パラレルワールドラブストーリー 東野圭吾
1998年 3月15日 初版講談社
東野圭吾はその昔にはまってよく読んでましたが、目に付いたので久しぶりに文庫を購入。映画化されたみたいですね。平積みされていました。帯は映画の宣伝でした。
入りがいいですね、お互いに電車の向こう側にいて、窓越しに見えるけど触れられない世界とすれ違う。あとから考えるとパラレルワールドにひっかけた演出だったと思うのですが、後につながらないくらい詩的な情景だな、と思いました。
バーチャルリアリティなどいまはかなりよく見聞きする内容がネタで、一瞬、最近書かれた本かな?と思ったりしてしまいます。MDや電話、手紙など、いまは使われないツールが出てくるので少し前に書かれたものなのだろうというのはすぐにわかりますが。VRぽいものを1998年にここまでの作品にしていた東野圭吾がすごいのか、思ったより技術が発達しなかったのはさておき、その小道具が昔のツールであることが全く気にならない、心の描写が主体のお話でした。
映画ではどう描かれているのかわかりませんが、本は時間軸が二つ平行に流れます。本当にパラレルワールドになっているのではなく、過去(現実)から想定される未来とは違う未来の姿が交互に現れます。互い違いに過去と未来を行ったり来たりするのですが、過去を知っている読者はあれ?って思うわけですね。そして主人公も。主人公がその自分の違和感の正体を突き止めようと、自分たちが勤めている会社の研究テーマ、自分が恋に落ちた時のこと、親友へのプレッシャー、これらを紐解き違和感の正体を解明していきます。認めたくない自分の本心や妬み僻みも露わにしながら。やがて平行で走っていた時間軸がだんだん重なってきて一本になります。
この帯裏も気になりましてね。最後に主人公たちは今のわたしには信じられない選択をしたのです。え、ホント?それ選ぶ?それが怖い。新井素子さんが解説を書いていますが、二行目の冒頭で「ホラー小説を書きたいと思っている…」と綴られてまして、ああ、この本ホラーだったのか、と。納得。気持ちがね、ホラーなんですよ。受け入れたくない現実との向き合い方が。そういうのがいまはもう書けないとおもうのですよね。現実見ようよ、とかありえないよ、とか思っちゃう。でも20代の読者にはこの選択が響くのかも。自分も20代だったらビンビン来たのかも。
東野圭吾は片想いと鳥人計画が好きでした。片想いは当時ヒリついていた今で言うジェンダーものですね。最近映像化されていて中谷美紀はイメージ通り、いつか見てみよう。鳥人計画は、鳥人にするために雑音(?)を聴かせる装置が印象的なのと、わたしが冬のオリンピックでラージヒルやノーマルヒルが好きなことが多分に関係しているとおもう(笑)