【寄稿】わたしのイチオシきらら 編集部特別賞『かみねぐしまい』
昨年、まんがタイムきらら独立創刊20周年企画として開催された感想文募集「わたしのイチオシきらら」。受賞全10作品の中の一つが『かみねぐしまい』の感想文でした。
かみねぐしまい第1巻発売を記念して、その『かみねぐしまい』の感想で受賞した感想文を匿名で寄稿していただきました(本誌に名前が掲載されているのに匿名の意味はあるのかな……)。
編集部も認めた?怪文し……じゃなかった感想文。本noteスペシャルエディションで下記にお送りします。
※単行本だと話数がわかりにくいのでこちらでページ数を補いました。3位から6位までは作品からの引用を載せてあります。1位と2位はぜひ6/27発売の単行本を買ってご自信でご確認を!
わたしのイチオシきらら【編集部特別賞】
『かみねぐしまい』
かみねぐしまい。アレですよね。まず、とにかくキャラが魅力的ですよね。かわいい神様(の娘)に、なかよし&あし姉妹。仲が悪そうに接してるけど悪口の中にお互いの長所をきっちり認めているところが見え隠れする女✕女の殴り合いは、本当に尊いです。
また、繊細な描写で物語が紡がれています。たとえば第2話でそっと仏壇を出し誰かの不在を感じさせておきながら、第6話ではじめて直接的な会話が出てくる。この奥深さ、奥ゆかしさ。故意に説明されない描写が散りばめられており、読者の想像で物語を完成する余地がしばらく残されている。まるで茶室のような美意識を感じる作品です。
そんな、魅力あふれるかみねぐしまいですが、まだまだ隠れた魅力があると思っています。その一つが描き文字です。描き文字は、言葉の意味だけでなく、勢いや大きさ、感情、感触など様々な情報が含まれていて、それだけでも見て楽しく、マンガを読むときの楽しみの一つです。若鶏先生の描き文字は特別な魅力を持っていて、見てると思わず身体が小刻みに震え、胸から頭の方へ快感が走り、なんだかとても気持ち良くなり恍惚としてきます。これ、ホントに合法なのかな……?
こんなおかしなことになってしまう理由は、若鶏先生の描き文字がバリエーションに富み情報量が豊かだからというのもあるのですが、何よりももともとの文字の形がすばらしいからです。特にひらがなが秀逸で、伸びやかで、かつ力が抜けているその字勢はすばらしいや美しいを通り越し、「見てるとなんだか気持ちが良くなってくる」という域に達しています。
以下では、私が個人的にプッシュしたい「見るだけでとっても気持ちよくなれる若鶏先生の描き文字ベスト6」を紹介します。もっと絞るつもりでしたが、どれも推したい文字ばかりでコレ以上は絞れませんでした。
第6位「(カタカナの)カ」。
「カ」のすばらしさは、そのかたちというよりはバリエーションの細かさにあります。「カ」は頻出文字なので違いがわかりやすいです。「カ」はドアを開ける「ガチャ」でよく出てくるのですが、開ける人や場面によって、そのときそのときに合わせたガチャが描かれています。第6話がわかりやすく、4ページ最後の「ガチャ」と5ページ冒頭の「ガチャ…」で、かたちも塗りも全く異なる描写がされています。そしてそれが、場面にしっくりなじんでるという……。細かすぎて震えるばかりです……。先程、特にひらがなが素晴らしいと言っておきながら、カタカナからのランクイン。「カ」だけは外せませんでした。
つづいて
第5位「む」。
「む」は頭でっかち目にして重心を上下に離しているのにバランスがよいところが気持ちよく、ポイントが高いです。多く出てくる文字ではありませんが、第2話の4ページ目は1コマ4文字の豪華構成で倒れそうになります。この「む」で「かたつむり」って描いてほしい……。出てこないかな、かたつむり。「む」だけでなく、丸い囲みができる文字はどれも気持ちよくなれます。
第4位「よ」。
「よ」は、丸く囲む部分をつぶさず書き終わりを短く水平に保つという、白舟草書に通じる起き上がり小法師のようなシルエットが多いです。かたちのかわいらしさもさることながら、文字自体がデフォルメされてることもあり見逃せません。たとえば、第4話の「ぴょい」の「よ」。よく見て欲しいのですが、太字にあわせて文字自体をデフォルメして新しい字体を創り出しています。よく見ると「よ」ではないのに、自然と「よ」と読めてしまうという。この「よ」はうさちゃんなのか?。芸が細かすぎる……。そういうとこだぞ。若鶏にこみ先生!是非、第3話7ページ目の「ふよ ふよよ」と見比べてください。新しい表現が生まれている感動を分かち合いましょう。
第3位「ひ」。
「ひ」もバリエーションが多い文字です。こちらはバリエーションの豊かさもさることながら、その字勢に魅力があふれています。とくに「ひらひら」などででてくる輪っかが閉じてこずにとろけている「ひ」。私のイチオシは第3話5ページ目7コマ目の「ひら」の「ひ」です。なんというやわらかさ。なんという脱力具合。気持ちいい……。気持ちよくなってきましたよね?そろそろ。
第2位「そ」。
「そ」はあまり出てくる文字ではありませんが、一点突破で2位にランクインしています。第4話4ページ目(※第1巻、pp.34)の「そよそよ」の「そ」。若鶏先生も、他では「そ」をこうは描いていません。ここだけ特別です。きっとドライヤーの風に合わせてこんなくずしをしてるんでしょうね。しかも「よ」をそえて栄養バランスもいい……。
第1位「れ」。
「れ」もあまり出てくる文字ではなく、やはり一点突破で1位です。第4話3ページ目(※第1巻、pp.33)の「は~~… やれやれ」の「れ」。第一画のあっさり、まっすぐの縦棒と横長に美しくつぶれて書き放たれた第二画以降。その組み合わせで出来上がった、まったくやる気が感じられない「れ」は脱力した「や」と組み合わさって、これ以上にない「やれやれ」巻を醸し出しています。はじめて見たときは、あまりの衝撃で胸が潰れそうになりました。今も見る度に気持ちよくなってしまい「ここ、FUZの別料金が発生したりしてないかな」と不安になります。この「やれやれ」は、異次元なことになってる気がしてて、この正直、私よりももっと的確な感想を持ってる方もいるのではと思っています。
以上、「見るだけでとっても気持ちよくなれる若鶏先生の描き文字ベスト6」を紹介しました。他にも「す」、「と」、「は」、「ふ」、「ほ」、「わ」など気持ちよい文字がたくさんあります。私以外の方にも是非この快感を感じて欲しくて、この感想を書きました。何かの機会にこの魅力を他の人と分かち合える未来を期待しています。あと、芳文社様にはいつか是非、「若鶏にこみ集字集」の出版を期待しています。
今後とも、かみねぐしまいを応援しています!
追記:第1話の「若鶏にこみ新連載!」のアオリが闘龍書体で、担当さんの意気込みを感じました。枠外のフォントもおもしろいことになっているので、楽しみにしています。