岸田奈美『傘のさし方がわからない』小学館
本書は、著者の3冊目のエッセイ集である。父親は早くに他界、弟はダウン症で、母親は車いす。普通に考えれば、絶望的に思うのだが、いくつもの困難を楽天的にやすやすと越えてしまう。NHKのパラリンピックの中継番組に出演していたり、民放の朝のテレビ番組にも時々顔を出している。
「全財産を使って外車を買った」は、車いすの母親が乗る車を買い替えた話である。父親がこやなく愛した(父親の死去で手放した)ボルボを買うことにしたが、車いすのためにちょうどよい大きさのボルボV40(車種)が最後の1台しかない。
印税(著者は、本やnoteを買ってくれた読者に感謝している。)で買うことにしたが、改造する工場がない。しかし、ディーラーや、改造工場のおかげで、ボルボがうちに来た。
手に入れて、父親はボルボがほしかったのではなく、家族を楽しめさせたかったとわかった。ボルボ940のとなりに立つ父親と母親の写真がついている。
「いい部屋とは、暮らす人と見守る人の愛しさが重なりあっている」では、父親がドイツへの出張で買ってきたシックな木のおもちゃは、父親が自分が美しいと思うものを、触れさせたっかったのだと気づく。
「優しい人が好きだけど、人に優しくされるのがおそろしい」では、贈り物は受け取ることに意味があるが、直接返さず、別の人に贈与する。優しのバトンを次へ次へとつないでいく。
「わたしが未来永劫大切にする、たったひとつの花束」では、価値観というのは、自分の芯であり、絶対に変えず、つらぬくものだと思っていたが、新しい出会いを重ねるごとに芯は変わって当然だ。取り替えられる芯を多くもっている方が、自分を好きになる回数が増える。
「思いこみの呪いと、4000字の魔法」では、障害者差別は姿かたちを変えて「思いこみ」となっている。弟と遊園地の3D映像のジェットコースターに乗ろうとしたとき、お姉さんはゴーグルを外して同乗し、身体を支えてあげてくださいと言われた。車いすの母親はときどき、タクシーに乗せてもらえない。「思いこみ」は、自覚がなくやっかいだ。
しかし、ここで、いくら紹介してみても、この本の良さは伝わらないので、是非読んでもらいたい。笑い、ときにはしんみりする良い話が詰まっている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?