【現役競走馬烈伝】悉く最強を超えた撃墜王【エフフォーリア】
ーー現役最強馬。
たった一つの時代の称号を争い
優駿たちは今日も走る。
並み居る強豪を次々に打ち破り、
年度の代表にまで輝いたとある若武者の話ーー
【現役競走馬烈伝】
エフフォーリア編
年度代表馬というものについて
少し説明しましょう。
JRAの選考委員により、
その年最も優秀な業績を収めた馬にのみ
その称号が与えられます。
ディープインパクトやキタサンブラックなど、
名の知れた名馬の多くがこの賞を受賞しています。
今回は、無敗でG1皐月賞を制した上
その後も抜群の安定感で歳上の強豪を破り
見事2021年年度代表馬に輝いた
エフフォーリアの紹介です。
デビューから皐月賞まで〜無敗街道〜
2020年8月に札幌競馬場の新馬戦でデビューしたエフフォーリア。
調教の動きの良さから1番人気に推されると、レースでは中団から最後は抜け出して危なげなくデビュー勝利を収めました。
以後一貫して手綱をとることになる横山武史騎手もその素質の高さに期待を寄せました。
しかしこの馬、極めて体質が弱くレースで疲れやすいタイプであることが判明したため、以降慎重なローテーションを組まれることになります。
結局11月に出走した2戦目も危なげなく勝利し、
この2走をもって2歳シーズンを終えました。
次走に選択したのは明けた2月の共同通信杯(G3)。
過去にはゴールドシップなども出走し、その後のキャリアへと繋げた出世レースです。
この頃には虚弱体質も良化しつつあり、
結果は2馬身半差の圧勝。
これを受けた陣営は無敗のままクラシック第1戦、
G1皐月賞への直行を表明します。
皐月賞では2歳G1ホープフルステークス勝ち馬のダノンザキッドに1番人気を譲るも、最後はこれまで通りの強烈なキレで抜け出し、2着に3馬身差で勝利しました。
これにより武史騎手は22歳にしてG1初勝利。
レース後のインタビューではマスク越しにもわかる満面の笑みで喜びを爆発させました。
こうして若き人馬は世代の頂点を決める
G1日本ダービーへと無敗のまま駒を進めます。
日本ダービー はじめての屈辱
ダービーでは有力馬が軒並み外枠に入れられる中、エフフォーリアは有利とされる最内1枠1番に。
それまで無敗の実績や抜きん出たパフォーマンスから
単勝オッズ1.7倍の1番人気に推されました。
スローペースとなった道中ではライバルからのキツい
マークを受けながら馬群の中を追走。
東京競馬場の長い最終直線での勝負にもつれ込みます。
エフフォーリアは馬群に揉まれながらも
なんとか直線で外に持ち出し、押し切りを図るも
内をついて急襲するもう一頭の影が…
強烈な末脚で突っ込んできたシャフリヤールと並んでゴールインし、決着は写真判定にもつれこみます。
判定の結果、シャフリヤールがわずかに先着、しかもダービーレコードというおまけ付き。
一方のエフフォーリアはハナ差たった10cm届かず初黒星を喫することになりました。
拭いきれぬ悔しさを抱えて一生に一度のダービーを終えたエフフォーリア。
再起を果たすべく秋の戦いへと乗り込みます。
3歳秋・撃墜王の誕生
夏は休養を挟み秋のG1戦線に向かったエフフォーリア。
陣営は距離不安からクラシック最後の長距離戦・菊花賞は回避し、
天皇賞(秋)、有馬記念のローテーションを表明しました。
並みいる強豪古馬(4歳以上)も参戦するG1で若き人馬はどこまで通用するか。この挑戦は大いにファンの期待を集めました。
天皇賞(秋)で迎え撃つは、春の不振と年内の引退が決まっていることから何としてもG1を獲りたい前年のクラシック三冠馬・コントレイル。
さらにはG1 5勝をマークする短距離女王・グランアレグリアも参戦。
1,2番人気を彼らに譲りエフフォーリアは3番人気に収まりました。
エフフォーリアは好スタートを決めると、積極的に先行するグランアレグリアを前に見る位置につけ、後ろからはコントレイルのマークを受けながら進みます。
スローペースで進む中最後の直線を迎えると各馬が仕掛け始める中、
エフフォーリアは持ち前のスピードで徐々に進出。
前を進むグランアレグリアを交わすとコントレイルの追撃も完全に振り切り1着でゴールを通過しました。
これにより19年ぶりに3歳での天皇賞(秋)制覇となったエフフォーリア。
祖父であるシンボリクリスエス以来となる快挙を達成しました。
圧倒的な強さを見せつけ先輩馬たちをねじ伏せて見せたエフフォーリアは
満を持して暮れの大一番、グランプリ有馬記念に向かいます。
レース前の人気投票により人気上位馬に出走権が与えられる有馬記念。
エフフォーリアは史上最多得票数となる26万742票を集め1位に選出されました。
他に出走が決まったライバルたちも当然強力。
グランプリ(有馬記念、宝塚記念)4連覇がかかり今回がラストランになる現役最強女王クロノジェネシスをはじめ、
同期の菊花賞馬タイトルホルダー、後にドバイターフを制するパンサラッサなど並みいる強豪たちが揃いました。
その中でも顕著な実績を誇るエフフォーリアは、レース前の調教からやや調子を落としていると見られるも当日1番人気に推されることに。
本番では道中クロノジェネシスを徹底マーク。
パンサラッサが先頭でよどみないペースを刻む中、
終盤に差し掛かるとクロノジェネシスの前に進出。
彼女の進路をふさぐと外から一気に他馬を抜き去り、内から伸びてきたディープボンド、猛追するクロノジェネシスを振り切り1着でゴールイン。
見事3つ目のG1勝利をもぎ取りました。
こうして3歳にして現役最強の座まで登り詰めたエフフォーリアはコントレイル、クロノジェネシスと先輩の最強格を続けて破ったことから一部では撃墜王とあだ名されるようになります。
(ついでにダービーの敗北で感情を失っただの悲しき競馬マシーンだのとありがたいイジりまで頂戴することに)
苦難の4歳春 遠征競馬の壁
圧倒的な実績で3歳シーズンを終えたエフフォーリア陣営は、4歳となる22年の初戦として阪神競馬場で行われるG1大阪杯を選択しました。
エフフォーリアは関東の美浦(みほ)トレセンで管理されており、関西への遠征はこれが初。
かねてから抱えていた体質の弱さによる輸送の負担や、調教での動きが以前よりも鈍かったことが不安視される中、やはり実績から1番人気で当日を迎えます。
人気順では前走金鯱賞(G2)をレコードタイムで逃げ勝ったジャックドールとの二強体制を形成。
2頭のマッチレースに期待が集まる中ゲートが開かれます。
勝ち馬はポタジェ。
これまでのレースで善戦を続けてきた中でG1初戴冠となりました。
一方のエフフォーリアは終盤伸びあぐね9着と
まさかの大敗。
ジャックドールは道中の落鉄の影響か5着にとどまる結果に。
「競馬に絶対はない」とはよく言ったものです。
輸送がダメなのか?阪神コースが向かないのか?
原因はひとつではないのは確実ですが。。
それでも落ち込んではいられないエフフォーリア陣営は次走に宝塚記念を選択します。
宝塚記念のレース内容は前回タイトルホルダー編の後半で詳しく記載しているのでそちらをご覧ください。
こちらでは当日のエフフォーリアにのみフォーカスして書きます。
エフフォーリアは今回、初のブリンカー(馬の視界の一部を遮る馬具。馬の集中力向上を図るもの)をつけての参戦となりました。
ブリンカー効果への期待もありつつ、やはり揺るがぬ1番人気で本番を迎えます。
ところが彼は多量の発汗をしながらコースに現れました。
馬も暑ければ汗をかく生き物。宝塚記念当日は天気も良く非常に暑くなっていたので仕方ないと言えばそうなのですが…
ゲートが開かれると同期のタイトルホルダーが勢いよく飛び出す傍ら、エフフォーリアもスムーズにゲートを出ます。
前半1000mが57秒6という超ハイペースの中、いつも通り中団につけたエフフォーリアでしたが、かつてないハイスピードの展開に彼を含めてほとんど全馬がジリ貧状態。
最後の直線では無尽蔵のスタミナで伸び続けるタイトルホルダーのはるか後方で6着入線となりました。
再起の秋へ向かって
世代の最強格をことごとく撃墜し年度代表馬に選ばれた最強馬エフフォーリアでしたが、結局この春は良いところがなく終わってしまいました。
思えば祖父のシンボリクリスエスも関西でのG1勝ち星が無く、血統の因果を感じさせられます。
今後は天皇賞(秋)・ジャパンカップ・有馬記念の秋古馬三冠路線を予定しており、実績十分の関東で巻き返しを図ります。
上半期3連勝のライバル・タイトルホルダーと明暗を分ける形になってしまったエフフォーリア。
果たしてこの秋再び輝きを取り戻し、撃墜王の復権となるのでしょうか。
ぜひ秋の競馬とエフフォーリアに注目してみてください!
次回、
歴史的激闘のダービーから海を渡った偉大なる王。
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