始まりの炎。
燃え盛る炎。
漂う生臭さと鉄と肉が焼ける特有のものと入り混じった匂い。
泣き喚く幼子の声。
硬質な物が軟質な物を切り裂く音。
ここは、ここまで地獄だっただろうか?
瓦礫の中、其れを泣き叫ぶ事も、逃げる事も、抵抗する事も出来ず、ただ呆然と幼く大きい蒼い瞳が其れを見ていた。
「ーっ、逃げるぞ!!立て、数魔(かずま)!」
名を呼ばれても立てない少年の手を無理矢理引いて彼は走り出す。
「アイシア!やめろ!死ぬぞ!」
「ヤダァ!パパとママがここにいるの!離して御尊(みこと)!」
「逃げろって言われただろうが!生き残らないとダメなんだよ!」
瓦礫の山の前で愚図る少女を抱え彼女は数魔の隣に連れて来られると堰を切ったように泣き喚く。だが、そっとしておく余裕なんて存在しない。手を引きまた駆け出す。
「…っ!」
手を引いていた彼が息を詰まらせある瓦礫の山の前で蹲る人影に走り寄る。
「…ねぇ兄ちゃん。手伝ってよ。父さん達ここにいるんだ」
「バカ言え社(やしろ)、早く御尊の言うことに従って逃げろ!」
瓦礫の下から、普段は心地いいと思ってた男性の怒鳴り声が響く。
「…っ、ごめ、ん」
彼の目にもまた涙は浮かんでいた。然し、瓦礫の下の男性を見捨て、駆け出した。
唯只管、この場から4人で脱出する為に炎から離れる。
「…どうして?なんで?」
呆然としたまま、呟きを漏らす。
ーこれが自分達の本質とでも、思わないといけないのか?
瓦礫の下敷きになり潰れ、最早原型がわからなくなってしまった両親だったもの。瓦礫が腹を突き破り百舌の早贄の様に宙吊りになった見慣れた人。全身が煌々と燃え、顔すら判断出来ないもの。
ーこれは、本当に起きるべき惨劇だったのだろうか?
蒼い瞳から、涙が一つ溢れ、そして消えた。
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