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安田隆夫『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』文春新書

一代で34期連続で増収増益を成し遂げ、2兆円企業を築いた著者が、永遠のテーマであるとする「運」について語ったものである。

著者は、運とは、その人が成し得た人生の結果そのものと断言する。運が良かったというのは、困難にもがきながらも、努力し行動した結果、人生が結果的により良い方向に向かったということなのだと、ごくシンプルに考えている。

運のいい人とは「運を使い切れる人」であり、運の悪い人は「運を使い切れない人」あるいは「使いこなせない人」だと言うこととなり、自らの行動によって変わる変数であるとする。

しかし、運はつかむものでも支配するものでもなく、自らが受け皿となり、寄り添うべきものであるとする。人生は幸運と不運が等しく訪れるが、運が向い風となるか、追い風となるかで、結果に大きな差がつくことから、不運な時は下手に悪あがきせず、幸運が巡ってきたら追い風として一気に上昇するのが、必勝パターンだとする。

楽観論者のほうが運に恵まれ、常にチャレンジを続ける挑戦が運を引き寄せるとも言う。リスクをとらないことが一番のリスクであり、速攻を堅持しながらも、それ以上の守備をおこなう。断行熟慮とも言う。

ところで、ドン・キホーテの企業原理は「顧客最優先主義」であると言う。顧客の立場に立って、「この店に来て面白かった、得をした」と思っていただこうという、主語を転換して、徹底して買う側に立った発想をすることである。極めてまっとうな考え方である。

また、大強運の出発点は、現場社員への「権限委譲」であったとも言う。「個店商店主システム」による現場への主権の付与で、競争力と拡張性を両立させたことに成功の要諦があるとも言う。

本書は「運」について語ってはいるが、実際は、まっとうな経営論を語ったものである。経営者の人格、従業員への共感でやる気と情熱を喚起、感謝とお願いで人を動かす。そして、単なる「勝ち」でなく「圧勝」を目指す。

経営について考えるとき、本書は大変良き教科書であり、経営がうまくいかない経営者にとっては、自らの経営を省みるときに読むべき書籍であると思われる。

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