ここは地獄ではないんだよ
スピッツのアルバムが良い。
まず、ジャケットの女性が私と同じような作業着を着ているのが良い。私のためのアルバムかな??と思ってしまう。
じんわりとシンパシーを感じつつ、一曲目のタイトルからやられてしまった。
i-o(修理のうた)
機械を操作する時、スイッチONがI、スイッチOFFがOで表記されている事がある。ちょうどそのような機械を触っていた時だったので、「あのIで、あのOじゃないか!!それで“愛を”歌っているなんて!!」と、悶えた。スピッツはこういう小さな仕掛けで、いつもいつも私を悶えさせにくる。年をとればとるほどイタズラがうまくなっていく、不思議な大人の4人組だ。
スピッツは仲良しなのが良い。
30年以上のキャリアの中で、ケンカをした事がないらしい。誰かがミスったり何かをしでかしても、「まあまあ、アハハ…。」という感じで、サラッと流すのだそう。良いなあ、と思う。お互いに干渉せず、説教などもちろんせず、ただ一緒にロックを続ける事を大切にし続けてきた。だって、彼らはロックバンドだ。歌を歌いたいのでも、有名になりたいのでもなく、バンドがやりたい人たちなのだもの。
私はドラムの崎ちゃんが大好き。何が好きかって、うろちょろしない所が好き。
ベースやギターがうろちょろしまくる中で、それでもバンド内で1番の運動量になるであろう複雑なビートを刻む。目立つ事なく、たまにコーラスなど歌いながらも、バンドの根幹を担っている。
そんな崎ちゃんが、ついに歌った!
崎ちゃんだけでなく、なんと全員が歌った!クララが立った位の衝撃だった。
オバケのロックバンドという曲。メンバー全員が、コーラスではなくメインを歌っている。それぞれに当て書きした、たった2行の歌詞に、彼らのこれまでが垣間見えてしまう。
ニヤニヤが止まらない。楽しそうで、幸せそうで、良い。いい仲間だなあと思う。
表現者はみんなオバケなのだ。薄暗い所にヒッソリと佇み、見える人にしか見えない。自分を見つけてくれた、たった一人のために歌い、踊り、ドラムを叩く。
そのような、あくまでも個人的な動機やストーリーが、世の中にぶっ刺さる事がある。つまようじであけた風穴が、いつしか台風の目となり、人々の記憶の1ページに栞を挟む。
私の人生にスピッツが挟みまくった栞は膨大で、私の感受性はスピッツに育まれたと言っても過言ではない。
手鞠という曲が好き。
手鞠っぽく生きていきたいと思う。ラグビーボールの重厚さでも、ソフトボールの飛距離の長さでもなく、手鞠。
手鞠って!!!!と、また悶絶してしまうのだけど、簡単にはずんで、何処に飛んでいくかわからない身軽さと執着の無さは、私の目標でもある。目指せ、ゴムあたまポンたろう。そんな私を「かわいいね」と言ってくれる人がいなくても、スピッツが「かわいいね」と言ってくれるので良い。
手鞠的に生きるのは、なかなか勇気がいる。それでも私ははずんでいたい。グチや文句で重たくならないように、次に行ってみたいところへポーンと行ってみる。自分を卑下した方が楽な時もあるけど。卑下すればするほど重たくなる。ので、「バツイチ子持ちだから‥。」「男は良いよね。」などと言わないようにする。言わないよ!離婚出来たのは勲章だし、子どもは宝物だから。勲章と宝物を早々にゲットできて、なんてラッキーなのだろう。あと70年は笑って生きるしかない。
自分がはずめば、底のドロドロには触れなくてもよい。
弾もう。跳ぼう。
天国ではないけれど、弾んでいる限り、ここは地獄ではないのだから。
ともかく、スピッツは優しい。彼らのような、優しい人になりたいよ。