むーんらいとすてーしょん

湿度の高い部屋、重い頭、昼夜逆転。よし、いつも通り。おはよう満月。今日はやけに電車の音と祭囃子がうるさい大都市東京。全てがあるようで、実際は出会いと別れだけ。でっかい都市に、ちっちゃい俺がいる。3ヶ月前に出会いを、先週別れを経験したばかりの俺がいる。年上の彼女は見誤った僕に「ごめんね。でも君ならすぐいい人に出会えるよ」と言った。先輩じゃなきゃ嫌ですなんて柄にもなくクサすぎることを言ったのがマイナスとなって「こういうのはさ、タイミングなんだよね」と残して帰ってしまった。いつだってそうだ。上京なんてしなければよかった。生気と金がどこかへ吸われていくのだけを感じる。いっそ月にでも行きたいな。始めはカッコつけだったタバコも、たった今最後の一本が灰になった。

買いに行こうと玄関の扉を開けたら、なんとそこには見知らぬ女がいた。浴衣を着て、黒い長髪をなびかせている彼女は「私、かぐや姫。しばらくお世話になりますね」と、絵文字のような嘘くさい笑顔で言い、あろうことか俺の部屋にズカズカと踏み入れてきた。
普通なら110番を押すところを、俺の頭には(姫までが名前なの?)なんてことしか浮かばず、その隙に自称かぐや姫は「部屋が汚くて臭い」だのなんだの文句を垂れていた。出会って1分、不法侵入の姫に惑わされ、倦怠感も吹き飛んでいた。「私ね、地球のいろんなもの見たいの。連れてってね。」茶目っ気と哀愁を含んだ表情に、明らかにおかしいこの状態も関係なく引き込まれてしまった。


そうだ。この時はまだ、そこから不思議な暮らしが始まるなんてこと想像もしていなかったんだ。


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