下の石にタメフンがある。アライグマ、だろうか?
また飛んだ!枝に移る。
この後、この個体は川へと飛んでいった。先ほどのメスがいたところより橋を隔てて上流に。その後、飛び立って姿を消した。そろそろ日が暮れる。