見出し画像

2月に読んだ本

2月も9冊読もうと思いながら過ごしていたはずなのに、月末を迎えるに当たりまだ数冊しか本が読めていない。きっと2月は28日までしかないからだろう。今月は仕方がない。目標を8冊にしておこう。とはいえ、読んだ本は数冊しかないのだから、あとはいつもどおり展覧会の図録とかアーティストの作品集を眺めることで8冊に算入させるしかあるまい。

ということで、2月の8冊を以下に記す。


▼『本の読み方』

「百冊挑戦」における2月の課題図書。本を読むのが遅い私にも優しい「スロー・リーディングの実践」という副題が付してある。読み進むと、随所で速読を否定している。遅読派としては小気味よい。読みながら傍線を引くのも肯定されている。思いついたことをページに記入することも良しとされている。気になるページに付箋を貼ることも認められている。自分の遅読に自信が湧いてくる。これでじっくり焦らず読書を楽しむことができる。良い本に出合えたものだ。ただし、この245ページの文庫本を読み終えるのに2週間もかかっているのはどうしたことか。1ヶ月に9冊読むなど夢のまた夢である。でも、スロー・リーディングでは「何冊読んだか」は問題じゃないという。そうだ。いいんだ。9冊読めなくてもいいじゃないか。そう主張する本が「百冊挑戦」の課題図書だったのだ。年間100冊読めなくてもいいじゃないか。ということで、2月にして早くも100冊を諦めかけている。スロー・リーディングで行こう!


▼『チョンキンマンションのボスは知っている』

先月の「百冊挑戦」でオススメされた本。香港で働くタンザニア人コミュニティの実態をレポートした本。危ない橋を渡りながらも、愛嬌のある登場人物たちが繰り広げる生活は魅力的なだけでなく多くのヒントを与えてくれる。よく読んでみると、個人事業主として独立した立場で働きながら、「ついで」を利用してお互いに支え合う仕組みを維持している彼らの生態は、弊社studio-Lの20人のスタッフたちの働き方に似ている。うちのスタッフたちも、それぞれが独立した個人事業主でありながら、自分の仕事の技術を教え合い、仕事を分け合い、ついでに助け合ったりしている。著者は京都在住の人類学者らしい。京都なら新快速に乗ってすぐに行ける場所だ。いつかお会いしてみたい。この人にstudio-Lの働き方を調査してもらったらどんな本ができるだろうか。


▼『現代美術』

アール・ヌーヴォーやアール・デコに強い海野さんと、美術批評家の小倉さんが共著でまとめた「アートとデザインの20世紀史」。アール・ヌーヴォーに始まり、フォーヴィスム、表現主義、キュビスム、未来派、構成主義、ダダ、シュルレアリスム、デ・ステイル、バウハウス、アール・デコ、ポップアート、パフォーマンス、インスタレーション、ミニマルアート、コンセプチュアルアートなど、各時代に特徴的だったアートの流れを解説してくれる。ただし、1988年に刊行された本なので、最終章は「1970年以降」とまとめられている。2021年に読むと、その後の50年間についても知りたくなる。とはいえ、1970年までのモダンアートの主要な動きについては、網羅的に理解することができてありがたい。


▼『二十世紀美術』

『現代美術』を書いた海野さんが、その後に同じ出版社から単著で出したのが本書。こちらは2012年刊行。気がかりだった1970年以降もしっかりまとめられている。前著と違うところは、こちらがきっちり10年ごとにアートの動向をまとめ直されていることだ。『現代美術』はキュビスム、未来派などアートの運動ごとに整理されていたが、こちらは1910年代、1920年代と10年ごとに整理されている。おかげで、同時代にどんなアートの運動が並行して進んでいたのかが理解しやすくなっている。この年表的な現代アートのまとめに、建築、ランドスケープデザイン、コミュニティデザインの歴史を重ねると、お互いにどんな影響を与えあっていたのかが理解できることだろう。いつかそんな本をまとめてみたい。


▼『アートになった動物たち』

1999年にパリで開催された展覧会の、日本巡回展の図録。20世紀のアーティストが動物を象った彫刻を集めた展覧会で、動物陶芸の参考になる形態がいくつも登場する。なかでも好きなのは、ポートランドの女性作家マグダレーナ・アバカノヴィッチがつくった「ミュータント」。なんの動物かはわからないのだが、おどろおどろしくもあり、愛嬌もあるような形態に惹かれる。ジョアン・ミロの鳥シリーズも好きなタイプだが、個人的にはもう少し何の動物なのかわからないところまでヌルヌルしたカタチになったものをつくりたい。とはいえ、ハンス・アルプくらいヌルヌルだと、眺めるのは好きだが自分がつくるのならもう少し具体的な要素を加えたいと思ってしまう。「自分ならどんな動物をつくるか」を想像するのが楽しくなる図録である。


▼『ルーシー・リーの陶磁器たち』

ウィーンで生まれ、イギリスで活躍した陶芸家、ルーシー・リーの作品と人物像を紹介する本。ルーシーの知人や批評家などが書いた文章が集められて邦訳されている。日本で陶芸を学んでイギリスへと渡ったバーナード・リーチからルーシーへの影響と、それを振り払うよう助言した18歳年下のハンス・コパーとの協働など、ルーシーをめぐるあれこれが様々な人の文章に綴られている。リーチとともにイギリスへと留学した民藝の巨匠、濱田庄司が、たぶんルーシー・リーに言い寄っていて、ルーシーは追い払うのに苦労していたのではないかと推察されるような文章も掲載されている。濱田さん、ちょっと困った人だったようですw。ルーシーのパートナーとして大きな役割を果たしたハンス・コパーは、もともと彫刻家を志していたが、ルーシーの工房で働くことにする。ルーシーが44歳、ハンスが26歳のときのことだ。18歳年下のハンスはルーシーから陶芸を学びつつ、次第にルーシーの作風に影響を与えることになる。私の陶芸の師匠は松井利夫さんで、ちょうど18歳年上である。これくらいの年齢差がこれからどんな関係性をつくりだすのかが楽しみである。


▼『50の作品でたどる芹沢銈介88年の軌跡』

静岡市にある芹沢銈介美術館を訪れた際、いくつか購入した図録のうちの1冊。芹沢美術館は1981年に、本人が86歳のときに開館した美術館。登呂遺跡の隣にあり、遺跡に関する博物館も隣接している。芹沢が晩年に過ごした家屋も移築されており、週末だけ公開されている。この近辺は、じっくり見て回れば1日楽しむことができる場所である。図録もすべて良心的な値段であり、芹沢の業績を多くの人に知ってもらうための公共的な役割をしっかり果たしていると感じる。図録の随所に静岡市との関係が掲載されているのもにくいところだ。芹沢は、自分が作ったものについてあまり語らない。語りたがらなかったらしい。そこで、代わりに美術館の研究者が芹沢の作ったものについて解説したのが本書だ。芹沢本人が語りたがらなかったものを、後世の研究者が語る意味はあるか?と問う向きもあろうが、私としてはこの種の図録があってくれてとても助かっている。50のキーワードで芹沢作品を解説しているが、それぞれが微妙に関連していて面白い。通読すると芹沢の人生を追いかけたような気持ちになる伝記的なまとめ方でもある。意外だったのは、芹沢が東京で住んでいた家が小規模で質素だったこと。1階は土間と20畳の応接室兼仕事場。2階は10畳が2間のみ。「僕の家は農夫のように健康で、平凡です」という芹沢の言葉が染み入る。私もそんな家を建ててみたい。


▼『美しいもの』

町田市の鶴川にある「武相荘」を訪れたのをきっかけに、白洲正子に興味を持った。兵庫県芦屋市に暮らす者として、同郷の白洲次郎は気になる存在だった。やっかいな人間だっただろうなと思うけど、生き方自体に興味深い点がたくさんあることも認めざるを得ない。とはいえ、持ち物や飲み物の趣味については全く共感できない。その点、正子のほうは持ち物や食べ物の趣味に共感できるものが多い。また、彼女が読んでいた本も興味深いものが多い。武相荘にある正子の書斎に並ぶ蔵書のなかで、ひときわ目を引くのが『日本の歴史』。『日本の名著』『日本文学の歴史』、そしてフロイスの『日本史』。日本の歴史に関する本が多い。しかも、あまり難解ではないタイプの歴史本ばかりだ。せっかく日本で生活しているんだから、この国に存在している歴史を楽しまなくちゃ損だな、と思わせてくれる蔵書群である。しかも、彼女がそこから見つけ出してくるのは、将軍や武将や革命家による、マッチョな「大文字の歴史」ではなく、身の回りに存在する美しいものの歴史である。本書を読むと、日本には私がまだ目にしていない美しいものが山程あるということがわかる。それも、日本の歴史を知った上でみればその良さがより感じられるというものがたっぷりある。これを楽しまずに生きるのはもったいない。本書の後段に、『芸術新潮』に依頼されて挙げた「日本の百宝」が列挙されている。法隆寺夢殿の救世観音損に始まり、平等院鳳凰堂、桂離宮、修学院離宮、正倉院などなど、勢い余って101の宝を挙げてしまっているが、その多くが奈良や京都など西日本にある。せっかく兵庫県に暮らす身なのだから、無理にでも時間を作って各所を巡ってみたいものだ。巡るにあたっては、事前に日本の歴史に関する本を読んでいたほうが楽しむことができるだろう。来月は日本の歴史に関する本を9冊読んでみようかな。

いいなと思ったら応援しよう!