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6月3日(金)22:30-『今君電話』について

 「どんなことでもいい。何か話したいことがあったら電話をかけて」
この言葉とともに、カンニング竹山さんがご自身のSNSに電話番号を公開。
誰がかけてくるかわからない。どんな話を聞くことになるかもわからない。

 そんな今の君のことを電話で聞く番組『今君電話』の第3弾が、6月3日(金)22:30からNHKのEテレで放送されます。
少しでも多くの人に見てもらいたいのもあって、ディレクターとしてどんな思いで制作しているのか、書いてみようと思います。

 そもそも、この企画のきっかけは、同じくEテレの番組『ねほりんぱほりん』にあります。MCの山里亮太さんとYOUさんはモグラに、顔出しNGのゲストはブタの人形に扮して展開するトーク番組で、私はこの番組のディレクターとして『養子』『児童養護施設で育った人』『わが子を虐待した人』を制作しました。その流れで、児童相談所の関係者と知り合い、2021年2月には『児童相談所職員』という回を企画します。ディレクターとしてのお仕事は別の人にお願いしましたが、継続的に取材していきたいテーマだったので、できる限り取材に同行していました。そのとき、児童相談所の定例会議を見学させてもらい、衝撃を受けたのです。およそ3時間、その児童相談所が受け持っている子どもたちについて、現状と今後の方針を確認していくのですが、子どもたち一人ひとりが置かれている状況にただただ驚くばかりでした。親の犯罪や、経済的な貧困。言葉で簡単に表現することはできますが、具体的な事例を知ると「そんなことがあるのか」とハッとさせられ、「いや、でもそういうことだってこの国のどこかであるよな」と肌感覚として理解させられました。ニュースで聞いたことあるようなことだけれども、もう少し切実さを伴って感じることができる。それは常々、テレビ番組を作っている人間としてどうしたら乗り越えられるだろうかと悩んでいる壁でした。そして、この時の取材がその壁を壊すひとつの光明に見えました。その光とは『さまざま』な『事例』を受け取ることです。ひとつのケースを深く掘るのではなく、あんなことも、こんなことも、そんなこともあるんだと知ることでわかることがある。

 『さまざま』な『事例』をひとつの番組で知ることができないか?そう考えはじめました。当初は児童相談所に密着するドキュメンタリーや、その会議だけを抽出した企画にできないか、そういうところからアイディアを練っていきました。でも、児童相談所という場で番組を作ろうと思うと、立ちはだかる難題があります。そう、個人情報です。それぞれのケースについて紹介しても大丈夫か、確認をとる必要があります。しかも相手は未成年の子どもですから、本人だけではなく、親の許可もいることになります。それはそう簡単なことではないだろう。さて、どうしたものか・・・。思案していると、ふとカンニング竹山さんの顔が浮かびました。もともとカンニング竹山さんとは震災5年特番にご出演いただいたときに知り合い、単独ライブなどにも招待していただいていました。その単独ライブの企画として、SNSに電話番号を公開してバズらせるというものがありました。非常にインパクトがあって、強く印象に残っていました。竹山さんが再び電話番号を公開して、話を聞く番組にしよう!すぐさま竹山さんに連絡をとってアイディアを伝えたところ、「あれからもネットの番組で電話番号を公開しているよ」と教えてくれ、快くOKの返事をいただきました。

 そんなこんなをへて生まれた『今君電話』。 手前味噌になってしまいますが、この企画の良さのひとつは『テーマがない』ことです。それこそ自分がこれまで制作してきた番組には、『養子』だったり、『児童養護施設』だったり、『虐待』だったり、テーマがあります。でも、この番組は誰から電話がかかってきて、どんな話を聞くことになるかわからないから、テーマを設定することができません。私は、この『テーマ』というものが、とっても扱いづらいものだと思っています。テーマを持って、そのテーマを掲げて番組や記事を作ることは、そのテーマに関心のない人を遠ざけるような気がしているからです。「そのテーマか。興味ないからパス」という風に。でも、取材を通じていろいろなことを知った制作者としては、そうやって関心のない人にこそ見てほしいわけです。知ることで見えてくる新しい景色もあるはずだから、と願うわけです。でも、見てもらえない。それならば、『テーマがない』番組があってもいいのではないのでしょうか?誰から電話がかかってきて、どんな話を聞くことになるか、電話に出てみるまでわからない『今君電話』であれば、「どんな電話がかかってくるんだろう?」「へ~、そんなことがあるのか~」「そんな人もいるのか~」と思っているうちに、何かを感じてしまう。…かもしれません。『今君電話』は、何かのテーマに興味関心があるから見ようという番組ではなく、テレビとして“おもしろい”番組であったらいいなと願っています。それが、結果として見ている誰かの間口を広げることにつながることになるかもしれないと期待しています。

 そして、実際に制作してみてわかったことがあります。それは『カテゴライズされにくい悩み』を伝えられるということです。前回の放送では、保育園に通う男の子を育てているシングルマザーから電話がかかってきました。「何か話したいことがありましたか?」と竹山さんが尋ねると、「大人と話したくて」「離婚してからちゃんと大人と話したことがないんです」と語ってくれました。そして、その理由として「仕事やプライベートでのコミュニケーションが苦手で、思うように話すことができない」と打ち明けてくれました。『シングルマザー』で、『コミュニケーションが苦手』だから陥った状況かもしれません。そういった個別の事情だからこそ、ディレクターとして、『シングルマザー』の『大人と話したい』という悩みを見つけることはなかなか難しいのではないかと思わされました。そして、もしその悩みのことを知ったとしても、シングルマザーの人の悩みを描く番組を制作するならば、より多くのシングルマザーが悩んでいることを取り上げようとしていまうのではないかと考えさせられました。でも、そうやって取り上げらなければ、社会がこの悩みを認知することもないわけです。そうやってマスメディアからこぼれ落ちていく「カテゴライズされにくい悩み」があります。この『今君電話』であれば、そういう『カテゴライズされにくい悩み』に出会え、届けられる可能性がある。そう、児童相談所で私が何かを感じ取ることになった『さまざま』な『事例』とはつまり、そういった『カテゴライズされにくい悩み』という個別の事情の集合体なのかもしれません。『今君電話』は、この同じ世界で生きるどこかの誰かの悩み、苦しみ、時には喜びも受け止める場所であり、伝える場所なのだと思います。今回もさまざまな『カテゴライズされにくい悩み』が寄せられました。ぜひ番組で感じていただけたらうれしいです。

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