インド・カシミールの歴史     (ラージャタランギニー)#2-2

17. 二人が持つ、力の偉大さを試したいとの考えが湧き上がったかのように、あるとき、人々の元に、耐えがたい、運命の女神が、口を広げて、降りかかってきた。

18. 収穫を待つばかりの、秋の稲穂が辺り一面を覆う、この盆地の畑地に、八/九月の雨季、突如として、大量の雪が降ってきた。

19. すべてのものを滅ぼそうと、熱をこめた滅びの神が高笑いを上げて、雪に沈んだ稲穂と一緒に、下々の者の生きる望みも沈んでいった。

20. そして、空腹のあまりからからに痩せて、生きながら死んだようになった者たちが、貴賤を問わずあふれ、ニラヤ地獄と思える、恐るべき飢饉の災が起こった。

21. 妻に連れ添い、息子を胸に抱き、父と母に良く仕えてきたのに、病を得た人々は、減った腹を脹らませることだけを案じ、苦しみに焼かれて、ぱったりと、忘れてしまった。

22. 空腹の灼熱に、慎みも、誇りも、一族の出世も忘れ、不幸の女神の視線を受けて、食物を我が物にすることだけを、嗅ぎまわっていた。

23. 命が、首から出かかるほどに、か細くかつえて、頼ってきた子供を親が、あるいは、子供が親を、見捨てて、自分だけが生き延びようとした。

24. 筋と骨を残すだけの、いまわの際となった、自分の体でも、生き永らえようとする者たちが、食べたいという一心で、体を持った死霊のようになって、お互いに争った。

25. くちくなることのない空腹に、悪態をつき、恐ろしい姿で、あたりを見回すと、誰もかれもが、世間に生を受けたものを襲って、自分の命を永らえようとした。

26. 大変な恐怖をもたらす、恐ろしさで、生きていくことも耐えがたい状態に、この、民衆の主の、憐れんで涙にくれる姿が見られた。

27. 門を閉ざすことを禁じて、王は、高価な宝石と薬草を与え、その知識によって、貧しい者たちの、不幸な災難による衰弱を、治していった。

28. 王妃とともに、自分の大蔵から財をかき集め、大臣たちにも同じように拠出させて、食物を買い求めると、王は、昼も夜も、息のある者たちを蘇生させていった。

29. さまよう森にも、土盛りした火葬場にも、馬車の通る道、人の住む家々、どこであっても、地上を愉しむ者である王が、空腹に苦しむ者を、見逃すことはなかった。

30. 財産が残らずなくなり、食べるものもなくなった、肥沃な大地を眺めて、ある夜のこと、悲観した王は、王妃にこのように言った。

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