地域猫活動の基礎から学ぶ。―TNRや保護猫活動を知るには―(前編)
地域猫活動と一言でいっても、その活動範囲は多種多様。よく耳にするTNRや地域猫への餌やりはもちろん、自宅やシェルターでの保護、そして譲渡など。やることはとにかくたくさんある。今回は九州地方にて個人で地域猫活動を行なっている、yurinaさんにお会いし、実際に活動の一部に同行。朝は4時台から始まり、日によっては深夜まで猫たちと向き合う。猫たちへの想いが詰まった活動について、前編では基礎知識から、活動を始めたきっかけまでを紹介する。
今回お伺いしたのは……
yurina(https://www.instagram.com/yurina.ri/)さん。“猫捨て山”と呼ばれる山で暮らす猫たちへの、餌やり、TNR、その後のケア、また自宅付近でも同様の活動を行なっている。ご自宅では6匹の保護猫と一緒に暮らしている。Instagramを中心に日々の活動を紹介している。
地域猫活動ってなにがあるの? まずは基本を紹介。
「私がやっている活動は“地域猫活動”といって、飼い主のいない猫たちへの餌やりや不妊・去勢手術の手配、また地域で暮らす猫たちの頭数把握から、怪我や病気をしている猫の保護や子猫の譲渡などを行なっています」とyurinaさんはいう。猫の保護の話になるたびに、よく聞く言葉について、今回は話を聞きつつ以下にまとめる。
TNRってなに?
クロネコみっけの記事でも何度か登場している「TNR」。
・T=Trap(トラップ):捕獲すること
・N=Neuter(ニューター):不妊・去勢手術のこと
・R=Return(リターン):猫を元いた場所に戻すこと
上記3つの頭文字を取った名称で、目的は猫の繁殖を抑えること。写真のように安全な場所に捕獲器を仕掛け、餌で猫たちが入ってくるように仕向ける。無事に捕獲器に入ったら、病院に送り届け不妊・去勢手術を行い、術後数日してから元いた場所へ戻すというのが一連の流れ。
「“猫捨て山”で捕獲器を仕掛ける時には、人通りや車通りが少ない場所に置くようにしています。私が把握している中では現在20匹ほどの猫が山で暮らしているのですが、最近捨てられた猫たち以外は基本的にすべての猫が不妊・去勢手術済みです。手術が終わった猫は、“さくら耳”といって、耳の一部をカットし不妊・去勢手術済みであることが一目でわかるようにしています」
“さくら耳”について「耳をカットするのはかわいそうではないか」という意見もあるが、耳カットをしていないと全身麻酔をかけた開腹手術を、何度も行うことになってしまう可能性もあるため、一目で不妊・去勢手術済みだとわかることが大切だ。そのほうが猫自身への負担も軽減される。
地域猫への餌やりとは?
yurinaさんが行なっている地域猫への餌やり。「現在3箇所で猫たちへの餌やりを行なっています。1箇所は自宅の周り、もう1箇所は自宅から数百メートル離れた場所で暮らす猫たちへの餌やり、最後が山で暮らす猫たちです。以前は山へ毎日足を運んでいましたが、現在は他の餌やりボランティアさんたちとも連携を取り、3〜4日に一度のペースで足を運ぶようにしています。猫たちにはいつ何が起きるかわからないため、できるだけ多くの餌をたべてもらいたいと思っており、行くたびに餌は山盛りにしています」
また、猫たちの様子を見て、体調管理も行なっている。「冬や梅雨の時期になると風邪をひいてしまう猫も多いため、ウェットフードに猫用の栄養剤を混ぜるなどして、少しでも体調管理ができるようにしています。また痩せていると冬を越せないことも多いため、外で暮らす子たちにはできるだけたくさん食べてもらいたいと思っています」
猫の保護活動とは?
「我が家にも山から来た猫が数匹暮らしています。大怪我を負ってしまった子や授乳の必要な子猫など、保護が必要な場合は、地域猫活動をしている方々と連携をとって保護し、自宅やシェルターなどで一時的に預かり、そして譲渡へと繋げるようにしています」
保護をするにあたっても、いくつかの問題があるという。「地域猫活動をされている方の中には、50代以降の子育てが終わった世代の方々もいます。その年代から猫たちとの関わりを始めた方々の中には、捨てられる猫たちがかわいそうで自宅での保護を繰り返し、最終的に頭数を抱えすぎて飼育困難に繋がる方も少なくないと耳にします。目の前の子を救いたいと、あたたかい気持ちで始めたことがキャパオーバーになってしまうことで、多頭飼育崩壊になってしまうこともあるので、心苦しいですが保護頭数に関しては見極めも重要です」
多頭飼育崩壊とは、一般的に無秩序にペットが増え、飼い主が適正に飼育できる数を超えた結果、経済的にも破綻し、飼うことができなくなってしまう状況をいう。特に猫は繁殖能力が高いため、不妊・去勢手術を行なっていないとあっという間に繁殖し、次々に増えていくため注意が必要。また、善意での保護をくり返したことにより、頭数を抱えすぎて飼育困難になり、多頭飼育崩壊へとつながる例も少なくないという。
地域猫活動を始めたきっかけや経緯。
今回取材に協力してもらったyurinaさんが、地域猫活動を始めたのは3年半ほど前に遡るという。「勤務先へ向かう通り道に、現在餌やりに通っている、通称“猫捨て山”がありました。噂には聞いていてずっと気になっていたのですが、ある日、山の駐車場にある自動販売機のそばにいくと、猫たちが10匹ほど一斉に集まってきました。当時の私は何も出来ないと思いその場を後にしました。しかし大雪の日、山がどうしても気に掛かり仕事の帰りに寄ってみると、ひどい風邪をひき、両目が開いていない猫が4匹。少しでも寒さをしのごうと、ギュッと一つにかたまっていました。その猫たちを見ていると辛い気持ちになり、今考えると軽率だとは思うのですが、衝動的に車に乗せて連れて帰りました。そのうち2匹は譲渡し、2匹は我が家に住んでいます。その経験をきっかけに、地域猫活動を本格的に始めました」
yurinaさんがまず始めたのは、山への餌やりだという。「半年くらいは一人で山へ通い、猫たちに毎日ご飯を届けていました。それから少し経った頃、10年ほど、毎朝餌やりボランティアを続けているというおじいさんに会いました。その方とも連携が取れるようになり、少しずつ山の猫たちに向き合う方々と交流を持つようになりました」
同時並行でTNR活動も行うようになったそう。「私一人では餌やりに通うことが精一杯でした。しかし、私の地元と東京を行き来している方、学校の先生、そして今まで100匹以上のTNRをされた方と山で出会い協力し、TNR活動を行うようになりました。この方は譲渡をメインに活動している方で、一緒に動いてくださったおかげで、山の猫たちのほとんどが不妊・去勢手術をすぐに行えました。私の考えでは、なによりもTNRが最優先。TNR活動を初めて一年が経った頃から、前年まであれほどたくさんいた子猫の姿が見えなくなりました。そうして少しずつでも、外で暮らす猫たちを減らしていく活動を行なっています」
後編では、地域猫活動の先にあるものや、外で暮らす猫たちを取り巻く環境の問題点などを取材。改めて目を通してもらいたい。
スタッフクレジット:
photo:Toshiyuki Tamai edit&text:Makoto Tozuka
Produced by MCS(Magazine House Creative Studio)