初北海道3日目 1989年7月26日-④ 阿寒横断道路で見た光景
雨はすっかり上がった。青空は見えないけど雨を降らすような雲はもう見えない。弟子屈の街が徐々に近づいてきてはいるものの、まだ道路脇には人家は全く見えず緑色の原野が広がっている。
前方の道路に豆粒のような大きさでサイクリストの走っている姿が見えた。僕と同じく弟子屈方面に向かっている。北海道でのこの三日間で同じような場面は何度も見かけたので、また自転車だ、、、みんな頑張ってるよなあ、、、と思いながらスピードを少し落として右側から抜く時に、そのサイクリストの方をチラッと見た。
女性だった。
白いTシャツからはよく日焼けした腕が見えた。ショートカットの黒い髪。後輪の両脇にはサイクルバッグ。年齢は自分と同じくらいだろうか。体を前屈みにして懸命にこいでいる様子からかなりの向い風を受けながら走っているようだ。車の中ではそんな向い風なんて全く感じることができなかった。
カッコいいなあ。。。
そして
負けたあ。。。
僕の心の中に浮かんできた感情はその二つだった。
抜き去った後もバックミラーで少しの間その姿を見ていた。もちろん向こうにとってこちらは何台も抜いていく車の中の一台に過ぎないから、何の感情も湧かずにひたすらペダルをこいでいるはずだ。自分の目的地に向かって。自分の気持ちのままに。
オレ、すげーカッコ悪いなあ。
もちろん他人と比較してもナンセンスだということはわかっている。けど、やっぱり断然向こうがカッコいい。言い方に問題あるかもしれないけど、同じひとり旅でも向こうは女でチャリだ。こっちは男で車だもんなあ。負けたよなあ、完敗だよなあ。そして同じくらいの年齢の女の子がそんな旅をしようと思い、それをやっちゃっている勇気を心の底からうらやましく感じた。
ダメだ!オレもやらなきゃ!
よし!絶対にオレもいつか北海道をチャリで旅するぞ!!
風が強く吹く阿寒横断道路の直線で、僕は強く強く心に誓った。
そしてそれから16年後の夏。僕は10歳になる息子と自転車で北海道を旅した。ひとり旅にはならなかったけど、16年越しに夢と誓いが叶った2005年の夏だった。
この時の旅のことは、また別の機会に書くつもりだ。
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