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銀座デートで大激闘した話
アレは忘れもしない数年前、彼の誕生日プレゼントを探して銀座をぶらぶらデートしていたときのこと。
ランチを食べてから15分ほどして、例の気配を感じる。
私の30年来の友人で、忘れたころにその存在を主張してくるアイツ。
最初は
「んー、気のせいかな」
と思うのだが、時を待たずして
「……。気のせいと思いたいな」
に変わり、やがて
「あコレやばいやつ…」
と受け入れざるを得なくなるのがいつものパターン。
今回も例によって私の下腹部にくすぶっていたさしこみが、次第にその全貌を現し始めた。
「ごめん、お腹痛い、トットイレ…」
付き合って日も浅かったのでめちゃくちゃ恥ずかしかったが、
〈こういうことは早い段階でオープンにしておくべき〉
と思ったので、自分が下痢体質であることを早めに彼に知らしめておいた。
あちこちの建物に入るがほとんどが飲食店のなかのトイレ。
ようやく見つけたのは銀座ユニクロのビル。
崩壊しつつある自我を抑えながら急いで駆け込むも、そこは
「戦争なんてこの世にあるの?(* ´艸`)クスクス」
という平和ボケした日本人でにぎわっており、
トイレには緊急性のない女子たちの長~い列が続いていた。
アカン、こらアカンで。。。
ほかの階はないのか…?
いや、フロアマップを見るとほかの階にもあるが、1階ずつチェックしている余裕などない!!
これは…人として終わりを迎えるしかないのか…?
あきらめかけたそのときだった。
7階だか8階だかの最上階に車いすマークの多目的トイレを発見!!
身をよじりながら急ぎエスカレーターで向かう。
(でも振動がきつくて走れない…!!)
安全設計されたスローペースなエスカレーターに身をゆだね、なんとか最上階へ到着!
トイレトイレトイレトイレ
もう頭のなかはトイレでいっぱい。
しかし痛みから解放されたい一心の私に、無情な声がかかったのだった。
スタッフ「お客様~、こちらは車いすの方専用となっております(´∀`)」
私「すいません。わかってますけど緊急事態で列に並んでられないんです」
スタッフ「えっ、あっそうなんですね、それならどうぞ…Σ(・□・;)」
トイレに入ってからもゴロゴロ、ギュルギュル痛むだけで、出ないこと出ないこと!
出るのは大量のあぶら汗だけ。
10分、20分…と、時はだれしもに平等に過ぎ去ってゆく。
私はウンウンうなり、浅い呼吸であえぎながら(まだ)見えない敵と激しい死闘を演じているわけです。
さっきまで楽しかった銀ブラデートが走馬灯のように脳裏をよぎる。
もう一度彼に会いたい。
生きて、もう一度。
そして、今度こそ伝えるのだ。
「愛している」と。
闘いは30分にも及んだ。
そしてついにそのときを迎える…
気づくと、すべては終わっていた。
私は勝ったのだ。
ドアの向こうから彼が、
「ヤナちゃーん、大丈夫ー!?(´;ω;`)ウッ…」
と叫んでいるのが聞こえた。
フロアに響き渡るほどの私を案じる声に、彼からの深い愛を感じた。
満身創痍でノロノロとドアを開け、外気を感じると、自分が生きてまたこの場所に立っていることを自覚した。
私は彼に向き直り、一番伝えたかったことを口にした。
「恥ずかしいからそんなデカい声しないで」
※銀座ユニクロ様:その節はお世話になりました。