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チリツモが血便に勝つ日まで

なんとなく、咳が続いていたとある日。

子どもの風邪をもらい、声がしゃがれ、職場の人たちに「こいつ風邪ひいとる」と気づかれるくらいには人目につく体調不良な日々だった。

風邪自体は、本当に大したことはなかった。普通に出社し、仕事をし、普通に夜ご飯をモリモリ食べた。

まさか翌朝、血便が止まらなくなるなんて、そんな事を誰がわかるだろうか。

深夜、お腹がゴロゴロ動きまくり、慌ててトイレに行った。めちゃくちゃお腹が痛いのに、出ない。下から出ないから上から出た。一時的にスッキリ。しかし、まだまだ止まらない腹の痛さ。

なんとか下痢を出し終え、ズキズキする腹をさすりさすり、「まあ寝れば治るだろう」と、横になる。下痢が出たのに一向に収まらない腹痛に戸惑いながらも、なんとか寝た。

翌朝、相変わらず痛む腹を抱えながらトイレへ。なんと血便が止まらない。便器が事件現場のようだ。“死”が脳裏に浮かぶ。

下痢だけならば、血便だけならばここまで弱気にはならないのだけど、いかんせん痛くてヤバいのだ。例えるなら、初期の陣痛位の痛みがジワジワ続く感じ。

消化器内科の予約が取れ、診てもらうことにした。血便が出すぎているので「大腸カメラだろうな…」とは予測していたけど、やっても翌日とか、大腸カメラの予約だけ取り直すんかな…と思っていた。

が、結果、9時に診察開始、10時半には大腸カメラも終わっているというスピーディーすぎる展開。

診断結果は、虚血性大腸炎でした。腸の一部の血流が悪くなって炎症が起き、そこから出血しちゃうらしい。怖すぎ。

カメラで見た腸内は、それはもう痛々しい事になっていた。大腸カメラも普通に痛かったし、もう嫌だ…トラウマだ…

対症療法しかなく、痛み止め(巨大なカロナール!)と頓服のみで、炎症をやり過ごすしかないらしい。大腸に口内炎とか霜焼けが出来ているような感じなのかな… わからんけどとにかく痛い… でも、大腸ガンじゃなくて良かった…

なんの心の準備もなく大腸カメラを突っ込まれたショックと、腹の痛さと、聞いたことない病名でヘトヘトになり、めまいと微熱でキャパはゼロ。

少しは動けるようになってきたけど痛みと血便はあるので、なんかもうどうしようもない。休むしかないとはこの事。カロナールが毎食後、プラス頓服ってどんな薬の出され方なん……

原因としては便秘か脱水らしいけど、私は便秘ではない、という事は脱水だったのかな。いや、でも、仕事中は2リットル飲み干す位には水分とってるし…
いや、考えてもダメだ、夏が暑すぎるのが良くない!どうせ全ての元凶は“疲れ”と“ストレス”だ!簡単に言うな!同情するなら金をくれ!

わかってる。全ての不調を取り除こうとしたら、好きな事だけして暮らすしかない。嫌なことをして暮らしながら疲れとストレスを溜めないなんてできるはずがない。

それでも生活を防衛しながら、やりたい事も諦めないという、守りながら攻めている私を、誰よりも私が褒めないといけないのだ。よ!偉いぞ!キレてるねえ〜!

5億欲しいな。そしたら生活の平和と文化を守るために使うし、私も元気なのにな…

と、すっかりやさぐれてしまっていた。(なんせ痛いからね)

どうせ動けないならばと、映画「ハーブ&ドロシー」をみた。30年間に渡り4000点以上もの現代アートをコレクションしたご夫婦のドキュメンタリー。

2人とも普通の職場で普通に働き、ドロシーの稼ぎで生活し、ハーブの稼ぎは全てアートに注ぎ込み、猪突猛進に作品を収集し続けた。電車やタクシーで持って帰る事ができて、アパートの部屋に収まるサイズの、自分たちの稼ぎで買える値段のものを。

当たり前だが、彼らには5億などない。
それどころか借金をしながらもアーティストの元を訪れ、買うか買わないか以前に作品とアーティストにとっての理解者であり続けた。 

“好き”とか“欲しい”とかでは言い尽くせない、コレクションは2人の生きざまなのだ。
お金じゃないんだな。続ける事と、アートへの愛と情熱が、2人をニューヨークアート界の偉人とした。チリツモしか勝たんのじゃ。

腹が痛いとなんにもできないから、とりあえず体調を治す。5億はなくともチリツモで進む。

きっとハーブもドロシーにも、風邪や下痢はあったのだろう。それでも、普通の生活者の視点からみた現代アートのコレクションは、彼ら以降の時代を生きる全ての人にとって、まごうことなき宝物だ。

小さな事を地道にコツコツと、ですな。

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