インド・カシミールの歴史 (ラージャタランギニー)#1-11
287. 彼の子息は、黄金の目(hiraṇyākṣa)と言って、自分の名前をつけた町を造って、地上を、三十七の年と七の月の間(37年7か月)、愉しんで過ごした。
288. 黄金の氏族(hiraṇyakula)という、黄金の泉をつくった実の息子は、六十年、そして、次の六十年を、ヴァスの氏族(vasukula)という彼の子息が、同じように治めた。
289. その後、蛮族異教徒の一団で満ちた盆地に、ひどいふるまいを演じた、彼の息子は太陽の氏族(mihirakula)と言い、死神にこの上ないほど似た、人の守護となった。
290. 南にある、死をもたらすヤマの領域に、嫉妬を抱いて、これを上回ろうとするかのように、これと競って、北にあるハリドワール(シヴァの門)の領域に、もう一人のヤマのように、死を運んでいった。
291. 接近してくる戦士たちの中を、死骸を食物として、漁ろうとして、ハゲタカやカラスなどが、先走り、向かってくるのを見て、人々は、前もってこれを知った。
292. 昼も夜も、殺された人々が、何千と葬られ、この、大地の守護者にして死体を食らうヴェーターラは、娼婦の建物にさえ、大それたことをした。
293. 子供に憐れむことも、女性に愛情、年老いた者に重きを置くこともなく、人の化け物となって、その恐ろしい姿で、人を殺していった。
294. 王はあるとき、王妃が袖を通した、シンハラ(セイロン)島のモスリン地の上着の、胸のところに、金の足跡があるのを見て、焼けつくような怒りを発した。
295. シンハラ島では、人のインドラがつま先の刻印を、衣装に押しています、と、上着を預かっている、後宮の長に、尋ねてそう言われた王は、遠征を行うことにした。
296. 王の軍隊は、額がテカる象が発情して出す分泌液のように、川と流れて渓谷を下り、合流した、ヤムナー川に取り込まれると、愛する者のように、南の波立つ海に押し寄せた。
297. 主は、シンハラ島のインドラと、戦闘し、散々に痛めつけて、王位を絶やし、愛する妻に、足跡がついて生まれた、あのときからの憤りも、絶やすことになった。
298. 遠くから王の軍隊を見ると、ランカー(セイロン)島の、漆喰の邸宅に住む、百鬼夜行のラークシャサたちでさえ、再び、ラグの子孫ラーマが攻め入ってきたと勘違いして、震え上がった。
299. 王はその地に、ほかの、人の守護を置いて、強烈な力を以て、持ち去った、ヤムサの王(yamuṣadeva)という衣装に、空の鳥である太陽をシンボルとして刻印した。
300. 戻る途中で、チョーラ(衣装)、カルナータ、ラータ(ドレス)といった国々の、人の主たちを、発情した象が、発情の匂いで、象たちを蹴散らすように、蹴散らしていった。
301. 王が向こうへ立ち去った後に、戻ってきたところ、その国が負けたことを告げて、町の女性たちは口々に、人の主たちに、見張り台と貞操の帯が破壊されたと責めた。
302. カシミールの門(dvāra)という関にたどり着くと、山すそを滑り落ちる、牙のある象の、恐怖から生まれた叫びを聞いた、王は、鬨の声と取って満足し、総髪を逆立てた。
303. 叫びを聞いたときに、動揺したことを喜びと感じて、悪意を持った天邪鬼は、さらに百頭の逞しい象を、力ずくで突き落とした。
304. その手足に触れるかのように、罪深い者たちの物語を語ると、そこに穢れを生じるので、この王が残虐な振る舞いをなしたことは他にもあるが、言わずにおく。
305. 誰が知るだろう、驚くような心のさまを行動に移した、乱れた心を持つ者が、優れた、法理に適うものに成功を収め、それを作り出せた理由を。
306. シュリーナガルに、悟りを開くことのなかった王が建てたのは、太陽の氏族の主シヴァの寺院(mihireśvara)であり、ホーラダーにつくったのは、太陽の町(mihirapura)と呼ぶ、まことに大きな街並みだった。
307. その後、ガンダーラのバラモンたちは、寄進を受け取ったが、きっと、この王と同じ性格で、再生族の最下層の者たちであったのだろう。
308. 雨季が訪れると、蛇を食べる孔雀は、広がる叢雲に、羽を広げて喜ぶ一方、ハンサ鳥は、雲一つない清らかな秋を喜ぶ。似ている者を愛し、喜びを生むことができるから、与える者も、受け取る者も、お互いがその原因となるものだ。
309. 王は七十年間、愉しんで時を過ごし、大地に強い恐怖を与えたが、大病をあごに受けて苦しみ、その体を、生類すべてを我が物にする火の中に、入れてしまった。
310. 「あぁ、この者は三千万人を解脱させた上で、自分自身をも殺してしまった」、王が炎に身を投げると、空の中から、バラタの子サラスヴァティーの声が、鳴り響いた。
311. 王の行動が適切だったと考える者は、彼はまさに、特別に物惜しみがなく、寄進などの善行の因果によって、無慈悲であった行動が打ち消されたのだという。
312. 西のダラド人、チベット人(bhauṭṭa)、異教徒たちが、不浄の所業を行い、蹂躙されて、法理が滅びたこの国に、彼は、吉兆となることをするために現れ、
313. アーリヤ人の国々を、回復するために、恐ろしいばかりの熱量に満ちた王は、おおよそのなすべきことを成し遂げたと考えたときに、自分の体を焼くことを願ったのだという。
314. そこで、寄進地を千箇所、選定して、ガンダーラの国に生まれた再生族たちのために、最勝の王シヴァ(vijayeśvara)の寺院の地で、それを与えた。
315. そして、かみそり、刀、小刀などが、刺さった板の上に火を放って、素早く、最後を迎えるべく、自分の体を投げ入れた。
316. このように、人々の口伝を引用した書物で、いくつか信頼できるものが残っており、この、人の獅子の残酷な行為を、非難とともに、触れている。
317. ナーガが、激怒して都を焼き尽くした後、やってきた瘡の国(khaśa)の者たちが支配したので、彼らを壊滅させた出来事が、前に言われたように、間違って伝わったという者もいる。
318. この王が、月の氏族(candrakulyā)という名前の川に、沐浴しようと降りていったにもかかわらず、行く手を塞ぐ岩が川の中にあって、抜き去ることができなかった。
319. そこで、勤行を実行すると、夢の中に神々が現れ、この、大地の守護者に言ったことには、この岩には、ヤクシャ(夜叉)である大力の学僧が、斎戒を守って住んでいる、とのことだった。
320. もし、素敵な女性が、触って斎戒を汚せば、この岩を止めておくことは、この者にはできなくなるだろう、このように夢で言われて、次の日、この岩に彼が連れてきた、
321. 良家の子女たちは、どれもこれも、努力が無駄になったが、月のような(candravatī)という名の女陶工が触ったところ、大きな岩は動き出した。
322. 三千万人を殺した、人の主の狂乱は、この罪によるものであり、主人と兄弟と子息のほかにも、良家の女性たちが殺された理由だとする。
323. こうしたことや、そのほかの意見が、語られており、真実が、膾炙しているとおりだとしても、たとえ理由があっても、命を傷つけることは、より重大で、あってはならないことだ。
324. このようにつまらないものでありながら、王が、民衆に倒される目に合わなかったのは、その行いの因果によって、神の守るところとなったからだろう。