「私の内なるヒトラー」的判決を読む
2023年4月20日付『毎日新聞』朝刊対抗社会面「元外国籍理由で拒否 地裁、違法性認めず ゴルフクラブ入会訴訟」
取材のためにユダヤ人のふりをして名門ホテルの予約をしようとしたグレゴリー・ペック演じるルポライターが、フロントで予約を拒否される。どうしてだと質問するペック氏に出てきた支配人と思しき上等な背広を着た男性が「他のお客様が」云々と慇懃に改めて断ると、ペック氏は憤然として出口へ向かう。ロビーにいた金持ちと思しき利用客らはひそひそ話しながら眉をひそめて見送る――。最近視聴した1947年制作の米映画『紳士協定』のシーンを、この記事を読んで思い出した。
私はゴルフをしたこともゴルフ場に行ったこともない。だから判決理由にある「会員同士の人的つながりが強い閉鎖的かつ私的な団体」だから「平等の権利への侵害の程度は憲法の趣旨に照らし、社会的に許容しうる限度を超えるとは認められない」というくだりが感覚的に理解できない。
「『君はゴルフやるか?』『やりませんね』と僕は答えた。『ゴルフは嫌いか?』『好きも嫌いも、やったことないですからね』彼は笑った。『好きも嫌いもないなんてことはなかろう。大体においてゴルフやったことのない人間はゴルフのことが嫌いなんだ。決まってるんだ。』」(村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス(上)』講談社文庫、2010年、pp.398-399)まあたしかに、そんな感じだ。
津地裁四日市支部判決は「私的団体であるゴルフクラブが元外国籍(男性は元韓国籍で2018年に日本国籍を取得)であることを理由に入会を拒否することに違法性はない」と判断した。男性は控訴する方針だという。外国では例えば空港の入国審査窓口を「EU内」と「域外」に分けるというのはある。それは国籍で分けており明快だ。ところがクラブ側は「元外国籍を含む外国籍の会員の枠に空きがないためすぐに入会することはできない」と男性に述べたのだという。この男性は日本国籍所有者であるから外国籍ではない。ではいったい、「元外国籍を含む外国籍の会員枠」というのは何なのか。
再び、映画『紳士協定』で支配人のいう「他のお客様のご迷惑になる」という理屈が浮上する。「外国人」が増えるとそれ以外の客が嫌がり利用しなくなることを恐れているというのだ。そして実はそういう態度をクラブに取らせてしまう一般会員たちの差別と偏見こそが問題の本質であるにもかかわらず、そして司法は本来、そこにこそ問題の本質があることを指摘すべきであるにもかかわらず、「私的な団体」だから原告がいう「法の下の平等を定めた憲法14条に抵触する」とまではいえず、違法性はないのだと結論付けた。村上春樹的にいうと、「やれやれ」である。
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