虎ノ門「三陽」を忘れない
虎ノ門は数年前から再開発ラッシュに見舞われている。
ネガティブな表現はしたくないが、しかしそれでも「見舞われている」と言いたくなってしまうのは、ごく自然な感情なのだと思う。
虎ノ門にある町中華「ラーメン 餃子 三陽」は5月30日を最後に、この地での営業を終えた。
最後のこの日に食べに行ったのは本当に偶然だった。
「三陽」周辺一帯の飲食店ほかテナントはほぼほぼ閉めていたため、そろそろだろうと思ってはいたが・・・。
いつも通り、12時ちょうどより数分早い時間に到着。
前回はタンメン+半チャーハンを頼んだので、今回はチャーハン+餃子にするというのは、すでに決めていたことだった。
まだ行列が出来ていないこの時間にすっと中に入り、席に座るとすぐに店のおじちゃんにオーダーした。
10分ほど待っていると、カウンターの常連さんと厨房のおじちゃんの会話が耳に入った。
「今日が最後なんでね、ホント長い間ありがとうございました」
!!!!
なんと・・・、偶然にもこの日が最後だったのだ、とここで気が付いた。
「どうしよう、タンメンも頼もうか・・・、いやそれは食べ過ぎだ」
そういうことではないと自分に言い聞かせ、なんとか留まった。
しばらくすると、餃子がまず到着、そしてスープ、数分後にチャーハンがやってきた。
三陽はタンメンも美味しいけど、やっぱりチャーハンだなと思う。
そこまでいろいろな店に行っているわけではないが、個人的には虎ノ門エリアでは、ここが一番うまいチャーハンだと思っている。
「それがもう食べられなくなるのか・・・」
シンプル具材の三陽のチャーハン。
ここの最大の特徴はやはりもち米かと思う位、もっちりな食感の米だ。
チャーハンのタイプ別としては、どちらかと言えば、しっとり系に分類されるのかもしれないが、細かくいえばこれはしっとりではなく、やはりもっちりなのだ。
そのため、葉っぱで包まないちまきを食べているようなこの感覚、そしてこの絶妙な塩気、とにかくクセになる。
タマラナイ、トマラナイ、マタタベタイ
一瞬で食べ終えてしまった、もう少し味わおうと思っていたのに・・・。
忙しそうに店内を駆けずり回るおじちゃんに、お金を渡しつつ、
「今日で最後だったんですね、長い間お疲れさまでした」
とそっと声を掛けた。
店の外に出ると、入り口のすぐ脇のところに、「今日で最後です」と書かれた張り紙があったことに今さらながら気が付いた。
いつもホールで手伝っているアジア系の女性は今日はいなく、ホール兼厨房のニコニコ顔(地顔)のおじちゃんが、いつもより忙しそうにしていた。
いつもはガッコンガッコンと豪快な鍋振りに徹している厨房のおじちゃんもたまにホールに出てきていたくらいだ。
ふたりともなかなかの年齢だ。
移転先は決まっているんですか?とは聞けなかった。
再開発での移転の場合は、決まったらお知らせするという形が多いように思うが、おそらく三陽は可能性は薄いのではないかと思っている。
移転先でまた心機一転、となるにはかなり体力がいるだろう、と勝手ながら想像してしまう。
他の飲食店では、結構な時間が経ってから、新天地で再開するというケースもちらほらあったと記憶している。
なかには常連さんが味を引き継ぐなんてこともあるらしいが・・・。
センチメンタルな気持ちのまま、15分の道のりを歩き、会社に戻った。
え?なんですか?
新橋の「三陽」に行けばいいじゃんって?
と・・・、遠いんだよ!!