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堀部貴紀『サボテンはすごい! 過酷な環境を生き抜く驚きのしくみ』ベレ出版

サボテンとはサボテン科に含まれる植物のみを指す呼び方で、たとえばアロエはサボテンではない。多肉植物は,葉や茎、根などに水分をたくさん含み、ふっくらと多肉質になっている植物の総称であるが、サボテン科の植物の多くが含まれるが、一般的な樹木の外観をしたサボテン科のペレスキア・アクレアタは多肉植物ではない。

サボテンの原産地は南北アメリカで、北はカナダ(北緯約55°)から南アメリカの南端部にあるフエゴ島(南緯約55°)までと、非常に広い地域に分布している。特にメキシコ全域、ブラジル東部、アルゼンチン北部・ボリビア・ペルーからなるアンデス山脈地帯は、「サボテンのホットスポット」と呼ばれている。

リプサリス・バッキフェラは例外で、南アフリカやマダカスカル、スリランカでも発見されている。渡り鳥に付着して運ばれたのではないかと考えられている。

サボテンの種類は1500~2000種類程度と考えられている。また、園芸用に改良された品種なども含めると8000種類を超えるといわれているが、正確な数はわかっていない。

見た目でサボテンを分類することは難しい。サボテンは同じような姿をしたものが多く、しかもその形態は環境条件や個体の年齢によって変化する。サボテンの分類において、DNAの配列情報の利用が非常に有効な手段となっている。

サボテン科のすべての種が刺座「areole(アレオーレ)」という特有の器官をもっている。この刺座からは、新しい茎、葉、トゲ、毛(トライコーム)、花などが発生する。刺座は枝(短枝)と考えられている。

サボテンは3000万年から3500万年前に、現在のチリ北部やアルゼンチン北西部、ボリビア南部を含む、中央アンデス地域に生まれたと考えられている。サボテンの種類が増えた年代は、特に1000万年から1500万年に集中している。南北アメリカの乾燥地域が拡大した時期と一致している。

さらに、中新世の後期には、大気中の二酸化炭素濃度も減少し、植物が光合成に必要なCO₂を体内に取り入れるためにはより長い時間気孔を開く必要があった。気孔を長く開くと、体内から失われる水の量(蒸散量)の増加につながり、乾燥に強いサボテンには有利となる。

サボテンのトゲには、食害の回避、強光によるストレスの回避、高温や低温によるストレスの回避、蜜の分泌、空気中の水分の捕集、繁殖範囲の拡大など、さまざまな機能や役割があると考えられている。

サボテンを含む多肉植物は、多肉質の茎や葉に多量の水分を貯えることができる。高さが約10mのカルネギア・ギアンテアだと、体に約7トンもの水を貯えている。体に水分を多量に保持することで、長期間の乾燥に耐えられる。 

地球温暖化など異常気象の発生頻度が高まることにより、サボテンが作物として利用され、北アフリカを含む世界各地でウチワサボテンの導入が進められている。サボテンは少なくとも8000年前には栽培されており、食用にされるウチワサボテンは特に生育速度が速く、トゲが少ないなど、生食や加工に都合のいい性質をもつ。

ドラゴンフルーツはサボテンの果実であり、大規模栽培が行われている。原産地は中南米の熱帯雨林であるが、東南アジア、南アフリカ、オーストリア北部、イスラエルなど20を超える国々で栽培されている。

侵略外来種とされているものがある一方、絶滅危惧種もあるサボテンではあるが、人間の食料になるばかりでなく、化粧品やサプリメント、飼料にも使われる。薬の原料となるものもある。サボテンについて詳しく知ることができる良い書籍である。


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