小説「女子高生の平穏じゃない日常」第1話全編
第1話全編「席替えは大抵希望通りじゃない」
「ゆりえさ、まじキモくない?可愛くないくせに男好きとか可哀想っちゃけどー」
授業の合間の休み時間、特段話のネタがあるわけではないが必ず後ろの席の私へ話しかけてくる。
若菜は基本的に他女子の悪口の同意を求めてくる。
彼女は美意識が高く、かなりモテる。そのため、自己評価も高く平気で他人の容姿を悪く言う。
「そうかなー、でもずっと男子といるね。」
私が曖昧に同意すると、始業の鐘が鳴るまでゆりえの悪口を捲し立て、満足げに前を向き古文の教科書を出した。
クラスメイトの悪口を言うことは、自分の立ち場を有利にする事に役立つ。そのため、若菜のようにあからさまに言う子もいるが、ほとんどは悪口とバレないようなプロパガンダを流しライバルを蹴散らしていく。
私はそんな姑息な事はしない。意味がないからだ。
だって、クラスの順位なんて明らかではないか。顔だ。顔が良ければそれだけで無敵。「可愛いは正義」と言う人がいるが本当にその通りだ。顔が良ければ全く喋らずとも上下関係を築ける。顔ほど明らかに優劣がつくものがあるだろうか。
教室では日々根も葉もない噂が流れているが、それらは可愛い子がどちらを信じるかで真偽が決まる、まるで独裁国家だ。なので決定権がない者がいくら騒いでも全くの無駄なのだ。
世の中の不条理を嘆いていたら先生の終業の合図で現実に引き戻された。古文の先生と入れ替わりに担任が教室に入ってくる。
「今日は月初めやけん、席替えするからね」
席替えはくじ引き方式なので完全にランダムだ。若菜の悪口を聞く日々から解放されると思うと嬉しいが、次の席への不安も大きい。
1番前の席なんかになったら私の平穏は完全になくなる。悪口を聞いていた方がマシだ。
クジを引く前に念入りに祈る。「18」、前から2番目の席だ。最悪は免れた。
若菜は「2」。「席変わらないとか、席替えの意味ないっちゃけどー。かなみと離れたし最悪」私と席が離れることを悲しんでくれているなんて、良いところあるなと離れて初めて気づく。
「席移動しない方が楽で良くない?それに意外と近いよ」若菜の席は私から3席右だ。近くはないがまあ遠くもない。
「おーーーい!18番の人誰じゃ?俺席空けて待っててやっとるぞ!早くこんかーーーい!」
うわ、呼ばれてる。よりにもよってクラス一のおちゃらけものの後ろか。急激に若菜の後ろの席が恋しくなる。
「ねえ、かなみ18番でしょ?あの人呼んでるくない?」若菜が同情気味にいう。
「うん…、最悪だ…。」
「大丈夫、辛くなったらウチの席おいで。ウチも授業終わったら遊びに行くから!」
ますます彼女が恋しくなる。こんなに優しい子だったのか。それなのに私は…
「おい!お前が18番だろ!席持ってっちゃるから、はよ来い!」耳元で叫ばれ不意をつかれた。驚いて何も言えずにいるとさっさと私の机を持っていってしまった。
「・・・若菜。私行ってくるね。」
背中で若菜の「ガンバ」を受け止め、新たな自分の席へ私は向かった。
「なあ!俺のこと知ってるやろ?」席へ着くやいなや大声で話しかけてくる。クラス中に響いているのではないかという大声だ。こいつは本当に私に話しかけてるのか?思わず周りを見渡すが皆それぞれ新しい席での関係づくり中だ。
「おい!こっち見んかい!お前以外おらんやろが!」畳み掛けてきた。もう逃げられない。
「ああ、うん、金山くんだよね」
「やっぱり知っとるやないか!なんで知らんふりすると?」
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