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手束仁『令和の高校野球 最新マネー事情』竹書房

具体的に高校野球では何にどれだけお金がかかるのであろうか。入部による新調の着用品は個人負担であるが7~8万円、これらも含めた用具類だけで15万円くらいかかる。それにユニフォームや練習着、サブウェアなども購入すると、強豪私学で25万円前後、公立校でも20万円前後の出費がある。3年間続けるとなると、用具類だけでさらに8万円以上かかる。

ほとんどの学校は、県外を含めた遠征を組んでいる。その費用は、その都度徴収であるが、年間少なくとも5~6万円はかかる。沖縄でキャンプを行うところだと年間10万円前後となる。敷地内に合宿施設を確保し、県外の学校が訪れてもらい、練習試合を組んでいくケースもある。

ほとんどの野球部は保護者会がある。学校から支給される年間部費や生徒から集める部費だけでは足りず、保護者会費として別に集めている。それ以外に合宿などのお手伝いもしている。もちろん応援が生徒の励みになる。

部費は月当たり2~3千円が多い。学校から支給される部費(20万円~ 100万円)が多くても徴収する部費は減らない。支出の最も多いものがボール代である。金属バットは個人負担の場合もあるが、公立校では年間10本程度新規購入している。そのほかに練習試合の審判代が1試合4千円程度、トレーナー料、外部コーチ料、保険料などもかかる。

現場では様々な工夫で経費を節減している。試合球として購入したボールも、縫い目が摩滅するとシートノックの練習球となり、さらにフリー打撃マシン使用時のボールとなり、その後はティー打撃用のボール、表面がほつれてきたらビニールテープなどを巻きつけてティーバティングで使用できる限り使い続けていく。

甲子園出場は私学の経営と直結する。入学希望者が増えるだけで、単純に受験料が増収となる。校名が認知されれば、受験生が増え入試レベルも上がる。生徒の質が上がれば自然と進学クラスなどが増設され、さらに地域で進学を目指す志願者が増える。結果的に地元の評判も高くなり、地元で支えてもらえる傾向も大きくなる。甲子園出場を果たさなくても地域の上位進出だけでも好影響をもたらす。高校野球は地場産業的要素がある。

甲子園出場のためには、応援団経費なども含めて1試合最低2千万円以上かかる。甲子園出場後援会が設立され、集金活動などの応援体制をつくる。

甲子園出場という目標以上に「野球を通じての人間形成」がある。また、指導者が口にするのは「プロ野球選手を送り出したい」ということである。ドラフト指名で注目される。

野球は昔から大手新聞社が大きく関わってきたことから、メディアとの関係も深く、各都道府県の地方紙は高校野球の記事が充実している。また、NHKも放送する。これが高校野球の人気につながっている。

しかし、高校野球も、部員数の減少と日本高校野球連盟の加盟校の減少が大きな問題となっている。また、野球の強豪校といわれるところと、あくまで学校の部活動とするところに二極分化している。さらに最近の感染症の拡大で満足できる大会運営ができない。

多額の出費がかかっても、それ以上のメリットをもたらす高校野球は、課題を抱えながらも、人気を維持できるように思えた。少子化の進展や、サッカーなどの新たな人気スポーツの出現にも負けまいとする現場の熱意があればこそであるが。高校野球の内部事情がわかる貴重な本である。




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