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ネットスーパー事業の成長構造と最適化戦略

はじめに

本記事はPodcast 「#294 ネットスーパーの事業成長の構造化と、商品価格最適化のインパクト」 の内容を体系的に整理し、記事として再構成したものです。以下のリンクよりお聞きいただけます。

ネットスーパー事業における成長の構造的要素と収益性向上のための施策について、実務的な観点から解説を行っています。特に以下の3点に焦点を当てています。

  1. ネットスーパー事業の成長を支える3つの要素(パートナー数、店舗数、店舗あたり売上)の関係性

  2. 収益性向上のための具体的なレバー(注文単価、粗利益率、オペレーション生産性)

  3. デジタル特性を活かした価格最適化戦略の設計と実装

これらの要素を体系的に理解し、ネットスーパー事業の持続的な成長を実現する方法について対話しています。

ネットスーパー事業・市場の成長構造と特徴

ネットスーパー事業・市場の成長を考える上で、最も重要な要素は事業構造の特殊性を理解することです。

一般的なECビジネスが全国規模の物流センターを中心に展開するのに対し、ネットスーパーは各店舗を起点とした地域密着型のビジネスモデルが中心となっています。

この特徴は、事業の拡大方法に大きな影響を与えています。

市場成長の成長要素は、1) パートナー企業数の増加、2) 店舗数の拡大、そして 3) 店舗あたりの売上向上という3つの要素の掛け算で成り立っています。

特に注目すべきは、配送エリアが店舗から半径3km程度に限定される点です。

この地理的制約により、一店舗あたりの売上には自ずと上限が存在し、事業の拡大には店舗数を増やしていく必要があります。

収益性向上への具体的アプローチ

ネットスーパーの収益性の向上には、注文単価、粗利益率、オペレーション生産性という3つの重要な要素が密接に関係しています。これらの要素は相互に影響し合います。

例えば、注文単価の向上を目指す場合、配送料の設計最適化とユーザー体験の改善という2つのアプローチが考えられます。

Stailerにおける具体的な成果として、レジ前商品推奨機能および、推薦のパーソナライズ化により購買金額が約3-5%増加するなど、テクノロジーを活用した改善施策の効果が確認されています。

価格最適化戦略の設計と実装

10Xは、商品価格の最適化を収益性向上の重要なレバーの1つとして位置づけています。

店舗価格を基準としつつ、商品の特性 (ex. 買い物のどのタイミングでカートに投入されやすい商品なのか 等) に応じたマークアップ率の設定や、顧客のライフタイムバリュー(LTV)を考慮した総合的な戦略が求められます。

小売業における価格戦略は、一般的に大きく3つのアプローチに分類されます。

まず、Everyday Low Price(EDLP)は、市場でのボリュームリーダーが採用する戦略です。常時低価格を維持することで、価格に対する顧客の信頼を獲得しつつ、価格変化による需要の変動を少なくすることで、小売を含むバリューチェーン全体の生産性を引き上げていくことを目的としています。

次に、ハイ・アンド・ロー戦略では、特売商品と定価商品を組み合わせることで、需要喚起と収益性のバランスを図ります。この戦略は店頭販促等のオペレーションが複雑化しやすいというデメリットもあります。

最後に、ロイヤリティ・プライシングでは、顧客セグメント別の価格設定を行い、より緻密な収益管理を実現します。こちらは商品ベースではなく、顧客の特性に応じた価格のコントロールを必要とするため、更にデータオペレーションの難易度が高いものになります。

価格戦略において、ネットスーパーには特徴的な点があります。
デジタルならではの「データのタイムリーな活用」という利点です。

この利点を活用しながら、高度なハイ・アンド・ロー戦略や、ロイヤリティ・プライシングを、効率よく実現できることが大きな強みとなると考えられます。

データ活用による継続的な改善

事業の成長を持続的なものとするには、データに基づく仮説検証サイクルの確立が不可欠です。

ネットスーパー事業はこれまでに紹介したような、複数の改善レバーを同時に最適化していく必要があるため、高度な分析基盤の構築と、それを活用した継続的な改善活動が求められます。

特に重要なのは、各施策の効果を定量的に測定し、それを次の施策に活かしていく仕組みづくりです。例えば、価格最適化においては、商品カテゴリーごとの価格弾力性や、顧客セグメントごとの購買行動の違いなど、多面的な分析が必要となります。

今後の展望

ネットスーパー事業は、デジタル技術の活用を深めることで、さらなる成長が実現できると考えています。

特に、データ分析・活用技術の発展により、より精緻な価格最適化や、パーソナライズされたサービス提供が可能となってきています。Stailerでは、実際にこれらを活用した機能提供や日々のオペレーションにより、価値を生み出すことができつつあります。

今後は、「商品の配送サービス」という枠組みを超えて、ネットスーパーが地域に密着した新しい形の小売りビジネスになっていくと信じています。

さらなる進化を遂げていく上で、データドリブンな意思決定と、顧客ニーズへの的確な対応が、ますます重要になると考えています。 (了)


話者プロフィール

話し手:株式会社10X 取締役CGO 橋原正明
コンサルティング会社、金融会社を経て、2011年に株式会社MonotaRO(モノタロウ)にデータアナリストとして入社。2015年より執行役としてマーケティング、商品調達、SCM部門の責任者を歴任。データドリブンな組織と文化を全社に展開することで、事業成長に貢献し、在籍期間中の売上は10倍に拡大。2023年3月に10Xに入社し、パートナーの事業グロースを担当。

聞き手:株式会社10X 取締役CEO 矢本真丈
丸紅株式会社、東日本大震災復興支援に取り組むNPO法人RCF復興支援チームを経て株式会社スマービーの創業を経験。2017年に10Xを創業し、献立アプリ「タベリー」をリリース(2020年クローズ)。2020年のコロナ禍にネットスーパー事業の垂直立ち上げをサポートするBtoBtoC事業「Stailer」を立ち上げ、複数のスーパーマーケット・ドラッグストアのパートナーへ展開。

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