見出し画像

サンジュ ーSANJU atクラハ[20210627]

※clubhouseでの発表用メモを加筆修正したモノです。音声の文字起こしではありません。

製作 2018年 日本公開 2019年6月
監督 ラージクマール・ヒラニ
出演 ランビール・カプール、アヌシュカ・シャルマ

 サンジュことサンジャイ・ダッドの半生を描いた伝記映画、一言で言えば父と子の物語。

 サンジュの父は俳優、政治家としても高名なスニール・ダット、母はボリウッド史上最高の女優の一人と謡われたナルギス。サラブレッドで裕福な家庭に生まれたサンジュ、言葉を選ばすに言えば恵まれた家に生まれたバカで素直なドラ息子の話です。しかし間違いなくスクリーンで見せる魅力がありますね、Wikiで調べるだけでもたくさんのヒット作がありました(私が知っているのはムンナバーイー(Munna Bhai M.B.B.S)、これは確かに面白い)。

映画は大きく前半と後半の二つになっています。

前半:薬物依存になってから抜け出すまで
 デビュー前に薬物に手を出し、あっという間に中毒に。この薬物依存が原因で恋人ルビーとも別れるこにとになり、また瀕死の母の病床でも薬物を手放せません。母はサンジュのデビュー作公開三日前に亡くなってしまいます。公開日に激しく後悔した彼は薬を断つ決意をします。サンジュは、父となにより親友カムレーシユのサポートがありようやくこの薬物依存からようやく抜け出しますが、依存から抜け出すのに10年かかっているとのこと。
 この前半では薬物を手にして正気を失うサンジュが歌って踊るシーンがいくつかありますが、インド映画らしい過剰な明るさが逆にとてもアンバランスで映画を観ている自分がヤク中のような気分になってきます。いよいよ克服しようするときに心の母が歌いながらサンジュを励ますシーンがあり、それはとても美しくて印象的です。この前半だけで薬物依存克服の一つの作品になるくらいのインパクトがありました。

後半:テロ容疑者
 彼は薬物依存から復活後、多くの作品に出演し90年代は大スターとして人気を博していました。その1993年にボンベイ連続爆弾テロ事件が発生、これに関与した容疑がかけられ、さらに無責任なメディアの報道に翻弄されることになります。
 大スターから一転、監獄へ収監されるというドン底生活。スターだからといって特別扱いもなく、地べたに直接毛布を引くような、ときにトイレが詰まってあふれ出るような劣悪な環境で数か月を過ごすことになります。

・容疑の原因は政治活動をしている父の身を守りたいために武器(AK-56)を入手するがその入手先がテロに関係する人物だったこと
・それに加えて新聞・各種メディアがきちんと調査もせずに「テロにかかわったのか?」と報道し、世間からもテロの容疑者として叩かれることに

 この状態が1993年から2013年まで実に20年間続きました。実はテロ容疑は2007年には晴れていましたが、武器の不法所持については有罪でした。メディアは売り上げを伸ばすために「彼は有罪」といったわざと真実を捻じ曲げた報道をして世間を煽りました。各種新聞社・雑誌どこもが同じような報道だったために世間の人も容易に信じてしまい、薬物依存の間も親身になってサポートしてくれた親友カムレーシュも彼とは袂を分かってしまっていたのです。

感想:
 特に後半の父の父たる姿が頼もしく、また一方でなかなか大人にならないサンジュが大変に歯がゆいです。父はずっと死ぬまで完全なるサンジュのヒーロー、勇気の源として描かれます。でもね、サンジュがあんなにも子供っぽくいつまでも成長しない理由はやはり父にもあったのでは、と。
 映画の中では、偉大な父との距離はあれど父への恨みつらみはほぼなく、あるとすれば一つだけ、靴の紐も結べないような年ごろのサンジュを寮に入れたことがさらっと描かれているだけです。
 本当にそうなのかな?
 人間だものいろいろあったはず。
 そもそも小さなころのエピソードが何もないこと自体が問題なのでは?
父の描き方が完璧すぎること自体がファーザーコンプレックスなのでは‥‥とうがった見方もしてしまいました。違う言い方をすると、サンジュも大人になってさすがに少しは成長し、一方で父スニール・ダットもその間ですこし目線を下げることを知った。ようやくふたりはお互いの接点を見出すことができて気持ちがちゃんと伝えられるようになった。どちらも成長、変化、時間が必要だったんだと思いました。
 サンジュをなんとかしたいと考えていた父の愛は嘘ではなく、仕事への取り組む姿勢を自ら見せるために久しぶりにスクリーンへ復帰しサンジュとの親子共演を果たします。それが代表作のムンナバーイーとのこと。

 さらに加えて…総じて金持ちの家の男は大人にならなくても生きていけるのだなぁ…などと。おそらくヒラニ監督は、サンジュは周りに巻き込まれてだまされただけ、ある意味で彼は被害者であり、彼が悪いわけではないということも描きたくてたかったのではと思っているのですが(話が面白いことはもちろん大前提)、ヒキでみると…とても恵まれた環境で、薬物を買うだけのお金が不自由なく手に入り、何をしても許してくれる父がいて、ぶっちゃけ実家が太くて、甘くても生きていけて…有名ゆえに発生した出来事でそれは不幸なんだろうけど、とにかくいろいろ次元が違う場所のヒトなんだなぁと思ってしまうところもありました。

 最後に再び武器の不法所持の罪を償うために監獄に収監されます。監獄内でラジオ番組を持ち人々に言葉を語るようになってから、彼は変わったように見えました。父を亡くし、自分の境遇や自分の身に起こったことを言葉にすることでその境遇を一旦引き受ける覚悟ができたのかもしれません。覚悟ができれば人間は何歳でも成長できるという話なのかもしれなせんね。まあその割には厳しすぎる仕打ちだとは思いますが。

ポイント:ランビール・カプールの化け方が見事!
 背が高くてちょっと猫背気味の歩き方、表情、喋り方。ムンナバーイーしか見てないけど、本人がいる!と思ったぐらいでした。話自体が波瀾万丈なのでサンジャイ・ダッドを知らなくても十分に面白いと思う。でもひとつでも知っていると、その化けっぷりも見どころの一つなのは確かです。

 裕福なだけでなく、有名だったがゆえにメディアや世間に面白がられ無責任に遊ばれた一人の人間の物語、またはインドの映画業界・政治業界の一部を垣間見る作品でした。

★発表後
 インドはドラッグ規制に厳しく、通常のメディアではあまり著名人のドラッグネタは報道されないのでドラッグを正面から扱っている作品は珍しいと思った、との感想で一方で「パンジャブ・ハイ」などまさにドラッグそのものを扱った作品もありますし、映画の中では都会の若者のパーティシーンではよくそういった描写はありますね、といただきました。またさらにツイッターでは「父と息子の男親子関係がメインテーマ、男性と女性で受け止め方が異なるかも」とも頂きました!これは深堀りしたい気になるコメントです~。
タンジさん、Ratnaさん、Junさん、ありがとうございました!

♪「長いトイレだったな、よく帰ってきた!」前半最後の歌。ここまでが息苦しくてしょうがないのでこの歌で解放される。亡くなってしまった母への想いを感じる歌。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?