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鉢伏山の素敵な仏さま 厳冬期登拝・鉢伏山(長野県松本市・岡谷市)

【雪の鉢伏山・僧職系登山男子の厳冬期登拝】YouTube動画を公開しました。

鉢伏山は、北・中央・南全てのアルプスと八ヶ岳がキレイに見える絶好のロケーション・高ボッチの隣にある山です。

私のお寺からは鉢伏山がキレイに見えます。
名前の通り穏やかな山容で、この時期は麓からも雪が白く積もっているのがよくわかります。
その美しい姿を、ゆかりの歌人たちが短歌に詠んでいます。
動画の冒頭に紹介させていただいた短歌もそのひとつ。

鉢伏の 山のしら雪 きらきらと  輝きにつつ 日は空をゆく

歌人・窪田空穂の作です。

さて、今回はその鉢伏山を、
山岳信仰の観点からご紹介したいと思います。

麓からのぞむ鉢伏山


「金峰山」牛伏寺と鉢伏山

鉢伏山の中腹に牛伏寺(ごふくじ)という寺院があります。
松本平を代表する古刹で、厄除け祈願で有名なお寺さまです。

金峰山 牛伏寺

以前、お参りにいったときに副住職さまから色々な仏像を見せていただいたことがあります。
その中にあったのが「蔵王権現」像。
(画像で紹介できれば良いのですが・・・平安時代の作とのことでした)
山岳信仰の中では中心的な存在である「金峯山寺(奈良県吉野)」に祀られる仏さまで、修験道における本尊「金剛蔵王権現」さまです。

平安時代、吉野(奈良県)・熊野(和歌山県)にまたがる大峰山を中心とする信仰が全国に伝播した時期がありました。
大峰山で修行した行者たちが、全国の険峻な山岳を登り、
仏の座としての山頂を目指しました。

このときの痕跡が今なお、全国に残されています。
例えば、宮城県・山形県にある蔵王山。
蔵王スキー場で有名ですよね。
この「蔵王」は蔵王権現に由来し、主峰は熊野岳といいますよね。
それから、全国各地にある「金峰山」という地名。
有名なのは長野県と山梨県にまたがる百名山の「金峰山」でしょうか。
麓の長野県川上村には「金峰山神社」があり、元々蔵王権現が祀られたのが由来です。

金峰山山頂の五丈岩

余談ですが、奈良は「金峯山寺(きんぷせんじ)」と読みます。
百名山の「金峰山」(長野県・山梨県)は、
山と高原地図によると「山梨では『きんぷさん』、長野では「きんぽうさん」」とのこと。
「きんぷせん」と読むのが当たり前だったので、どうしても他の読み方ができません、私・・・。
私が修行していた高野山と吉野の金峯山寺はご縁が深くて、
高野の弘法大師と吉野の蔵王権現さまが「杉」と「桜」を交換したという話が伝わっています。
お寺の造営のために杉が必要だった弘法大師、
鮮やかでキレイな桜が好きな蔵王権現さま。
それでは「高野の桜」と「吉野の杉」を交換しましょうと言ったとか。
そのおかげで高野山は杉ばっかりで、吉野は桜ばかり、というお話。
本当かどうかわかりませんが、昔から高野山と吉野は関係が深かったのでしょうね。

さて話を戻します。
なぜ、この金峰山という名前が牛伏寺さまの山号となっているのか。

以前、牛伏寺さまからいただいた「牛伏寺誌」を読みますと
鉢伏山が大峰山発祥の山岳信仰の影響を受けて、古くから山岳信仰の霊場であったことがわかります。
山頂にお祀りされる「鉢伏権現」さま、
その霊場である鉢伏山自体も「金峰山」と呼ばれていた時代があるそうです。

神さま・仏さまの山・鉢伏山

そんな山岳信仰の山・鉢伏山に登拝しました。
夏は車道が山頂直下の鉢伏山荘まで通っていますので、
そこから片道20分。
車で手軽に行けて、北アルプスや諏訪湖、八ヶ岳を望む大展望は「ズルい」の一言。

山頂からの北アルプスと松本平の街並み

しかし、夏山の20分では「登山男子」的には登山と呼ぶにしのびないところです。
しかし、冬は車道は冬期封鎖。
下から歩くしかありません。歩いて登ると、往復12kmのしっかりした登山です。ルートはいくつかありますが、登拝でありますから牛伏寺からの尾根沿いのルートを取りました。

1月は牛伏寺さまは厄除けでたくさんの方が参拝の訪れます。
登山者の方の駐車はご遠慮いただきたいとのこと。
下に車を停めて歩きます。

牛伏寺駐車場の脇の登山口

登山口は牛伏寺駐車場の脇にあります。
ここからひたすらに尾根を登っていきます。

鉢伏山にある山岳信仰の足跡


ルート上に「堂平」という場所があります。
中腹にある少し開けた平な場所で、牛伏寺の堂塔が立っていたと伝わっています。
発掘調査をしたところ、建物の遺構や土器が出土しているそうです。
遥か昔、
この場所に古い寺院があり、僧侶や行者が修行に励んでいたのだろうか。
今となっては普通の森ですが、そんなことに思いを馳せながら登っていきます。
山頂近くの平地には「蓬堂」というお堂があったのだそうです。堂平の堂塔と同時期に建立されたものとのこと。こちらはより山頂に近く山岳信仰のための施設であったそうです。

中腹にある堂平

その足跡を残すように、山頂には石仏が残されています。・・・風雪に耐える仏さま。本当に素晴らしいので、この時期の石仏を紹介したいと思ったのですが、ほとんどが雪の中でした。

山頂の鉢伏神社 石仏が残されています


一つだけ、手を合わせることができた仏さまを紹介いたしますと
山頂直下にある摩利支天さま。
陽炎を神格化した仏さまです。
本来は女神さまなのですが、中世に武士の信仰を集めたために、
武将の姿に変わってきました。
山岳信仰の中でもよく信仰される仏さま。
登山の中でもお会いすることが多いですよね。

摩利支天尊石像

また、鉢伏山では昔から、
雨乞いの祈祷が行われてきたと聞いています。
鉢伏山を水源とする牛伏川は昔から、
水害が多かったのだそうです。
そこで大正時代に「フランス式階段工」という治水施設が建設されました。(重要文化財に指定されています)
反面、夏場は渇水。
牛伏川は下流で「田川」という川に合流するのですが、
今でも夏場はよく渇水して、全く水が流れていないということがよくあります。
麓に住む民としては、
鉢伏山から注ぐ水の恵みが順調であるように祈ることは自然な営みだったのでしょう。
神さま・仏さまのいらっしゃる場所。
そんな思いを抱きながら、山頂から広がる松本平の街並みを眺め、
鉢伏山を後にしました。

山頂に残る鳴雷神碑

ぜひ鉢伏山と牛伏寺さまにお参りを

長野県にある山としては、あまり有名でないかもしれませんが、
鉢伏山は素晴らしい眺望と好アクセスの山です。
登山に、軽めのハイキングに、
ぜひ登ってみてください。
ご紹介したとおり、山岳信仰の山ですので、
麓の牛伏寺さまと一緒にお参りいただければ幸いです。

山と仏 小雪童

鉢伏山山頂


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