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佐々木一哉、片山葉子、松田千夏、土器屋由紀子『富士山測候所のはなし 日本一高いところにある研究施設』成山堂書店

日本一高いところにある「富士山測候所」でどんな研究が行われているかについて解説した本である。富士山測候所は、もう役割を終えたと考えている人も多いと思われる。レーザー観測は終了しているが、気象庁の施設を借りて、富士山環境研究センターが有益な研究活動を行っている。

富士山は「先小御岳火山、小御岳火山、古富士火山、新富士火山」の四層構造である。新富士火山は約1万1千年前から8千年前までの大規模噴火によって形成され、ほぼ現在の富士山となった。おおよそ3千年間で千mも標高が高くなった。

有史以来の噴火だけで、17~18回の大きな噴火が発生し、最も古い記録は、781年の噴火が「続日本紀」に記録されている。平安時代の800年の延暦の大噴火、864年の貞観の大噴火は激しく、江戸時代の1707年の宝永の大噴火とともに3大噴火とされている。

しかし、1707年以降、300年以上噴火がなく、過去には352年間噴火がなかったことはあるが、そろそろ大噴火が起きそうな時期と言えるようになっている。

噴火予知の方法としては、①微小地震と山体の膨張を観測する力学的手法、②地磁気を観測してマグマの上昇を感知する電磁気学的手法、③山頂の火山ガスをモニタリングする地球化学的手法がある。

富士山は、現在の火山地震の分布から、山梨県側の山腹から噴火する可能性が高いとされている。噴火予知研究には、山頂の風が強く、大規模な土木工事も難しく、長期に安定した観測環境を維持するという課題がある。冬季の電源確保の問題、ロジスティック上の問題も生じているという。

富士山では、①富士山頂の大気の観測、②上空に浮遊する微生物・花粉の観測、③高山病や高所トレーニングなど高所と人間の身体との関係の研究、④富士山頂での雷観測、⑤CO₂濃度や微粒子の観測、⑥放射能の監視など、様々な観測と研究が行われている。富士山のCO₂濃度は、中国から排出されるCO₂排出量を検証するために有効であることがわかっている。

噴火予知は大規模な災害を防止するためには極めて重要と思われる。しかし、いまだ確立した予知技術があるわけではない。1979年に死火山と考えられていた御嶽山が噴火したことをきっかけに、富士山も活火山と認識されている。

資金不足をクラウドファンディングで乗り越えるなど、富士山測候所を維持するための努力が行われている。本当に頭の下がる思いである。専門的な内容のほか、コラムもあり、関心のある人にとって貴重な本であると思う。



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