インド・カシミールの歴史 (ラージャタランギニー)#2-4
62. その後、ほかの血筋に生まれた者が、王となり、この、最勝(vijaya)が八年間治めている間に、都を満たすほどの大きさの、最勝の主シヴァ(vijayeśvara)の寺院をつくった。
63. この、大地の主である、地上の大インドラの息子は、勝利のインドラ(jayendra)と言い、この地を、膝まで届く腕で、広く名声を愉しんだ王であった。
64. 揺るぎない高名は、幸福の波となって揺れ、優美な絹の衣を波打たせ、燃えるように輝いて、その柱のような腕が、運ぶのは、沙羅双樹で掘った、勝利の女神シュリーの像だった。
65. この王の元に、驚くほどの知恵を極め、シヴァへの崇拝に彩色されることで、知られた、信心をまとめた者(saṃdhimati)という名前の宰相がいて、才賢たちの中から選ばれた者であった。
66. 戦略のない者は、たとえ輪廻(saṃsāra)を繰り返しても、悟ることができないように、この大地の守護者は、発情して牙を出した象のように、耳に吹き込まれたことを払うことができなかった。
67. 「思いもよらない驚くばかりの思慮を持つ者は、恐れるべきです、それが彼です」と、取巻きに吹き込まれて、大地を愉しむ者は、この賢で鳴る大臣に対する嫌悪を、抱くようになった。
68. そば仕えを禁じたのち、王は怒りを以て、この大臣に、理由も説明せず、その全財産を奪い、生活を貧困に追いやった。
69. この大臣が、大地の主の敵視という、真夏の熱を受けて、干上がり萎む間に、王の家臣たちは、情報を得ることすらできなくなっていった。
70. 王に進言する者たちが、地上を抱く者の、話すことの深い意味を把握しようと、言われたことに、注釈をつけて繰り返す様子は、地上を抱く山の、奥深くに隠された言葉が、こだまとなって現れたようだった。
71. 大臣はしかし、王に遠ざけられ、貧困に落ちたことには落ち込まず、横やりが入らない喜びを良しとして、シヴァの信仰に身を捧げた。
72. すると、彼の来たるべき功徳の偉大な力によって、あらゆる家々に、現れた、聞いたこともない天の声サラスヴァティーが「王位は、信心をまとめた者(saṃdhimati)のものとなるだろう」と告げていった。
73. 「噂話というものは、広まるのにゆっくりということはありません」と、信頼する者たちに耳打ちされると、人の守護は、すっかり信じて怯え、彼を牢屋に入れてしまった。
74. そして、その強力な鉄の鎖につぶされた足が、血の気を失っていく間に、十年が経って、大地の主の命に、終わりのときが訪れた。
75. 息子がいなかった、この、地上の守護者は、死を望むほどに、焼けるような熱を出し、重病が表に現れ、つぶされるような思いの中で、大臣のことを考えた。
76. 熱に浮かされた心の内で、憤怒の火に焼かれながら、夜も眠れず、彼を亡き者にしないと、未来の約束に抗うことはできないと思った。
77. 来たるべき功徳を、悟ることのない者たちが、密かに策略を用いようとすれば、むしろ、天の定めるところに相応しい結果へと、扉を開くことを知るべきだ。
78. 燃え盛る、カダムの木の木炭にある、爆ぜた火花の目覚ましい熱に、創造主が、その火で穀物にゴマの火を点して、並ぶ者のない力を与えようと、強引にことを進めれば、それを消し止めたいと焦った、人間は、近くにあるものを手にしたときに、水がめの水と間違って、サルピス(澄ましバター)の壺を出して、逆に、大量の火を燃やすことがあるものだ。
79. そして、王の命令によって、不吉な、死刑執行人たちがやってきて、夜が来ると、信心をまとめた者(saṃdhimati)を、鋭い槍で、刺し殺してしまった。
80. 彼を杭のような槍で刺したと、聞いたとたん、地上の主の激怒と恐怖は、最初に去っていき、最後に残った、病気に引き裂かれた命もまた、去っていった。
81. 彼の三十七年の在位が過ぎたが、子供がいなかったので、地上の守護者が、死んでしまうと、この地に、幾日かの日が、無為に経っていった。