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郷土史の罠
戸籍取得を終えて、一通り戸籍を読み終え。
いったん、家系図を簡易的に書き上げ。
親戚に聞き取り調査をして・・・。
これ以上は、書籍に頼るしかないなと思った時。
まず、読んでみるのが、県史、市史、村史、町史などというものです。
当然、公(地方自治体)が発行しているものですから信頼性は高いだろう。
そう思うのが一般的だと思います。
しかし・・・。
残念ながら、古い時代の郷土史は”郷土史の出来が我が街の沽券に関わる”という感覚は無かった様です。
例として、私が読んだ村史には『なぜ村史を作ったのか』という、経緯が書かれていました。それによれば・・・。
国から「このままでは、地域の歴史が失われる可能性がある」状態にあり、各自治体主体で郷土史を作る様と号令が出た。潤沢に予算がある自治体ならまだしも、当村は経済的な余裕は無く。
本来なら有識者に頼むべき作業を、小学校教諭に委託し。
授業の合間に、期限を区切って作成するようにという指示が出された。
しかし、当時は日露戦争まっただ中。
(上記の村をK村と仮称しますが)K村の教師達も次々と戦場にかりだされて行き。主体となって作成していた者が不意に居なくなったことで、期限を守ることを最優先し。作成が疎かになった事を詫びる。
いつか、落ちついたら再度作成したい、悔しい。
という旨が村史のあとがきに書かれており、正直驚きました。
そんなことから、同地域にもっと緻密な情報を入れ込んだ村史なり町史があるかと調べたのです。すると、30年程前に書かれた同地域の町史に出会いました。
しかしながら、8割ほどが読んだ記憶のある内容。
そうです!
後年書かれたK村の村史は、30年程前に書かれたK町の町史をほぼ丸写しした内容となっていたのです。新しく付け足したのは、消防団や現役軍人などの情報のみだったようです。
そんな驚きの事例にも遭遇しました。
それからは、○○市史編纂委員会という部分に注目するようにしました。
専門家を誘致して、大々的に調査をしている郷土史はまず間違い無いでしょう。しかし、村の人に聞き込みをして口伝を元にしている場合は、余り正確でない事が多いようです。
あまり挙げ足を取る様で、嫌なのですが。
我が先祖の地は、
「室町期に北條の一族が落ちのびたとされ。
それ故、土地の北條を名乗る者が多い」
村史には、そう書かれていました。
※明治・大正の村史・町史より※
しかしながら、2000年頃になって、近くの城跡を大々的に発掘したことがあったようです。全ての調査の後に、写真や図解などをふんだんに使った立派な調査報告本が発行されています。
城跡に関わりのある古文書や、物的証拠など、個人所有の品物まで徹底的に年単位で調査をしたとのこと。そこは、後北條氏の一族で、落城の際ごく少数だが逃げ延びて先祖の地にたどり着き土着した者が居たというのです。
さあ、北條の伝説が二つ並びました。
「これどうするの?」
私が最初に思った事です。
しかしながら、落ちのびて隠れ里的に隠れ住んだ場合。
集落全体が、大きな身内のコミュニティーになる事が多く。
母方の曾祖母の実家が、竹之下の戦いで負けて土着した新田氏の血筋ですが。この家、一族郎党の人数は半端ないです。
かなり古い土着となると、相当な軒数になるのです。
ですから、その何分の1にも満たない軒数にしかならないK村の北條さんは・・・多分、遡れても戦国時代程度なのだと推測が出来ます。北條が多い=室町期に落ちのびてきた人がいるから。・・・とはなりそうにありません。
そう考えると、城跡調査報告書に書かれていた内容で
『戦国時代に後北條の人間が落ちのびてきたのを、前もって受け入れると約束していた農家が匿った。その人たちが、現在の北條氏である』と記した方が、現実味が出てくる訳です。
しかも、この調査には続きがありまして。
匿った農家が、当時落ちのびてきた武将の兜などを未だに所持していると言うのです。調査した際に、確認されているそうです。
しかし、ここで面白いのが。
落ちのびてきた北條氏を匿った農家が、いつの間にか『北條』を名乗るようになったそうです。じゃあ、本来の北條氏はどこにいってしまったのか。その答えは、歴史の波の中に消えていったようです。
もしかして・・・名字を、本人達は変えたのかも知れませんね(笑)
何せ、我が家系に伝わる話でも。
山城が落城して当地に落ちのびてきた、身元を示す物は信頼しうる人の家に隠した。そして名字を変え、土着したと言いますから。
えっ、この話しと似てるって?私もそう思いましたが、答え合わせのしようが無いのですよね・・・ああ無情です。
と言うわけで、どんな人物がどんな調査をして。
どんな結果を持って、郷土史を作成したか。
まず、鵜呑みにする前にエビデンスを確認することをお勧めします。
有識者が入って居ない村史なども、有用である場合もあります。
しかしながら、疑って掛かって欲しいと私は思うのです。
以上、郷土史の罠でした。
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