世界と上手くやっていこうなんて、思わなくても良い
春だ!美術館のシーズン到来だ!
美術館のシーズンとは??と、思う方もいると思う。
美術館の展示スケジュールは“年度”で公開されているため、HP上で毎年3月末までの予定しか見る事が出来ない場合が多い。
2月頃に「4月から何やっとんじゃろ?」と思って調べても、公開されておらずどんよりする日々を送っていた。
そして、冬の間は休業だったり、企画展をやっていない館もある。1月〜3月って、ほんと、私にとっては魔の期間だ。何を楽しみに生きればいいんかわからん。
しかし、春がきたぞ!面白そうな展示が全国あちこちで企画されていてサイコー!お金と体が無限にあれば良いのにと思ってしまう。コロナ明けという事もあり、「今まで出来んかった事、やったるで!!」というパッションを感じる企画も多く、HPを眺めているだけで楽しい。
気になる展示を見つけた。東京都現代美術館で7月から開催予定の、「あ、共感とかじゃなくて」という素晴らしいタイトルの展示。5名の出品作家の中で、気になる方を見つけた。渡辺篤さん。「アイム ヒア プロジェクト」の主宰者。
「アイム ヒア プロジェクト」とは??と思い、調べてみた。
約3年間の引きこもりだった渡辺篤さんが、引きこもった経験のある当事者として、現在引きこもっている方々から部屋の写真を提供してもらい、それらを写真集やインスタレーションとして発表したプロジェクト。
ん?現在も継続中なのかな?わからんけど。
彼のパフォーマンス、インスタレーション作品は、自身の傷や弱みを自覚し、それらを武器として世の中と戦っているように思う。まだ見に行っていないので、HPを見ただけの印象でしかないのだけど、それだけで圧がすごい。やっとる事がすごい。
コロナ禍での外出自粛期間、きっと多くの人が、「家の中にずっと居るのは疲れる。」と、感じた事だろう。そう、引きこもるにも技術と意志が必要だ。
引きこもりって、世間一般的に「弱い」というレッテルを貼られがちだけど、それって何??本当に弱いの??誰から見た何の弱さなん??という疑問が、彼のHP上のステートメントを読んでいるうちに、ふつふつと湧いた。
渡辺篤さんは、傷ついた事のある当事者にしかできないプロジェクトをしている。
例えば、現在募集中の「あなたの傷を教えて下さい」というプロジェクトも、共感されやすい「引きこもり」や「鬱」の経験者である彼だからこそ、ストレートに伝わるのだと思う。つまり、傷ついた経験があるということは、これ以上ないほどの武器だ。
これと同じ事を、例えばイケイケのインフルエンサーや政治家二世が発信した所で、なんの共感も生まれず叩かれるのが目に見えている。イケイケにも、政治家二世にも、きっと何かしらの傷があるであろうにも関わらず。傷を小さく、できるだけバレないように生活している人には、到底手に入れる事ができない。
道行く人みんなにバレちゃう位、派手にコケた事のある人のみ持つ事のできる武器だ。
「あなたの傷を教えて下さい」
私の傷ってなんだろう?と、しばらく考えたけど、思い当たる節が多すぎて書けなかった。ひと言でズバッと書ける時点で、既に傷は癒えつつあり、向き合う覚悟ができているのかもしれない。
時間をかけて、武器にしていくしかないと思う。
金沢21世紀美術館で開催中のコレクション展を見に行った。「それは知っている:形が精神になるとき」という、こちらも素晴らしいタイトル。
展示されていた、ペドロ・レイエスさんの“銃でできた楽器”に、すごくすごく救われた。
ペドロ・レイエスさんの住むメキシコは銃社会。発砲事件が絶えない。彼は、人を殺す道具である銃を集め、加工し、愉快な風貌の楽器を作った。21世紀美術館では、15分に一度自動的に演奏されるようになっており、どこからともなく鳴り響く軽快な音の正体を知った時に、思わずニヤッとしてしまった。と、ほぼ同時に、今音楽を奏でている“元銃”が、現在も銃であったとしたならば、もしかしたら誰かを傷つけていたのかもしれないという事に、少しゾッとした。
武器は、自分を守る事が出来るが、自分を含めた誰かを傷つける事にもなる。
傷だらけで血が滴っている状態では、武器を持てない。扱いきれない。戦うには、まずはしっかりと癒えねば。
丁寧に丁寧に包帯を巻き、しっかりと癒やす必要がある。
ペドロ・レイエスさんは、銃を溶かしてショベルを作り、それらを使って植樹をしたりもしているようだ。
武器を何かしらのポジティブに替えて、明るい方向で社会に働きかけている。
武器を武器のままさらけ出すか、武器を楽器に変えていくか。
どちらも痛みを通じて社会と向き合おうとする、芸術家の魂の強さを感じた。何かを作るから、傷と向き合い生きていける。
武器のままでも楽器でも、世界と上手くやっていこうなんて、思わなくても良い。それぞれのやり方で戦い、歌い、踊れば良いと、素晴らしいタイトルの展示が教えてくれた。(片方はまだ開催されていないにも関わらず)
だから、美術って本当に楽しい!