海外からの模倣品流入の規制強化(論文書きました)
JCAジャーナル2021年9月号に、「海外からの模倣品流入の規制強化
-令和3年改正法と残された課題-」という小論を書きました。
発刊元の日本商事仲裁協会のご了解をいただき、私の論考だけ一足先にここで公開致します(他の方のご論考を含めた全体は、発刊後一定期間を経過するとウェブサイトで一般公開されるそうです。)。
けっこう思い切って書いたものなので、忌憚なきご批評を賜れば幸いです。
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【問題意識】
模倣品の個人輸入については、従来、個人的家庭的な使用については産業財産権の効力は及ばないという考えの下、商標権侵害にはならないとされてきたが、条文の素直な解釈と商標権の出所表示機能に照らせば、商標権侵害を認めることがむしろ妥当ではないかと考えた(なお、本論では触れていないが、同様の理屈は、ネットオークションを通じた模倣品の個人間売買等、従来「業として」要件を欠き商標権侵害にはならないと解されてきた取引全般に広く妥当すると考える。)。
【要旨】
令和3年改正は、増大する個人使用目的の模倣品輸入に対応し、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を、商標権または意匠権を侵害する行為と位置付けるものである。そのために、商標法及び意匠法における定義規定が改正され、「輸入」に「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれることが明記される。本改正は、あくまで差出人が事業者の場合に限られ、差出人が個人の場合はカバーされない。
「業として」の要件は産業財産権四法に共通する要件であり、「産業の発達を直接阻害するとはいえない個人的家庭的な使用についてまで産業財産権の効力を及ぼすことは、法の目的及び社会の実情から考えて過剰な規制である」とされてきたが、こと商標法に関しては、本当に「過剰な規制」なのか。
輸入されようとしている商品に付されている標章は、通常、当該商品の製造業者により付されたものであり、製造業者によって商品に商標が付された時点で、「業として商品を生産・・・する者がその商品について使用をするもの」、すなわち、商標法2条1項1号に定義する「標章」に該当している。その後、転々流通し輸入される過程で、「標章」該当性が失われると解する必要はないのではないか。商品に付されている文字列は、商標法2条1項1号にいう「業として商品を生産・・・する者(つまり当該商品の製造工場)がその商品について使用をするもの(使用をしたもの)」に該当すると認定することに、条文の文言上何の支障もない。
また、同法2条3項2号にいう「商品又は商品の包装に標章を付したものを・・・輸入・・・する行為」の中に「業として」との文言はないから、たとえ輸入者が個人であっても、その輸入行為が同条号に該当すると認定することにも、文言上の支障はない。商品の出所表示機能という視点からすれば、その方がむしろ素直な条文への当てはめのように思われる。
一般に、「産業の発達を直接阻害するとはいえない個人的家庭的な使用についてまで産業財産権の効力を及ぼすことは、法の目的及び社会の実情から考えて過剰な規制である」から、産業財産権の侵害成立には「業として」の要件が必要といわれるが、もう少し分析的に検討する必要がある。
商標の使用行為を類型化すると
(a) 業務性を欠く製造行為
(b) 業務性を欠く製造行為により製造された物の、業務性を欠く譲渡等
(c) 業務性を欠く製造行為により製造された物の、業務性のある譲渡等
(d) 業務性のある製造行為
(e) 業務性のある製造行為により製造された物の、業務性を欠く譲渡等
(f) 業務性のある製造行為により製造された物の、業務性のある譲渡等
に分けられる。
(d)と(f)は、全ての場面で業務性が肯定されるから、商標権侵害であるというのに何の問題もない。
(a)は、典型的な「個人的家庭的な使用」であるとして商標権の効力を及ぼさないことに異論はなかろう。(b)及び(c)の類型も禁圧する必要はなさそうである。これらの結論は、個人的家庭的に制作された物品に付された文字列は、商標法2条1項1号にいう「業として商品を生産・・・する者がその商品について使用をするもの」に該当しないという条文操作から、素直に導くことができる。
残る(e)類型の場合、確かに「譲渡」の場面では業務性を欠いているが、製造の場面では業務性が肯定されている。にもかかわらず「産業の発達を直接阻害するとはいえない個人的家庭的な使用についてまで産業財産権の効力を及ぼすことは、法の目的及び社会の実情から考えて過剰な規制である」として、一律に放置するのは、法政策として粗雑すぎはしないか。模倣品を手に入れたがる人が多くいるからこそ、当該模倣品は「産業の発達を直接阻害」するのであり、ここに産業財産権の効力を及ぼさないことは、法の目的および社会の実情から考えて、むしろ法の怠慢であるという見方もできるのではないか。
そこで、(e)業務性のある製造行為により製造された物の、業務性を欠く譲渡者という類型にも原則として商標権の効力は及ぶとする方が、利益考量上も妥当と考えられ、そのような結論は、現行商標法の素直な条文操作から導くことができると考える。
以上の私見によれば、業務性は製造の場面でのみ要求され、その後の流通過程では業務性は問われない。よって、本改正の限界として指摘されている模倣品の差出人が個人の場合にも、商標権の効力を及ぼすことができることになる。
なお、以上を原則論とし、いわば「網を広く」掛けておいた上で、家族または限られた人間関係の間での無償譲渡や、善意の購入者による輸入はやはり商標権侵害とすべきでないという政策判断を導入するのであれば、許されるべきパターンを類型化し、商標権の効力が及ばない範囲を定める商標法26条に追加する(網に穴を開ける)方が、体系的に美しく、規制の範囲をきめ細やかに設定することもできるように思われる。
全文はこちら。
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