仏と砂をめぐる物語#1残雪期の甲武信ヶ岳「砂を探して千曲川源流へ」
「山と仏Youtubeチャンネル」にて
「仏と砂をめぐる物語」を配信しました。
noteでは動画て紹介できなかった部分をご紹介していきます。
第1回は、この動画に込めた思いと、紹介を書きたいと思います。
砂を探す旅
今回の山は「甲武信ヶ岳(こぶしがたけ、甲武信岳とも)」。
奥秩父山塊にある百名山の一座。山梨県・埼玉県・長野県の三県の県境にあり、千曲川・荒川・笛吹川の源流にあります。
私は、令和2年3月に登りました。
「砂」を探すために。
私が所属する宗派の青年僧の団体、高野山真言宗青年教師会では、
令和2年度の事業として、
「六座土砂加持法会」を高野山で行うことになりました。
読んで字の如し、「土砂」を「加持(かじ)」する法会。
砂に祈り、仏さまの不思議な力をいただくものです。
この法会は、亡くなった方の菩提を祈るための伝統的な法会です。
この法会で祈られた土砂には、
不思議な力が宿ると伝えられています。
この土砂を散ずれば、亡くなった方がたとえ地獄に堕ちるといえども、その功徳に依って極楽に往生し、そして二度と地獄に堕ちることはないと説かれています。
私は接した経験がないのですが、昔、高野山の僧侶は座棺(座った状態で納める棺桶)による土葬で葬られたそうです。(今は火葬です)
死後硬直が始まっていますので、座棺に納めるのは容易ではありませんが、この土砂を散ずることによって死後硬直が解け、座棺に納めることができたと聞いています。
それだけ、不思議な力があると信じられてきたのです。
全国から土砂が集められるため、長野県でも土砂を採取することになりました。
この土砂は「川の源流など、人の足が付かない清浄な場所」で採取することと決まっています。
どの場所が良いか、検討しました。
令和元年10月。長野県では千曲川が氾濫し、大規模な水害が発生しました。
私たちも災害復興のボランティアに参加したり、托鉢して支援金を送ったりなどの災害支援活動を行いました。
そこで長野県では、災害のあった千曲川の源流を採取候補地にしました。
法会が終わった後に、加持された土砂を千曲川決壊地点に持っていって、
土砂返還法会を執り行うこととしました。
災害で犠牲になった方の菩提と、災害無き世の中になるよう祈るために。
千曲川・信濃川水源地のある甲武信ヶ岳周辺は「秩父多摩甲斐国立公園」に指定されています。
土砂の採取は環境省に申請し、許可を得る必要があります。
水源地を視察して採取候補地を定めるため、
私は千曲川源流を目指しました。
この千曲川源流に始まる物語を、皆さまに紹介したいと思いました。
結局、採取も最小限の人数で行い、
高野山に行くこともできませんでした。
しかし、
この一年、できる範囲の中で「砂への祈り」に向き合ってきました。
災害があったことも忘れてはいけない
土砂返還法会だけはしっかりやろう
そのような思いで、
最後の「砂を還す」祈りに繋げることができました。
この祈りを、皆さまと共有したいと願っています。
最後に動画の見どころ
今回こだわって作ったところは「音」です。
是非、ヘッドフォンでお聞きください。
私、できる限りBGMやSEを使わない編集を心がけています。
音も含めて「山」であり、「仏」と考えているからです。
(もっとも、技術的な面でそれを表現しきれないところがあります。また、効果的な場面ではBGMを使っていますが、ピアノ曲中心にしています。)
今回、長野県側(長野県川上村)にある毛木平から千曲川に沿って歩くルート。ほとんどが樹林帯の長い行程です。
このルートの一番の魅力は「水の音」だと私は思います。
たった一滴の水が、あの長大な信濃川になり日本海に注ぐ。
壮大なロマンのある音ですが、
それは小さな小さな音。
その音に耳を澄ませていただきながら、ご覧いただければ幸いです。
この「仏と砂をめぐる物語」、
noteで3回の連載を予定しています。
#1がプロローグ。
#2が「砂を探す」、#3が「砂に祈り、砂を還す」です。
動画と合わせてご覧いただければ幸いです。
小雪童