メディアの話その121 鉄道資本主義が貫徹してない街、西武線の魔力。

ターミナルに百貨店をつくり、沿線に計画的な住宅街を設け、それぞれの駅前には系列のスーパーをつくり、病院や学校を誘致し、奥座敷には高級住宅街を設け、終点エリアにはアミューズメントパークをつくる。

阪急グループの小林一三が成功を納め、渋沢栄一が田園都市株式会社をつくり、東急の五島慶太が、実現した。

こうした「鉄道資本主義」のまちづくりは、東京の各私鉄がこぞって真似をした。

でも、鉄道資本主義を完璧なパッケージでやったのは、結局、元祖と本家の阪急と東急だけだったのかもしれない。

たとえば西武は新宿線にしろ池袋線にしろ、住宅開発含め「計画的」に各駅ができた感じが、ない。高級住宅街や学校誘致は、国鉄の駅、国立でやったりしている。不動産開発については、箱根や軽井沢など、別荘地の創造に真価を発揮した。


しかし、である。
西武線沿線の街が魅力がないか、というとそれはまた別の話だったりする。


たとえば、新宿線でいえば、中井の駅を出たあたりの赤塚不二夫さんも愛した居酒屋エリア、細田守さんの『時をかける少女』でモデルとなった商店街。妙正寺川沿いに並ぶお店と川の対比など、散歩するだけで楽しい。
あるいは、都立家政。魅惑の居酒屋、焼き鳥屋が並び、小さなアーケードがあり、しゃれたカフェがあり、マイナーな高円寺、のような隠れ家感がある。

池袋線沿いでいえば、椎名町のアーケード街、南長崎のトキワ荘商店街、江古田のラビリンス、いずれもおいしい店は多いし、本屋さんもあるし、やすい理容室もある。石神井公園は、駅前が大きく開発されている一方、すぐに畑がある景色。石神井公園エリアの高級住宅街。おいしい洋食屋さんやコーヒーショップが並ぶ地域。行くだけで楽しい。

とにかく、「住みやすい」オーラがぷんぷんする。


東急が「完璧に」計画した田園都市の街と、無計画な西武とのどちらが魅力的か。

これはもう趣味の問題かもしれないけれど、西武の「コントロールされえていない」「自然発生的に生まれた」「ちゃんとサバイバルしたひとたちが楽しくやっている街」の空気は、これ、西武が鉄道資本主義を貫徹しなかったからこそ、あるものなのかもしれない。


東京の強みは、こういうところかもしれない。人口が多いので、隙間があれば、誰かがビジネスをしてニッチを埋める。コントロールされないニッチがあると、むしろ楽しい街ができる。


浜松あたりの地方と、全然違うところ、かもしれない。


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