有松を捉える視座 シリーズ01|観光とまちづくり/根尾文彦 先生
30年以上、旅行代理店で主に海外観光旅行の企画販売に従事した後、桜花学園大学で観光によるまちづくり研究をおこなう根尾文彦教授。学生と有松をフィールドワークで訪れてから随所に「質の高さ」を感じたと語る根尾教授に、有松の魅力を伺いました。
(本記事はバンベール有松が発行する『Life Archives Arimatsu vol.1より一部加筆修正を加えて転載』
──有松に関わりはじめたきっかけは
名古屋市内で生活をしていますが、大学に着任するまで有松は3-4回くらいしか訪れたことがありませんでした。当時は大学のそばにある桶狭間の観光推進まちづくりに協力していましたが、2017年に有松まちづくりの会会長に声をかけられ、以降は学生ともども有松に関わり始めました。
2017年からNPOコンソーシアム有松の一員です。前職の入社時はインバウンド観光に興味があり、日本の魅力を海外に知ってもらいたいと思っていたのですが、今は観光を通じたまちづくりがライフワークになっていますね。
──観光を通じたまちづくりへとは
有松にあるさまざまな地域資源を活用して、交流人口を増やし、地域の経済振興や文化交流など、住民が自ら持続的なまちづくりを実施することです。江戸時代から続く絞り染め産業や歴史的なまち並み、三輌の山車や季節ごとにお祭りなどが有松にはあり、年間を通じて有松には20〜30万人程度の方が訪れていることが調査を通じてわかりました。
とはいえ、8万人前後の人が訪れる「有松絞りまつり」や、山車の運行を一眼見ようと地元内外から人が訪れる「有松秋季大祭」にどうしても来場者が偏っているのが現状です。年間を通じて一定の交流人口が生まれると、伝統工芸に従事する方を迎え入れたり、有松らしい飲食店などがもっと生まれるのではないかと期待しています。
──どのように観光と生活の適切な距離感を保つことができるのでしょうか
京都などは観光客と地元住民のあつれきが生まれ、『観光公害』が問題視されていますが、有松の規模ではまだ限定的なものだと思います。観光が大衆の消費的なものから、個々人の体験や交流へと主眼が移っていく中で地元のひとこそ地域文化を楽しんでもらうことが大事でしょうね。
やはり、有松という地域の特徴は絞りの伝統産業が生業として残っており、その環境の中で住民が生活していることです。歴史的なまち並みがただ残っているわけではなく、暮らす人びとや訪れる人たちがおり、文化が少しずつかたちを変えながら受け継がれています。
だからこそ地元の人が誇りを持ち、外部の人にも魅力として映っているんです。絞り染めひとつとっても、浴衣の新しい柄や技法が生まれており、和装だけでなく洋服やインテリア用品が生まれていることからも明らかです。有松に新しく住みはじめる人には絞り染め体験や行事への参加を通じて、有松の魅力と出会い、どんどんと深掘りしていってもらいたいですね。
ブックガイド|有松がもっと魅力的に!?
通底しているのは補助金に頼り過ぎず、「地域自らが稼ぐ」という視点です。地元の人が半ば諦めていたようなエリアで屈することなく、活動を始めた著者たちは、地域資源を活用し、魅力的な人とテナントを呼び込み、経済的にも継続できる仕組みをつくることの重要性を指摘しています。生活者にも魅力があり、家族や友人を招きたくなるような活動や環境が有松でももっと生まれるといいですね。(根尾)
吉川美貴『まちづくりの非常識な教科書(主婦の友社)』
和田欣也、中川寛子『空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる 「がもよんモデル」の秘密(学芸出版社)』
大羽昭仁『地域が稼ぐ観光(宣伝会議)』
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