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【ポケカ】楽園ドラゴーナ 見どころ・テーマ紹介

はじめに

やめとーくです。Hレギュではパックのコンセプトや個別のカードの個性が強烈になり、わざわざ解説する意義が乏しいと感じていたのですが、楽園ドラゴーナは「シールド戦パックにしては味が濃い」ぐらいの塩梅で、これが実にちょうど良かったためこの記事を書くこととなりました。前半で個別のカードについて触れ、後半で「常夏の楽園」と「ドラゴン」と「たねポケモン」3つのコンセプトについて考えます。



個別カード紹介

ウガツホムラ

「炎上突撃」で古代の命名規則を遵守しています。タケルライコの「落雷嵐」で漢字四文字の法則が崩れ、「巨躯雷轟(仮)」じゃなくて「極雷轟」だった説が復権しました

古代と未来という2つのカテゴリは、もちろん本編のパラドックスポケモンに由来しているわけですが、このパラドックスポケモンというのは全て、チヲハウハネに対してテツノドクガ、トドロクツキに対してテツノブジン、のような形で古代と未来でペアを作って存在しています。これがさらにポケカでは古代と未来でペアを作って収録され、(イダイナキバexとコライドンexが古代でないならテツノワダチexとミライドンexも未来でない、のように)古代と未来の対称性を保持する形でカテゴリが付与されている……つまり本編時点での対称性がポケカにまで保存されているということです。そしてグッズ・サポートも種類数が同じなので、古代のカードと未来のカードの総数は等しくなっている……はずでしたが、大地の器URのせいで今は古代の方が多いです。

ともかくこれまでの古代と未来の傾向と異なりウガツホムラは未来のペア相手なしに単独で発表されており、これまでの規則性を揺るがす存在です。本パックのドラゴンテーマが影響しているのでしょう。シールド戦で本来以上に力を発揮するテキストといい、実にこのパックらしい一枚です。

(2024/9/5追記)
テツノカシラが公開されました。いるのかよ!!!!!騙された!!!!!
ただウガツホムラが単独で早くに情報公開されたことは変わらず、ドラゴンポケモンの存在感をより強くする意図があったのではないでしょうか。

クレッフィ

クレッフィ、またシールド戦のドロー枠をやってる……
自分にとってクレッフィとはトリプルの両壁いば神秘ですが、ポケカでも一貫して小粒補助ポケモンをやっており、HPは最大でも70。3エネ以上の要求をしたことがなく、50以上のダメージを与える術がありません。屈指の細腕ポケモンです。

「カギをかける」イメージからかポケモンのどうぐになって味方を守ることが多く、いたずらロックで初めて正統派(?)なロック能力を持ったクレッフィですが、今回のクレッフィは性能的にもフレーバー的にも摩天パーフェクトの系譜です。今回はアンロックと異なり手札コストが必要なので、それを山札をアンロックするための鍵穴にさしこむカギになぞらえて「さしこみドロー」となっているのでしょう。

非ルールたねの相場では無色1エネでノーダメージ2ドロー、有色1エネで2ドロー&20ダメージが基本ですが、ワザを1つにする縛りによって出力を底上げしています

アンロック当時は「ふーん」ぐらいの反応でしたが、こうやってクレッフィが実績を積み重ねることでドローと「鍵を開けること」の結びつきが強まり、フレーバーが形成されてきています。新しい言葉が定着するときって、きっとこんな感じなんだと思います。

カジッチュ

今度の「ころばす」は20+30!

「ころばす」は旧裏のプロモのディグダが初出の技ですが、LEGENDあたりから急に「素点よりもコインによる追加ダメージの方が多いがち」という個性を持つようになりました。

おそらく「ころばす」は「足元を攻撃・つまづかせ、素点を与える」→「コインで相手が実際に転ぶかどうかの成功判定を行い、表なら転んだ分の追加ダメージを与える」という技であり、転ばせるための攻撃によるダメージよりも転んだことによるダメージの方が大きいのが妥当だと判断されているのでしょう。まあそうでしょうね。

モトトカゲex

ジルとコニアにニアミスしています(ジルコンとジルコニアは別のもの)

「ジルコンロード」の要求エネはモトトカゲのドラゴン時の要求エネである草と悪のうち本パックに入っている草+コライドン・ミライドンのドラゴン時の要求エネである炎と超で構成されています。もともとモトトカゲは移動としてのドローを行ってきた歴史があり、これをステラとして発展させた技となっています。上技の「ブレイクスルー」も結局は「かけぬける」なので、地を駆けるモトトカゲの個性が存分に生かされた、完成度の高いカードといえます。

本編のコライドンなんてほとんど炎タイプみたいなもんですからね。
ミライドンもサイバーなイメージが超に合っており、何より炎と超で色がスカーレットとバイオレットになっていて納得感のあるタイプ設定です

パックコンセプト

ここからは「常夏の楽園」と「ドラゴン」と「たねポケモン」3つのコンセプトを解説していくのですが、「たねポケモン」については説明不要だと思います。ラティアスexが逃げエネをなくし、ナゲツケサルがたねポケモンを参照して殴り、これに対して反たね勢力のアローラナッシーexやルチアのアピールがたねを潰しにかかる。これまでのシールド戦パックで明示したりしなかったりしつつ伝説や幻のポケモンが頻繁に登場していたのがメカニズム的テーマにまで登ってきた形です。「たね」でカード検索すれば全貌が見れますので、たねポケモンの話はここで終わりにして他の2つのコンセプトに移りましょう。

常夏の楽園

我々はまず、「楽園ドラゴーナって『楽園の守護竜』のことじゃないの!?」という困惑に向き合う必要があるかと思います。しかし楽園ドラゴーナを冠しながらミラコラが一切出てこないことは、レイジングサーフのことを考えれば変な話ではありません。レイジングサーフ……サーフゴーが一応パッケージを飾っていますが、パッケージの中心はガブリアスで、サーフゴーにレイジング要素がない一方でガブリアスはレイジング闘魂要素とサーフ激流要素を備えていて、パック名の75%を担っていると言っていい主役ぶりです。

パックテーマとしては(うっすらとした)いわゆる夏概念といった感じで、サーフゴーという本編要素を少し借りながら好き勝手やる、というのが去年のシールド戦パックだったわけです。楽園ドラゴーナもまた、楽園という本編のワードだけ借りつつ、南国の楽園というスライドさせた概念をテーマとしたわけです。
一方でただ楽園というワードだけを借りたかというとそうでもなく、ちゃんと関連の線が繋がってはいます。そもそも楽園の守護竜とは古代/未来と現在のポケモンが仲良く暮らす楽園を守護する存在であり、この楽園とは テラパゴス-テラスタル-タイムマシン の力の及ぶエリアゼロです。一方でブルーベリー学園のテラリウムドームもまた、テラスタル関係のロクでもなさそうな物質が天頂に掲げられ、テラスタルの力が存在する、環境が完璧に整備されたある種の楽園です。そしてサバンナ・キャニオン・ポーラ・コースト各エリアのどれが一番楽園らしいかといえば、まあコーストエリアでしょう。コーストエリアが単に海岸というだけでなく南国・アローラ風味のビーチを備えた場所であり、アローラのすがたのポケモンを捕まえるイベントがあったからこそ、今こうしてアローラナッシーがパッケージになっているわけで、アローラナッシーもまた、テラスタルの力が満ちた楽園のドラゴンだったのです。

さて、「常夏の楽園」です。一番分かりやすいのはサーファーです。合わせてサーフゴーもこのテーマに認定していいでしょう。というかサーフゴー、これまでの登場パックがレイジング「サーフ」、シャイニー「トレジャー」ex、そして「楽園」ドラゴーナとやたらパックのコンセプトに合致しています。これからも夏パックが来るたびにその姿を見せてくれるのでしょうか。

サーファーを「常夏の楽園」テーマ由来だと断言できる根拠はその名称・イラストですが、これとは異なりテキスト部分の違和感からテーマに準拠したカードを見つけることもできます。Hレギュ初のベイビィポケモン(広義)であるムチュールはその一つです。

そもそもHレギュでベイビィが全然出てこなかったのはなぜなのか?直接的には「クリムゾンヘイズでヒスイウインディを出してしまったから」なのですが、ことの発端はSM期まで遡ります。

SM期はポケカにおいて複雑さの許容度が大幅に引き上げられた時代で、「0エネ技」「広義ベイビィポケモン」が再登場しました。
0エネ技はDPで登場し、ベイビィポケモンのほとんどとその他多くのポケモンが持っていたメカニズムで、LEGENDでベイビィポケモン専用の存在になり、その後途絶えていましたが、SMでアローラの姿の個性として復活しました。
一方でベイビィポケモンも、推測ですが「特定のポケモンが十何年もカードにならないのは良くない」というトップダウン的要請によって復活することになりました。ベイビィポケモンは登場のたびにその特徴が変わってきましたが、SMに限っては特に、直前の登場であるLEGEND(ついでにDP/DPtも)の特徴をそのまま持ってくることができませんでした。すでに0エネ技がアローラの姿特有のメカニズムとして存在する以上、ベイビィポケモンが0エネ技を持てばいたずらに混乱を呼んでしまいます。おそらくはこれを理由にSM期ベイビィは、実質的に「ベンチでも使える0エネ技」として機能する特性を持つポケモンとなったのです。

SM期に複雑を極めた(これは嘘で、本当に複雑を極めた時代は他にある。「複雑さの極大に達した」なら言ってもいい)ポケカは剣盾に入り、単純化に舵を切りました。0エネ技は消滅、「ガラルタチフサグマ」なる珍妙な文字列を生み出してまでカテゴリ化したガラルの姿は特に何の特徴もない一団になり、ベイビィも当然消滅、一時期はドラゴンタイプすら登場しませんでしたし、フェアリータイプはそのまま帰ってきませんでした。
一方で剣盾シリーズ内で見れば時とともに複雑化は進み、ドラゴンは弱点を消して帰ってきましたし、LEGENDSアルセウスを扱う3年目のFレギュレーションにて、ヒスイの姿の特徴として0エネ技が再び登場しました。キャプテンやキング・クイーンの存在などアローラとの共通点が多い地方ですから0エネ技が特徴なのも納得ですね。
……ここまでは平和だったのですが、ここから話がややこしくなってきます。強化拡張パック「Pokémon GO」の発売です。0エネ技がヒスイの姿の特徴として存在している時代に、アローラの姿を出さなくてはならなくなったのです。ポケカサイドにここでアローラの姿を出すメリットはないので、完全にGOサイドの要請でしょう。ポケカ側の選択は、「逃げ」でした。

背の高さを買われてHPが240だったり、ブンブンスフェーンにも繋がる首の長さを生かした狙撃であったり、アローララッタらしいサーチとラッタの十八番のいかりのまえばをガッチャンコしていたり、面白ポイントはちゃんとあるカードたちでしたが……

そもそも当時SM期のカードは全てスタン落ちしているわけで、アローラの姿と0エネ技の結びつきは過去のものです。今後アローラの姿が出るわけでもないですから、ここで0エネ技を持つポケモンの条件を崩してもいいことはないと判断したのでしょう。
そして強化拡張パック「Pokémon GO」から3ヶ月後。

出るのかよ、0エネ技で。
美しさをテーマにした「白熱のアルカナ」の看板として登場したアローラロコンVSTARは、上下ともに平然と0エネ技を持っていました。美しさのヒスイ代表として0エネ技を持つヒスイドレディアも収録されているため、一つのパックの中に0エネ技を持つアローラの姿のポケモンと、0エネ技を持つヒスイの姿のポケモンが同居していることになります。奇妙な事態です。
この僅か3ヶ月でのアローラの姿の扱いの変化は、ずばりその3ヶ月の間に起こったことが理由だと考えられます。「ロストアビス」の発売です。

「ロストアビス」はロストゾーンをメカニズム的テーマ、現代オカルトをフレーバー的テーマにした(こっちは自分が勝手に思っているだけ)パックで、テーマを構成するポケモンもギラティナ以外ヒスイと縁がありません。トレーナーズからもヒスイ要素が排されていますし、ヒスイの姿のポケモンは1枚も収録されていませんし、何ならガラルの姿のポケモンが2枚もいます。明らかに、世界をヒスイから現代へと引き戻す意図が込められているのです。

道路・ビルの隙間・窓などが異空間に繋がる現代の街を描いたスタジアム「ロストシティ」が、
ロストゾーンを用いるポケモンたちとともに「ロストデザイン」としてグッズ化されています

「Pokémon GO」もまた、現代……というよりも現実世界を舞台にしたパックではありましたが、直前のパックがヒスイ要素100%の「ダークファンタズマ」であることを考えれば、「ヒスイ特集をやっている間に出たコラボパック」という立ち位置と考えるのが適切でしょう。一方で「白熱のアルカナ」は堂々たる拡張パックである「ロストアビス」によってヒスイ地方の特集が終わり、0エネ技とヒスイの姿との結び付きの重要性が低下した後の発売です。「白熱のアルカナ」の次の「パラダイムトリガー」に収録されたヒスイの姿は2枚、うち0エネ技を持つのはヒスイウォーグルだけで、ヒスイの姿・0エネ技は既にパックの中心を退いているわけですね。存在感としては最近1パック1~2枚だけひっそり出ているパラドックスみたいなものです。この差がアローラの姿のポケモンに0エネ技を持たせるか否かという違いとして表れたのでしょう。

長くなりましたが、「0エネ技はアローラとヒスイという異なるテーマの間で共有されたため、混同されないよう慎重な扱いがなされた」とだけ覚えてください。

そしてSV期にて、0エネ技と結びついた、新しく古いメカニズムが登場します。ベイビィポケモンです。

SV期ベイビィはHP30、技は「AAB」という構造の名前の0エネ技が1つ、逃げ0のポケモンとなっています。ちっちゃくてかわいいですね。エネルギーをつけずに使うという点ではDP~LEGENDおよびSMのベイビィの流れを汲んでいます。

ところで先ほど、「SM期でベイビィが0エネ技でなく特性を持っていたのは、アローラの姿のポケモンが0エネ技を特有のメカニズムとして持っていたからだ」と述べました。SVでは逆にベイビィが0エネ技を占有したことで、パルデアの姿のポケモンが0エネ技を持てなくなったということになります。これは大した問題ではありません。ケンタロス・ウパー・ドオーしかいないパルデアの姿に共通の特徴があったところで何もメリットはないでしょう。何よりもっと大きな問題があります。ゲームフリークの刺客、サザレとヒスイガーディの登場です。ナイアンの次にはゲーフリから厄介事を持ち込まれてる……。

正直、「ヒスイの姿といえば0エネ技?いやいや0エネ技を持たないヒスイの姿も結構いたし、何より今の0エネ技はベイビィの専売特許ですが……」とすっとぼけても良かったと思いますが、ヒスイガーディ・ヒスイウィンディは揃って0エネ技を持つことになりました。自分としてはその方がヒスイの残り香を感じられて嬉しいですが、代償はしっかり生じました。Hレギュレーションでは、ベイビィポケモンがすっかり収録されなくなってしまったのです。私なんかは「これHレギュ通してベイビィが一切出ないっぽいな」と思っており、そのことに言及した2日後にムチュールが発表されました。そんな……。

実際にはこうしてムチュールが世に出たわけですが、Gレギュレーションでベイビィが初登場した黒炎の支配者はSV3ですから、楽園ドラゴーナのSV7aというタイミングは年内のサイクルで見ると昨年より遅くなっています。明らかにヒスイガーディ・ヒスイウインディとベイビィを隔離する意図があると見てよいでしょう。剣盾でのヒスイとアローラの隔離と比べてずいぶんと厳重ですが、これはヒスイとベイビィが混同された際のデメリットが大きいのが理由でしょう。アローラなら最悪「ヒスイと同じノリでアローラってのがあるんだな」「ポケモンの名前の前に何かついていると0エネ技を持つんだな」で済みますが、ベイビィだと「このヒスイウインディって奴はなんで成長してもベイビィみたいなことをやっているんだ?」「このピィって奴はヒスイガーディと同じ昔のポケモンなの?」になりかねませんから。

このヒスイとベイビィの隔離ですが、隔離期間が長いほど効果は連続的に増大するでしょう。何ヶ月、何パック離せば大丈夫というものはなく、ヒスイガーディ達の登場と次のベイビィの登場は、近ければ近いほど悪いし、遠ければ遠いほど良い。ムチュールの登場は、遅ければ遅いほどメリットが大きいのです。ではなぜ、このタイミング、「楽園ドラゴーナ」でムチュールが、Hレギュ初のベイビィポケモンとして登場したのでしょうか。


なぜベイビィポケモンがこのパックで復活したのか。なぜベイビィポケモンの中からムチュールが選ばれたのか。答えは「ぼっち・ざ・ろっく!」の中にありました。

楽園ドラゴーナのコンセプトの一つに「常夏の楽園」があります。
そして、「常夏の楽園」に欠かせないものとしてロマンスがあります。
ムチュールは「キスするポケモンである」という特徴を活かし、
𝓽𝓻𝓸𝓹𝓲𝓬𝓪𝓵𝓵𝓸𝓿𝓮 𝓯𝓸𝓻𝓮𝓿𝓮𝓻𝓴𝓲𝓼𝓼…要員となったのです。

そんなわけがないだろって?でもレイジングサーフのベイビィ枠はタマンタでしたよ?

これはサーフ要員じゃないんですか?シールド戦のベイビィポケモンにパックコンセプトが反映された前例はちゃんとあるんです。四災×七つの大罪サイクルでは色欲から逃げたポケカが、常夏の楽園テーマではロマンス要素を巧妙に取り入れた。素晴らしいことじゃありませんか!

……ムチュール1枚の話がずいぶん高カロリーになってしまいましたが、最後に「サイクルの一部だけを抜き出すことによるテーマの強調」の話をします。ポワルン(太陽の姿)とウェーニバルです。

ロトムは最近各フォルムがパラパラと出ていますが、これまで通常以外の姿のポワルンが単独でポンと収録された前例はありません。これによってポワルンは「常夏の楽園」の太陽要員・晴れ要員なのだとはっきりします。

次にウェーニバルですが、普通に考えて今をときめくパルデア御三家をこんなサラッと単独で出していいはずがありません。ワイルドフォース・サイバージャッジの時は、過去作御三家でさえ曲がりなりにも即席のサイクルを組んでいました。「ひかる伝説」では映画要素かつ現世代要素のガオガエンを含んだ即席サイクルがありました。なんかメンバー似てるな……。

わざわざパターンを崩して単独で収録されたのは、ウェーニバルがサンバ要員として楽園テーマに貢献してくれるからでしょう。「ブラジルは良くてメキシコとイタリアは駄目なのかよ」というツッコミは甘んじて受けます。やっぱこう……「南国」のパブリックイメージが適用される境目ってその辺じゃないですか?

ドラゴン

楽園ドラゴーナの公式キャッチコピーは「きらめくドラゴンポケモン集結!」だそうです。

公式のコピーがパックコンセプトを考える上で役に立つ例は意外と多いのですが、ここで巧妙なのが「ドラゴンタイプ」だとは言っていないところです。これによりワタル式の「ドラゴンタイプではないがドラゴンポケモンである」という主張が可能となります。摩天蒼空のときの「究極のタイプ ドラゴン登場!」とは違うのです(いつ見ても面の皮が厚すぎるだろ)。

拡張パック「摩天パーフェクト」と「蒼空ストリーム」から、「ポケモンカードゲーム ソード&シールド」シリーズにドラゴンタイプのポケモンが登場!
本商品から収録されるドラゴンタイプのポケモンには弱点がないため、どのタイプのポケモンに対しても不利にならずに戦うことができる。また、複数のタイプのエネルギーで使える強力なワザを持っていることが特徴で、ドラゴンポケモンらしい強靭さや、多彩な攻め手を持っている。

強調は筆者

すごいですよね。「SMにもドラゴンタイプがいたし、別にこのパックが出た時点でスタン落ちしているわけでもない」という事実に一切触れずに、嘘だけはつくことなく新しさを演出しています。「本商品から収録される」が非制限用法と見せかけて制限用法になっていて、実際は「これまでのドラゴンタイプはフェアリー弱点だったが、本商品での収録からは弱点がない」なのに「本商品で初めてドラゴンタイプが収録され、それらには弱点がない」だと誤読を誘うんですね。何を犠牲にしても初心者に目線を合わせ続けるという覚悟を感じます。
ちなみに今気づいたのですが「複数のタイプのエネルギーで使える強力なワザを持っていることが特徴」の部分はめちゃくちゃ重要な記述で、その通りに当時のドラゴンタイプは必ず2つのタイプを同時に要求する技を持っていて、2つの技に要求タイプを分割するパターンが消えているんですよね。本当に、下手に自分で考えを巡らせるより先に公式サイトを読み込んだ方がいいですね。

楽園ドラゴーナに話を戻しましょう。きらめくドラゴンを集結!させつつ、シールド戦を崩壊させないようにするにはどうすればいいか?ドラゴン複合のポケモンをドラゴン以外のタイプで出して、実質ドラゴンということにするのです。

6種類のexのうち実際にドラゴンタイプとして出ているのはアローラナッシーだけですが、残りの5種類はどれも本編だとドラゴン複合です。ブラックキュレムは自身も一応ドラゴンでありながらドラゴンをメタっているのが面白いですね。「アイスエイジ」自体はユキノオーが持っていた技なのですが、ドラゴンの住まう常夏の楽園にアイスエイジを齎すの、なかなかにパックそのものをメタってる感じがして好きです。

この「ドラゴン複合のポケモンをドラゴンじゃない方のタイプで出してドラゴンを水増しする」戦略には前例があります。「ドラゴンストーム」です。こちらはGX4種のうち2種がドラゴンタイプ、残りの2種がレシラムGX(炎)とキングドラGX(水)となっています。このパックはドラゴンタイプをテーマにしつつも楽園ドラゴーナとの相違点が面白いため、せっかくなので紹介します。

「ドラゴンストーム」はSM特有の特定のタイプを強化する強化拡張で、炎・水・ドラゴンがその対象です。トレーナーズなんかはその100%が特定のタイプを参照する効果となっており、壮観です。

ここからはドラゴンタイプにフォーカスして話を進めます。トレーナーズに限らず、ドラゴンタイプのポケモンたちもドラゴンタイプを支援しています。踏み倒し、打点アップ、技の効果を防ぐ、エネ加速。

面白いのが、ドラゴンタイプを名指しでサポートしていても、別に多色をサポートしているわけではないところです。このパックには単タイプ要求のドラゴンタイプのポケモンが多く存在するため、多色を支援しても全てのドラゴンタイプをサポートしきれないのです。「ドラゴンストーム」は、進化ラインの都合でも非ドラゴンタイプ版が出る都合でもない、単タイプ要求の最終進化ドラゴンが解禁されたパックです。この辺の詳しい流れと現代への接続については、古代の咆哮/未来の一閃の記事のシャリタツの項の参照をお願いします。


さて、ドラゴンストームはポケモン42種中17種がドラゴンタイプなのですが、うち多色要求はわずか7種……ポケモン全体のちょうど1/6です。対して楽園ドラゴーナはポケモン64種中8種がドラゴンタイプ。その全てが多色要求で、非ドラゴンのステラが2種いるため多色の割合は10/64。ついでに「摩天パーフェクト」「蒼空ストリーム」どちらもドラゴンタイプ割合=多色割合=10/67となっています。おそらく開封時の印象・カジュアルプレイ上の問題など複合的な理由により、この辺りにパックにおける多色割合の上限が設定されているのではないでしょうか。


一方MTGは全カード(145/145)多色のパックを作った。

MTG、世界初だからやってみなけりゃわからない!と叫びながら見えている失敗に向かって突撃することが多々あります。


最後に、剣盾以降のドラゴンタイプのルールから外れたバクガメスを見てみましょう。上技で炎、下技で闘を要求しています。このようなエネ要求は剣盾以降のドラゴンタイプで初めてです。

技によって要求する色が分かれたポケモンは、古くはポケモンジャングルのタマタマから存在し、その理由は基本的に「上下が(本編で、またはフレーバー的に、あるいはメカニズム的カラーパイとして)違うタイプの技だから」でした。

一方でバクガメスを見てみると、上技は炎タイプの技っぽいですが、闘を要求して炎を要求しない下技も、「ばくねつスタンプ」と炎技感があります。フレーバー的に違うタイプの技を使わせたかったわけではなさそうです。一方でルールを守りたいなら(ディアルガと券面が似すぎる問題がありますが)「ばくねつスタンプ」の要求を炎闘無にすればいいだけの話で、チルタリスは似たような構成になっています。「ばくねつスタンプ」を闘要求で使わせたい理由とは…?などと考えているとドツボにはまるので、筆者はもう単純に「2つの技で要求タイプを分担するドラゴンタイプの試験的導入」だと考えることにしました。バクガメスのようなエネ要求は、どちらの技を目当てに採用するか、目当てでない方の技も撃てるようにデッキを構築するかどうか、といった選択肢を生み出します。上手くいくかは別として、その可能性があります。その選択肢を開発側が持っておかない理由がありません。ところが、このエネ要求は現在、ドラゴン以外では困難です。

バクガメスの色要求を普通のタイプで出すと、
テラスタルがアイデンティティクライシスに陥ってしまいます

リザードンexが「炎エネルギーで技を使える悪タイプ」だと自己アピールしている(もちろんリザードンexの強さの大部分はそこにはありませんが)横で、「自分悪炎の複合なんで悪の技も炎の技もあります、一応タイプは悪です」などとヘルガーが言い出したらどうでしょうか。テラスタルのコンセプトがブレブレになってしまいかねません。これらは(0エネ技を持つベイビィと0エネ技を持つヒスイのポケモンと同等に、あるいはポケカの看板たるRRが絡むわけなのでそれ以上に)隔離すべき2枚でしょう。

一貫して一致テラスタルなドラゴンタイプ。まあ「弱点をつけなくなる代わりに弱点がなくなるメカニズム」の虚しさヤバいですからね

一方でドラゴンタイプなら、(Hレギュになって不一致テラスタルが相性補完を行うというルールが崩れましたが)不一致テラスタルの変化先となることは未だなく、先述の問題は起こりません。単タイプ要求ドラゴンのシャリタツは今なお異彩を放っていますが、テラスタルと衝突しない変化球ドラゴンという点ではバクガメスが後継者だといえるでしょう。

シャリタツとバクガメスがポケカ史においてどんな立ち位置となるのかは、2024年前半が人類史においてどんな立ち位置となるのかと同じぐらい、予測が難しい問いです。先にも後にもない些細な例外となるのか、複雑化の時流を象徴する変わり種ドラゴンの先駆けとなるのか。これからのドラゴンタイプのあり方を楽しみに待ちたいと思います。いや別にどうでもいいかな……。


最後に今回の記事を大体まとめた画像と、収録ポケモンを世代別に集計したツイートを置いておきます。舞台がトロピカルめな3・7世代、ブルーベリー学園がイッシュ地方な5世代(あとジュラルドンとカジッチュ系統で数を稼いだ8世代)が多くなっていて、意外としっかりパックコンセプトを反映しています。


今回の記事は以上です。お疲れ様でした。


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