マイク・アイザック『ウーバー戦記 いかにして台頭し席巻し社会から憎まれたか』草思社
GAFAに次ぐハイテク企業ウーバー(Uber)は、配車・デリバリーサービスの会社である。日本ではウーバーイーツとして料理のデリバリーサービスが知られているが、一部タクシー会社の配車サービスも行っている。米国などの国外での躍進の方がめざましい。
ウーバーの創業者である若き起業家トラビス・カラニックが、いかにして急激に拡大し、トラブルを起こし、ついに放逐されたか、その半生を描いた書籍である。著者は、「ニューヨークタイムズ」に掲載された一連のウーバーに関する記事で、ジェラルド・ローブ賞(米国における経済・金融ジャーナリズムの最高の賞)を受賞している。
プロローグは、オレゴン州ポートランドで始まる。カラニックは、いまだ当局が認可していない自家用車で営業するウーバーXの営業の開始を強行する。当局は、ウーバーXの車を捕まえようとした。しかし、ウーバーXのドライバーの予約システムには、グレイボールというソフトウェアが入っており、当局関係者を監視し、当局関係者の予約らしい場合は、気づかれないまま乗車拒否ができるので、ドライバーは捕まることはなかった。
当局関係者のウーバーのアプリにはニセの車の情報がモニターに表示され、予約することはできなかった。規制しようにも捕まることができないのである。3年後に「ニューヨーク・タイムズ」がこの事実を報道するまで、当局は知ることはなかった。しかし、知ったときはすでに遅く、ウーバーは認可されていた。
既存のサービスは非効率で料金は高く、法律を犯したとしてもウーバーのやり方の方が正しかったと言えるかもしれないが、ウーバーの創業物語は成功の物語と見なされはいけないと著者は言う。
十分な業績が達成できなければ、降格すると脅かすマネージャーたちもいて、リオデジャネイロのマネージャーは、いらつくと部下に向かって金切り声で叫んだり、マグカップを投げつけたりした。ノルマが未達ならバットで殴るとすごまれた社員もいた。
採用予定者に払う給料について、相手がのめる最低の給与が算出できるアルゴリズムが開発されており、それに基づいて金額が提示されていた。社員持株に換算して何百ドルもの金を効率的に節約できた。
2014年、アリゾナ州の若き気鋭のハッカー、ギョー・ギロンは、アンドロイド向けのウーバーのアプリを解読し、インストール時に要求するデータのアクセス許可に、電話帳機能、カメラ機能、テキストメッセージの会話ログ、Wi-Fiへの接続記録など、想像以上の膨大な項目があることを発見した。
ウーバーは自社に敵対するジャーナリストの身辺を探るだけではなく、利用者自身と利用者の携帯電話に残されたあらゆる情報についても知ろうとした。このことは「ハッカー・ニュース」に掲載され、アップルが知るところとなる。カラニックはアップルのボス、ティム・クックとの面談で、何とかアップルストアからの締め出しを逃れた。
しかし、このとき、ウーバーは大規模なサイバーの不正侵害を受け、ドライバーとして登録した5万人以上の個人名、免許証の登録番号などの情報が流出するという深刻な被害を受けていた。しかし、カラニックは、当局に連絡する気はなかった。
「ニューヨーク・タイムズ」が、グレイボールにより、ウーバーの何年ものにわたる法逃れを報道すると、全米の各州検事総長たちが調査を開始し、司法省も動き出した。ウーバーの評判は地に落ち、退職率も上がり始めた。
しかし、カラニックの最後通牒を突きつけることができたのは、ベンチャー・キャピタリストたちであった。彼らは、ただちにしかも永続的な辞任を求めた。そして追放劇は直後にリークされた。さらに、カラニックにとどめをさしたのは、ソフトバンク孫正義による公開買付であった。
それから1年半、ウーバーの新CEO、ダラ・コスロシャヒは、前任者が掲げていたすべての方針を整然と取り消した。長年邪険に扱われていた常連ドライバーとの関係修復を真っ先に手がけた。しかし、無難な企業となったウーバーは、ニューヨーク証券取引所で株式公開したが、当初想定した価格を下回る前代未聞の大失敗となった。
カラニックはフードデリバリーとその関連事業に特化したスタートアップ企業を起業し、バリバリ働いている。不適切な行為をしたとしてウーバーから解雇された多くの社員を採用している。いまだに終わってはいない。
著者は、テクノロジー業界のハッスルカルチャーは健在ではあるが、どうやってユニコーン企業に変貌するかの方法が問題だと言う。破壊的な大変動の中、闘争心だけではだめと言いたいのであろうか。
一方、日本には、既存の秩序や制度を疑い、テクノロジーで未来を開こうとする若い力が必要と思う。また、本書は、手段を選ばないカラヤックの様々な行いが記載されているが、取材源の秘匿のため一部は仮名となっている。著者チームの取材力はお見事と言える。分厚いが読み応えのある良書ではないだろうか。
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