青木忠史『奇跡の成長を呼ぶ のび太くん採用』サンライズパブリッシング
本書を読んでなるほどと思った。今、どこの企業でも採用難である。優秀な新人を採用しようと思っても、中小企業ではまず無理である。いい人を採用しようと思うのでなく、「どこでも勤めることができないと思われる人材」、すなわち「のび太くん」こそ鍵でなのだ。
著者は「のび太くん」の人物像を織り下げてくれている。
①学力は、40人クラスの35番目あたり。勉強は得意でない。
②特に目立った特徴がない。可もなく不可もない平凡な人物。
③中高時代、「帰宅部」か、地味な部活に所属。体育系でも補欠。
④外見で得するタイプではない。
⑤成功体験がなく、いじめられた経験などで自尊心が傷ついていることも。
⑥仕事を覚えるのが極端に遅い。
「ここを辞めたら、もう次はないこと」を本人はよくわかっている。雇ってくれたことに感謝もしているので、会社に対して愚直な忠誠心も抱いている。簡単に退職しない。
以下のような別の特徴を持っていると言う。
⑦覚えは悪いが、少しずつ着実に技術を習得していく。
⑧激しい感情を表に出すことなく、性格は素直で優しく、我慢強い。
⑨性格は真面目で一途。
⑩愚鈍であるが故に、1つの道を行くことを好む。
⑪リーダーには従順で、些細なことで裏切らない。
手に職をつける類の仕事と親和性が非常に高く、丁寧に育てていけば会社に長く定着してくれる。特に建築業界のような技術者がベースとなる会社の本質的な成長を支える可能性を秘めた人材となる。
未熟な社長ほど、文句を言ったり、真っ向から反抗することのない「のび太くん」が必要であり、「のび太くん」を教えることにより、社長も会社も成長する。
「のび太くん」を教育するきちんためには、誰でも成果を出せる再現性の高いマニュアル作りが必要である。「のび太くん」は、マニュアルを逸脱しない強みを持っている。工夫や自発性はないが、指示どおりきちんと行う。
社長は、技術だけでなく、会社のビジョンや顧客との向き合い方、仕事への姿勢などを説いて聞かせる必要がある。技術のみならず、理念やビジョン、価値観を社長と共有し、社長の味方になってもらう。会社の考え方に沿った行動をしてくれる人材が重要なのである。
著者は経営に行き詰まっていた塗装店を親から引き継ぎ、立て直すことにより、3年で6千万円の借金を返した実績がある。その決め手となったことが、マニュアルの作成と、第二新卒を対象とした「のび太くん」採用という人材戦略であった。
著者は、会社の成長は、売上を伸ばすことではなく、「のび太くん」を採用し、後継者として育てていくことだと言う。人材で苦労している中小零細企業の社長さんこそ、本書を読んで、「のび太くん」を見つけ、育てていくことがよいように思った。