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大東京カワセミ日記224 小流域都市東京とオニヤンマとサワガニと。
https://www.youtube.com/watch?v=xftUATq2k6o
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今朝、オニヤンマの産卵風景をみた。
ここは都心の小さな緑地公園なんだけど、、実は「東京の名湧水57選」のひとつに選ばれている。
もともとあった武家屋敷は、この湧水がつくった小流域の谷地形を利用したものだ。
下手に池を配置し、本流の川に緩やかに流れ込む。そんな構造の庭があった。で、いまでも少量ながら、水が湧き出している、というわけだ。そのまま区の緑地となっている。東京屈指の名緑地だと思う。
こちらの湧水の出口は1本だが「ばっけ」と呼ばれる崖線の名残のような石積みの土手がいくつもある。
そこからも水が染み出していて、隙間にはサワガニが暮らしている。
サワガニといえば、おなじ崖線の下手に位置する庭園がすごい。
こちらの池の水はほとんどが水道水を循環したものだが、やはりいまでも少量ながら、湧水がある。
この湧水がつくりあげた小流域の谷地形を、高明な殿様が下屋敷とした。
それが大きな庭園となって残っている。
ちなみにこの庭園のすぐ隣の庭園にも「東京の名湧水57選」で選ばれた湧水がある。
雨が降ってきた。
乾燥していた地面が水に濡れる。
すると、半分干からびていた湧水のある最上流部の谷の隙間から、背中が青い、大きなサワガニが何匹も顔を出し、散歩し始めた。
さらに、遊歩道脇の土手からもサワガニが次々と現れて、道の上を散歩し始め、木の実を抱えて歩き出す。
小さな個体は、黄色や茶色だが、大型の個体は手足が白くて背中が青い。大きな川の上流に住むサワガニはたいがいオレンジがかった茶色だが、こうした小流域の崖の清水で暮らすサワガニは、なぜか青い色をしている個体が多い。
この湧水の下手の流れには、多くのカワニナがいる。
もともとこの崖線沿いは、東京屈指のホタルの産地だった。
その名残が垣間見える。
そしてそれぞれの小流域の出口にしつらえた池。
ここはこの小流域が合流する都市河川で子育てを繰り返すカワセミの餌場にもなっている。
武蔵野台地を中小河川が穿つ。その結果できた崖線から湧き出た湧水がさらに小さな流域地形をつくる。
そんな湧水のつくった小流域地形は、旧石器時代以降、東京都心部に進出した人類にとって、「圧倒的に暮らしやすい一等地」に選ばれ、縄文、弥生、古墳、戦国時代とずっと「勝ち組」が居を構えてきた。
が、江戸時代から明治時代までの「勝ち組」のひとたちは、こうした水の湧く小流域地形そのものに価値を見出した。
多くは庭園にしたのだが、湧水を生かし、谷地形を生かし、そこに池をため、斜面に木を生やした。
谷を埋めたりしなかった。むしろ小流域地形の「景観」そのものを愛で、かつ権力のおそらくは象徴とした。
東京23区のGoogleマップを写真に変えると、緑の孤島がいくつも現れる。
その大半が、こうした中小河川沿いの武蔵野崖線から湧き出た湧水のつくりあげた小流域地形を生かした緑地公園や庭園、ホテルなどの敷地、である。
これはあとからつくったものじゃない。
その多くが旧石器や縄文時代から「勝ち組」が愛でてきた小流域地形を維持してきたものだ。人工的にでっちあげることができない。なにせベースは湧水が中心にあるのだから。
で。こうした小流域地形の緑地公園とその先に必ずある中小河川。この地形構造をそのまま生かして暮らしているのが東京のカワセミである。
こうした中小河川、神田川、善福寺川、石神井川、渋谷川、目黒川、呑川は、1960年代から70年代、すべて公害と都市化によって「死の川」になった。カワセミは80年代半ばまで姿を消していた。
川の魚のほとんどは死滅した。
このため、いまでは浄化がすすんでいるたとえば妙正寺川などは、ハグロトンボのような、ある程度清流じゃないと暮らせないトンボが戻ってきているほどの水質なのに、魚がまったくいない。見かけたのは2種類だけ。ドジョウとヨシノボリ。しかも数は非常に少ない。東京都のデータでもこの2種類しかいないことが確認できる。なぜか。下流部は神田川とつながっているが暗渠で分断されていて、隅田川〜神田川のルートから魚が入ってこれないのである。
でも、ここにはカワセミのカップルがいつもいて、毎年必ず子育てを行っている。このカワセミの餌となっているのは、中国産のシナヌマエビ。これが川で大発生していて、このエビを9割がた食べている。
そして残りが、崖線沿いの湧水が作った小流域地形の公園の池、ここにくらす、モツゴやメダカ、というわけだ。
東京都心で、まるで渓流でみるような風景、オニヤンマの産卵を観察でき、おそらくは人類が日本に来る前からずっと暮らしていたサワガニたちの散歩につきあうことができるのは、東京の地形のおかげである。つまり渓流がそこにあるのだ。
多摩川によって形成された扇状台地、武蔵野台地の滞水層には、豊富な地下水が流れている。
その地下水のいくつかが湧水として湧き出たところから河川が誕生する。井の頭池から神田川が、石神井池から石神井川が、といった具合に。こうした中小河川は、火山灰が積もっただけの関東ローム層が表面を被う、柔らかく乾燥した武蔵野台地を削る。侵食、運搬、堆積を繰り返す。結果、中小河川の両脇には、崖線が形成される。たとえば目黒川の中目黒あたりを想起いただければわかりやすい。
代官山側の西郷山公園と、東山側の急峻な坂道。
あれ、だ。
東工大の大岡山キャンパスと緑ヶ丘キャンパスの間も崖線である。
真ん中を呑川が流れているわけだ。
で、こうして中小河川がつくった崖線は、関東ローム層の下にある帯水層を剥き出しにさせ、そこから水が湧く。
それが小さな流れをつくり、フラクタルに小流域を形成する。
この中小河川沿いにできた、湧水=小流域地形が、そのまま、人類の暮らしの単位となり、のちに権力者が愛でるランドスケープとなり、結果、この小流域地形の多くが現代まで残された結果、東京都心には、公害の荒波にもまれながらも、数多くの生き物がサバイバルした。
カブトムシも、ノコギリクワガタも、タマムシも、サワガニも、オニヤンマも。
そして、本流が綺麗になりはじめたとき、羽のあるカワセミは16号線の外側から戻ってきたというわけである。
ちなみにここにあげた写真は今朝、会議の前に小一時間散歩して撮ってきたものである。
カブトムシもノコギリクワガタもコクワガタもオニヤンマの産卵もサワガニの散歩も、都心の小流域で、その気になれば誰でも観察できる。
真夏とはいえ、平日の朝8時だったので、誰もいなかったけど。
この東京都心の自然の正体、それは首都圏のユニークな地理が形成した小流域地形のつらなり、なのだ。
小網代とおなじである。
で、東京湾に面した武蔵野台地の最後の小流域地形が並ぶエリアがある。
それが港区だ。
高輪のあたりは、この小流域地形を残した緑地公園やホテルがいくつかある。
子供の頃暮らしていたから、よく覚えている。いちばん公害が酷かったときだったのに、高輪にはカブトムシもノコギリクワガタも、ヒキガエルとおたまじゃくしがちゃんといた。
が、港区の大半はいま、地形を壊し、時代遅れのコンクリートの墓標を立てている。
あれ、だめである。
自然保護の観点から、だけじゃない。市場経済的にだめ、である。
中長期的にはレッドオーシャン、どこでもあるコモディティのうえ、メンテしないと、全部スラムになっちゃうからである。
いいわけのような緑化の場所も全部取材したけど、金をかけているのに、生き物がまったくいない。うちの近所の500平方メートルの小さな屋敷公園のほうが比較にならないほどすごい。ツミは子育てをするは、オオタカは狩りにくるは、カブトムシもクワガタも普通にいるは。
ただの緑の塗り絵をしているだけ。
谷地形を生かした湧水と緑地と生物多様性。
それが世界最大の都市の真ん中にいくつもある。
東京の価値は、圧倒的にこっちにある。