40代主婦、投資家への道#32
【旅行記 美食の国、ペルー】
ペルーといえば、マチュピチュ。神秘の天空の都、世界遺産として有名です。では、ペルーが美食の国というのはご存知でしたか。
私は、自分が旅行するまで、全く知りませんでした。マチュピチュが有名すぎるのか、ペルー料理のイメージすら全くなかったのです。
そんなペルーで、一番印象に残った食べ物をご紹介します。
マチュピチュ旅行を楽しみにしていた私が、唯一、心配していたことは高山病でした。気圧の変化に弱いのだと思いますが、高度の高いところへいくと、急に動けなくなるのです。
昔、ハワイ島のマウナケア山に登ったときも、急に体が動かなくなってしまったのです。
「あ、子泣き爺が乗ってくるってこんな感じかも」
そう、あの妖怪です。
高い場所が苦手なのは、分かっていたけれど、マチュピチュへ行くのは、一生に一度あるかないか。勇気を出して、今回は大丈夫かもしれない、という淡い期待も込めて出発しました。
しかし、やはり、体は正直でした。気分を盛り上げて、水もたくさん飲んで、ゆっくり動くようにしましたが、たいして動いてないのに、ヘロヘロになってしまいました。
高山病なのか、体が重くて、だるくて、動けそうにありません。仕方なく、近くにあった小さな食堂で休むことにしました。
ぐったりしていると、ふと、コカ茶があるのが目に入りました。そういえば、ペルー人のガイドさんが、高山病を感じたら飲むように、教えてくれたっけ。
クスコのホテルでも、マチュピチュの食堂でも、ローリエそっくりの乾燥させたコカの葉っぱが、大きなガラス瓶にどっさり用意されています。その瓶から、葉を数枚コップに入れ、お湯を注いで少し待つと、コカ茶の出来上がりです。
湯気とともに、懐かしいような、乾いた草の香りがします。ハーブティーのような、日本のドクダミ茶のような、でも、もっと薄い草の味。正直、お世辞にも美味しいとは言えません。
それなのに、美味しくないと思う気持ちとは裏腹に、ふと気づいたらゴクゴクと飲み干していました。
そして、飲み終わると、まるで子泣き爺が乗っているかのように重かった背中が、軽くなっていくじゃないですか。
え、嘘でしょう。
昔から飲まれている、と言うには効果がありすぎて怖くなりましたが、本当に、呼吸が楽になり、視界が明るくなったんです。
この後、これなら食べられそうかと、頼んでおいたスープがきました。チキンスープを頼んだはずが、なぜか鮮やかなオレンジ色でトロミがついたスープが、目の前にドスンと置かれました。短いスパゲッティと赤いパプリカのかけら、ひき肉が浮いています。
怪しい見た目に怯んだものの、なんとこれが、一口食べたら止まらない美味しさだったのでした。
じんわり肉のだしが出ていて、食べるごとに感じる旨味と、ほんのり塩味がきいたスープ。パプリカの酸味がいいアクセントになっていました。スープを吸って柔らかく、でもグズグズにはなっていないスパゲッティが、にゅう麺みたいで食べやすい。
人生で一番美味しいスープに、マチュピチュの小さな食堂で出会ってしまいました。
美食の国、ペルー。
確かに、街は美味しいもので溢れていました。リマやクスコのレストランでは、何を頼んでも当たりで、素材の味を生かした調理法や味付けが日本人の口に合うのです。どれもこれも、本当に美味しかった。
けれども、その美食の国を想うとき、私が真っ先に思い出すのは、子泣き爺に乗られて重かった背中が一瞬で軽くなった魔法のお茶、草の味のするコカ茶と、おそらくチキンじゃない肉が入っていた滋味深いオレンジ色のスープなのだった。
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