インド・カシミールの歴史     (ラージャタランギニー)#1-10

263. 耳福(suśravas)の身近な妹の、安らぎ(ramaṇyā)という名のナーガは、山の深い洞穴から、兄を助けようと、岩を大量に手にして、向かってきた。

264. 彼女は、まだ街道にヨージャナの距離が残るところで、はらからである兄が、なすべきことをなしたと聞いて、周囲の荘園に、石を雨と降らせて、去っていった。

265. その後、荘園を抱える(grāmadharā)という荒地から、五ヨージャナのところに、できたのは、この安らぎ(ramaṇyā)がやってきた跡だという、大きな岩石の、穴の遺跡がある。

266. 恐るべき、人々の破滅を発生させたことに、夜が明けると、蛇でさえ、良心の呵責を負い、世上の非難の言葉に落胆して、居場所を去ると、向かった、

267. 高い山に、乳のように白く輝く、水を湛えた湖を、このナーガはつくったので、不死の主シヴァ(amareśvara)のリンガへの巡礼をする、人々は、いまでもこれを目にすることができる。

268. 妻の父の援助を受けて、ナーガ族となった再生族の生まれの彼もまた、婿の湖(jāmātṛsara)という、もう一つの湖として、広く知られた湖がある。

269. 臣下を守護する立場でありながら、心惑わされ、恐れを持たない者に危険なことをする者たちは、理由もなく、死をもたらす者であり、このように、ことを起こすものだ、あぁ。

270. いまでも、この焼けた町と、穴の遺跡と、この湖が、円盤を持つヴィシュヌ(cakradhara)の寺院の近くに、あるのを見れば、人々はこの話を思い出す。

271. 王たちの横暴な情欲は、まさしく、深い闇のように狭い視界に導き、罪深い考えをもたらし、これが引き起こす結果は、誰がどうしたとしても、このようになってしまう。

272. 神のごとき賢者たちの貞淑な妻は、ただ一度怒りを発したとしても、それが聞き入れられれば、言ったとおりに、三界でさえも混乱に陥れるものだ。

273. 四十年と、月が三つ欠けただけの期間(40年9か月)、大地を愉しんだのち、地上の牡牛は、不道徳な行跡によって、滅んでいった。

274. 短期間であったけれども、この盆地に壁や見張り台が張り巡らされて、彼の、人の都(narapura)は、天界の住人(kiṃnara)であるガンダルヴァの都に、大変近いものだった。

275. 彼の子供が一人、さまざまな行いの因果によって、自分の乳母が、最勝の主シヴァの中原(vijayakṣetra)に連れ帰っていたので、命を失うことを逃れた。

276. この王は神仙(siddha)と言い、このように、何も残っていない社会を、新たに蘇らせたのは、山が燃える森の火事を、雨を降らせる雲が鎮めるようだった。

277. こうした、まことに驚くべき出来事として、彼の父のことを学び、まことに賢い彼はこれを理解して、因果応報の因業さを知り、貴重な教訓として肝に銘じた。

278. 享楽を供することで、堕落のただ中に引きこもうとしても、王は、汚泥に映る月の姿が、穢れることがないように、汚すことはできなかった。

279. 驕りで熱を発し、暑苦しい、大地の守護者たちの中で、一人悩んで、夜も眠らず、神露を流す三日月を王冠とするシヴァのように、頭に技能を宿して、社会を回復させていった。

280. 王は、高潔を価値として、宝石も、草わらほどに顧みず、満月に欠けた月を、飾り付けたシヴァ像を敬い、世の飾りとして、欠けたところがなかった。

281. この王が築いた王家の繁栄は、来世までも付いていき、過つことのない法理によって、この大地に相応しい、信頼が取り戻された。

282. 六十年、この地上の王座に座り治めた後、近しい者に付き添われて、体を持ったまま、この世界から、ウサギを刻印する月を、至高の宝冠として戴くシヴァの世界へと昇っていった。

283. 人(nara)を頼みとした従者たちは、嘆かわしい状態で死んでいったが、その子息である主に、信頼を置いた者たちは、この世で賞讃を受けた。

284. 他人を頼りとする者は、まさしく、頼った先の主人に似つかわしい、非難を受けるか、あらゆる者が賞讃するかの、人生を進む。取るに足らない草わらでも、縄により合わせれば、井戸の釣瓶となって下に進み、花冠により合わせれば、神々の髪を飾って、名声を上げる。

285. 「神仙(siddha)が、その体を持ったまま、死の世界にたどり着いた」という声明が、聖なる神たちによって、天界から、大音声とともに、ドラムを叩いて、七日の間、鳴り響いた。

286. 青蓮の目(utpalākṣa)という名前の、清廉で華やかな目を持つ者が現れ、この、王の息子は、三十と半分の年(30年6か月)の統治を、地上で行った。

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