見出し画像

追悼 松本零士さん  三浦小太郎(評論家)

松本零士さんが天国に旅立たれました。たくさんの名作を残された方ですが、私の好きなのは「男おいどん」と「大純情くん」そして、戦記物では「スタンレーの魔女」「戦争交響楽」です。その中でも、最初に読んだ松本作品「男おいどん」が懐かしく思い出されます。


「男おいどん」は、四畳半に一人住む若き九州男児、大山昇太こと「おいどん」の物語ですが、今の時代読み返して強く感じるのは、主人公が、正直自分でも認めているようにさして才能もなければ実力もなく、また自分の実力を磨き学ぶ暇もないほど日々のバイト生活(しかも当時でもあまりお金になっていそうにない)に追われているのに、強烈なまでの「上昇志向」を持っていること。それが何であるかは別として「最後には笑って死ぬのだ」「大物になるのだ」という意志は根拠もないのに強く、逆にどんなに挫折しても変わらない。


これは松本零士の作風である以上に、やはりこの作品が書かれた70年代初めごろまでは、時代そのものがそんな空気を持っていたのだと思います。例えば後の前川つかさの「大東京ビンボー生活マニュアル」と比べると、80年代という時代が日本から何を失わせ、また、何を与えたのかがわかるような気がする。


「ビンボー生活マニュアル」は80年代後半に書かれた漫画で、主人公の「コー助」は、「おいどん」に比べてはるかに「自由」で欲がない。今の自分は仮の姿だ、必ず大物になるなどという意識はみじんも見せない。貧しい生活の中バイトで暮らしていることは同じなのだけれど、その日々のちょっとした喜びを「おいどん」よりもはるかに豊かに味わいながら暮らしているように見える。だけれどそれはある意味「歴史の終わり」を思わせるような、人々が未来への夢や情熱をどこか失ってしまったかのようにも見えてくる。最終章で、主人公が近所の和尚から、京都の寺に届け物を預かって旅立っていくシーンには、まるで「出家」を思わせるものがあります。

ここから先は

1,200字
やまと新聞は皇室を敬い、日本の歴史と文化を正しく伝えていきます。 月350円で知識が身につきます。 また、ツイートやSNSから保守系情報を見やすくまとめて掲載していきます。 よろしくお願いいたします。

Yamato Web News

¥350 / 月

領土問題・歴史問題・対中国・韓国・北朝鮮など日本国を取り巻く環境は厳しくなっています。 やまと新聞は左傾化が止まらないマスコミの中にあって…