【65点】村上春樹東京奇譚集あらすじ
はじめに、ここで書くあらすじはあくまで詳細なあらすじであり、読者と本作のミスマッチを防ぐためのものである。
1. もくじ
偶然の旅人
ハナレイ・ベイ
どこであれそれが見つかりそうな場所で
日々移動する腎臓のかたちをした石
品川猿
2. 内容まとめ
偶然の旅人
村上春樹の体験した偶然の共有。いい感じのジャズバーで最後の二曲にマイナーだけどこれ聞きたい!と思ってたその二曲が偶然そのまま演奏されたこと。ジャズレコード「10to4」購入後、通りすがりの人に時間を聞かれて腕時計をみて機械的に言った時刻が「10to4」だったこと。そして村上春樹の友人のピアノ調律師の偶然の話に移る。彼の偶然は姉とほくろの位置が同じ女性が乳がんかも疑われた時、姉も乳がんの手術をすることになっていたこと。その女性と出会ったとき、同じ本を読んでいたこと。
ハナレイベイ
サーフィン好きな19歳の息子をハナレイ湾で亡くした母の話。サメに右足を食いちぎられショックで命を落とした息子を供養するように毎年湾に訪れる母。ある年ハナレイ湾で出会った日本人大学生2人組が「(母)の隣に片足のちぎれた大学生くらいの男の子がサーフボード持って立ってる」という。そのサーフボードの特徴やちぎれた足の位置はまさしく息子そのものだった。
どこであれそれが見つかりそうな場所で
24階と26階の間で突然消えた夫の話。金を受け取らず操作をする主人公は失踪の生まれる時空の歪みを探す。有力な手がかりは全くなく、突然仙台で発見された夫は20日分の記憶を喪失していた。
日々移動する腎臓のかたちをした石
人生の中で本当に意味のある異性は3人しかいない。父親から言われた言葉をかざしながら目の前の女性をカウントするか考える小説家主人公。主人公の書く小説に出てくる女医は出勤すると毎朝位置が変わっている腎臓の形をした石と対話するようになる。主人公の恋が終わったとき女医の石も消える。
品川猿
自分の名前だけを忘れる病にかかる主人公。10回程度個人カウンセリングに通うと、あなたの名前を盗んだひとがいる、と言われる。出てきたのは猿。学生時代の名札を盗まれたことにより名前を忘れやすくなっていったというのだ。
3. 総評
純文学の扱いを受ける村上春樹であるが、この短編集ではどうにも純粋な理解に苦しむ道理が通っておりいささかファンタジーみを感じた。
そもそも純文学は重松清や小川洋子などのなんの変哲も無い「魔法がかからない」文章の積み重ねであり、そう見ると村上春樹の問題解決は自由度が高い。
その自由度の高さとそれが許されることに不快感を感じることもあった。小説を読み進めていくうちに読者は物語に何らかの欲望を押し付けることが多々あると思う。例えば感動したい、泣きたい、共感できることを証明したい、異業種の専門知識に触れたい、推理を当てて作者に勝ちたい、どんでん返しでおったまげたい、など。それが、今回この短編を読んでいくと、村上節を理解するのに精一杯で振り返ると何も残っていないような、虚しさが残る。もちろん全く何も満たせていないわけではない。恥ずかしながら、私は教養がなく語彙が著しく少ないが、今回「クリスプなソロ」という表現に初めて触れ、ジャズも少し聞いた。しかしやはり理解が追いつかないのか深読みができないのか、物語に価値を見出せないのである。
節々で見られる持論の展開は理解に時間のかかることもあったが疑問や反抗心生まれなかった。【形のあるものとないものを選ばなくてはいけないとき、形のないものを選ぶようにしている】というのは特に印象深かった。己の経験にはそのようなことで思い当たるものはなかったが、必ず死ぬ人生を生きる中で、それは正しいような気もした。