小さな恋のものがたり チッチのときめきのレンズ
みつはしちかこ先生の、「小さな恋のものがたり」。ちびっこチッチが優等生でスタイル抜群、イケメンのサリーにひたすら片想いし続ける少女漫画。
1962年に雑誌「美しい十代」で連載開始してから、2014年に最終巻をむかえた。その間、チッチはサリーを追いかけ続ける。恐るべし片想いのパワー。
最終巻である第43巻の本の帯に書かれている言葉は、「さよなら. . . . . サリー。」本屋で見つけるや否や、迷わず買い物かごに入れた。チッチの長い長い片想いは、ついにサリーには届かなかった。
デビュー以来53年もの間、ブレずに「片想い」を描ききったみつはしちかこ先生を、私は尊敬する。恋愛のときめきなんてほんの一瞬だ。報われようが報われまいが、何があろうが生活は続く。いちいちときめいていたら身が持たない。
チッチはあんな小さな体で、よくぞ53年間も…と圧倒される。ある意味ゴルゴ13よりハードボイルドな人生だろう。
サリーの姿を見ただけで、天にも登る気分を味わうチッチ。片想いのときめきは、日常をよりキラキラと輝かせる。
きっとみつはしちかこ先生は、このときめきのレンズを通して見た日常をこよなく愛しているのだろう。誰かの事を思うだけで、道端の雑草ですら鮮やかさを増す。季節の変わる空気感を、いっそう濃く感じることができる。
私が愛して止まないのは、チッチの友人松木さんだ。感性豊かでいちいち大騒ぎするチッチに対して、彼女はいつも冷静沈着。
サリーに別れを切り出されて真っ青な顔のチッチを心配する他の友人たちに、彼女はこう言い放つ。
「人間生きていれば 青いときも赤いときもあるでしょう」
その冷静沈着さをもって、彼女は泣いているチッチに優しく寄り添う。松木さん、すごく良い。大好き。
同じくデビュー以来25年もの間、恋愛ソングを歌い続けるaikoの「明日もいつもどおりに」という曲。私は次の部分に度肝を抜かれた。
「出の悪い水道 直し方もわからない
今はささいなことすらも軽く拭えない」
きっとこの水道の出が悪いのは、今に始まった事ではないのだ。普段は軽く受け流せるような事で、いちいち地獄に落ちないといけないのが片想いであり失恋だ。
ときめきのレンズは時として、どんなに美しいきらめきも遮断してしまう。
それにしても、出の悪い水道って、すごい歌詞だなあと思う。直し方も本当にわからないよね。
どうすれば良いのかわからない、あやふやだけど確かにあるもの。それを通して見る世界は、いつもと比べ物にならない位眩しい。
チッチとサリーの物語は、薄目じゃないと直視できない。直視できない清らかさや美しさがあることを再確認するために、今日も心して読もうと思う。