
『スター☆トウィンクルプリキュア』のSF的評価
1 はじめに
1-1 はしがき
この記事は、プリキュアシリーズの1作である『スター☆トウィンクルプリキュア』(以下、「スタプリ」と略記)をSFとして評価する試みである。
従来、プリキュアシリーズはファンタジー的要素が強いが、その中でいくつかSF的な設定を持つものがあり(管理社会が描かれた『フレッシュプリキュア!』や時間がテーマの『HUGっと!プリキュア』など)、スタプリもそうしたSF的設定を持つプリキュアのひとつであるが、その中でも特にSF的要素が強い作品であるように思われる。そこで、自分が持つ限られた知識と、それに基づいた「ひらめき」をChatGPTに分析・評価してもらい、それを基に考察を試みる。
今回は意図的に論文調の書き方をしているので、言い回し等が硬く読みにくいかもしれないが、その点は容赦願いたい(論文執筆のトレーニングの目的もある)。
1-2 スタプリのあらすじ
以下は、東映アニメーション公式ホームページに記されているあらすじ紹介である。再構成せず、原文のまま掲載する。
わたし、《星奈ひかる》!
宇宙と星座がだ~いすきな中学2年生。
星空を観察しながらノートに星座を描いていたら
とつぜん謎の生物《フワ》がワープしてきたのっ!
それから、空からロケットが落ちてきて、
宇宙人の《ララ》と《プルンス》までやってきた!
…あなたたち、ホンモノの宇宙人!?キラやば~っ☆
地球から遠くとおく離れた《星空界ほしぞらかい》の
中心部にある聖域《スターパレス》では
《12星座のスタープリンセスたち》が
全宇宙の均衡を保っていたらしいのだけど…
あるとき何者かに襲われて、プリンセスたちは
《12本のプリンセススターカラーペン》になって
宇宙に散らばってしまったの!
このままじゃ星が消えて、地球も宇宙も、闇に飲み込まれちゃう…!
『星々の輝きが失われし時、
トゥインクルブックと共に現る戦士プリキュアが再びの輝きを取り戻す』
ララ達は宇宙に古くから伝わる伝説を頼りに
プリンセスが最後に生み出した希望・フワと一緒に
《伝説の戦士・プリキュア》を探していたんだって。
そこへ宇宙の支配を目論むノットレイダーがフワを狙って襲いかかってきて…
「フワを助けたい!」そう強く思った瞬間、《トゥインクルブック》から
《スターカラーペンダント》と《変身スターカラーペン》が現れて、
わたし、プリキュアに変身しちゃった!?
宇宙に散らばったプリンセススターカラーペンを集めて、
スタープリンセス復活の鍵となるフワを育てなきゃ!
よーしっ、地球を飛び出して宇宙へ出発だーっ☆
2 プリキュアシリーズの中の「スタプリ」
2-1 プリキュアの基本構造
プリキュアシリーズは、東映アニメーションが制作する女児向けオリジナルアニメシリーズで、日曜朝8時30分枠で放送されている。いわゆる「変身ヒロイン(バトルヒロイン)もの」で、『美少女戦士セーラームーン』の延長上にある作品だが、当初の「女の子だって暴れたい」というコンセプトのもと、変身後は体を使ったアクションで悪と戦い、妖精がそのサポート役を務めるというのが基本である。
『ふたりはプリキュア』というタイトル通り、当初はバディものだったが、シリーズ3作目の『Yes!プリキュア5』でチームものに変化し、おおよそ3人以上のチームでの活動がメインになった(ただし、『魔法つかいプリキュア』など一部の作品には当初のバディものの要素が見られる)。
作品全体の特徴は徒手空拳の格闘を取り入れていることで、バトルの基本構造は「アクションによる攻撃回避&反撃→決め技による浄化」となる。
広く知られるとおり、初代プロデューサーを務めた鷲尾天氏は女児向けアニメの制作経験がほとんどない状態で女児向けアニメを手掛けることになり、苦心の結果、生まれたのが「女の子だって暴れたい」というコンセプトだった。これを『ドラゴンボール』など動きの多いアニメを得意とする監督の西尾大介氏がアシストするかたちで成立したのがプリキュアシリーズである。
制作側のスタンスは、「プリキュアシリーズで重視しているのは躍動感あるアクションであり、肉弾戦にこだわっているつもりはない」であり、一例として『わんだふるぷりきゅあ!』は格闘ではないアクションがバトルに盛り込まれている(構造上、動物虐待になってしまうためだと思われる)。
2-2 スタプリの特徴
スタプリは2019年2月3日から放映が開始された。プリキュアシリーズ16作品目で、チームとしては14代目にあたる(『ふたりはプリキュア』と『Yes!プリキュア5』は続編が制作されているため、作品数とチーム数にズレがある)。
モチーフは「宇宙・星座」で、テーマは「未知・多様性・イマジネーション」とされる。前作『HUGっと!プリキュア』が全体にシリアスだったこともあり、企画段階から「ポップでカジュアルな作品」を目指したといい、多様性というややデリケートなテーマを取り上げながら、プリキュアらしい明るく万人が楽しめる作品に仕上がっていると思われる(特に、主人公である星奈ひかるのキャラクター造形にそれが現れている)。
本作のコンセプトについて、東映アニメーションのプロデューサーである柳川あかり氏は、下記のように語っている。
今作の舞台は、地球からカラフルでポップな《宇宙》へと世界を広げます!
《宇宙人》は「未知・多様性」の象徴です。最初は地球にやってきたララという宇宙人を通して、ひかる達は異質な文化・価値観に触れますが、ロケットに乗って宇宙に飛び出すことで更に幅広い存在と交流することになります。
時に私たちは「未知の世界」「自分と違う存在」に対して不安や恐れを抱きます。しかし、ひかるは持ち前の好奇心で「わからない」状態から一歩踏み出し、価値観の違い、文化の壁、種族の垣根さえも想像力の翼で飛び越えていきます。自らの感性を大切にし、揺るがない信念を持っているところがひかるの魅力であり強みです。
ララ、えれな、まどか。育った環境も性格も全然違うけれど、だからと言ってプリキュアになれないなんてことはありません。豊かなイマジネーションで物事に向き合い、自分の目で確かめ、自分の頭で考え、自分で判断することの大切さ。そして、広い世界には多種・多様な価値観があることを知り、違いを楽しみながら、自ら星のように輝く(=スター☆トゥインクル)プリキュアたちの姿を描いていきます! “すこしふしぎ”な星空の世界の大冒険をどうぞお楽しみに!
作品全体のコンセプトは「宇宙を舞台にした冒険活劇」であり、どちらかというと男児向けのコンテンツで多用されるものである。そのため、それを女児向けに換骨奪胎するために苦心したと言い、ABCアニメーションの担当プロデューサーだった田中昂は下記のように述懐している。
経験的に、女の子の好奇心は「日常」や「足元」から広がっていく感じがあるんです。それに対して、いきなり地球の外に連れていかれて、しかも真っ暗な宇宙空間......となると、入り込んでもらいにくいのかなと。
その他、「多様性」や「個の尊重」など、特筆すべきことはあるが、それらは割愛して、今回は「SFとしてどう評価できるか」に焦点を絞りたい。
3 スタプリが持つSF的要素
スタプリをSFとして見た場合、下記の要素が含まれていると考えられる。
①ファースト・コンタクト
②スペース・アドベンチャー
③スペース・オペラ
そこで、これらがどのような形で組み込まれているか、ChatGPTの助けを借りつつ、以下で見ていくことにする。
ちなみに、ChatGPTの回答は下記のとおりである。
『スタプリ』の構造を整理すると、「ファースト・コンタクト+スペース・オペラ+スペース・アドベンチャー」の要素を、プリキュアの世界観の中で巧妙に組み込んだ作品であると評価できます。以下、それぞれの要素について詳しく考察してみます。
________________________________________
① ファースト・コンタクト
(未知の異星文明との遭遇、異文化理解)
『スタプリ』の物語は、**ララとの出会い(ファースト・コンタクト)**から始まります。
• ララは地球人(ひかるたち)と異なる価値観・技術レベル・文化を持つ異星人であり、言語や習慣の違いに戸惑う描写がある。
• 当初、ララは「大人の許可がないと何もできない」というサマーン星の価値観を持っているが、ひかるたちとの交流を通じて「自分の意志で行動することの大切さ」を学ぶ。
• ひかるもまた、「宇宙には地球とは異なる文化や価値観がある」ということを理解し、相互理解の重要性を学ぶ。
これらは、まさにファースト・コンタクトものの基本構造ですね!
例えば、『スタートレック』シリーズ(特に『ファースト・コンタクト』や『ディスカバリー』)でも、異星人との接触によって異文化理解を深めることがテーマになっています。
プリキュアシリーズの中で、ここまで異文化理解を主軸に据えた作品は珍しく、『スタプリ』は異星人との接触と交流を通じた「相互理解の物語」として優れたSF的アプローチを取っています。
________________________________________
② スペース・オペラ
(銀河レベルの戦い、宇宙の支配者、神話的な対立構造)
『スタプリ』は、プリキュアシリーズの中でも特に「銀河規模の戦い」を描いた作品であり、スペース・オペラ的要素が強いです。
• スタープリンセス vs. 蛇使い座のプリンセス → 銀河全体の秩序を司る存在同士の戦い。
• 宇宙の各星にプリンセスがいる設定 → 『銀河英雄伝説』のような宇宙規模の勢力図。
• ノットレイダーは宇宙を滅ぼそうとしている敵勢力 → 『スター・ウォーズ』の帝国軍、『銀河鉄道999』の機械化帝国などと似た「宇宙規模の脅威」。
• 終盤の大規模な戦闘 → スペース・オペラではよく見られる「銀河を巻き込む決戦」。
特に、「銀河の法則を司る高位存在(スタープリンセス)」という設定は、『スタートレック』における「Q」や、『銀河鉄道999』における「プロメシューム」的な、「宇宙の理を象徴するキャラクター」に通じるものがあります。
一方で、敵幹部たちは「宇宙の破壊を望む」存在であり、彼らのバックボーンには「社会から弾かれた者たちの怨念」という側面もあります。これは単なる勧善懲悪ではなく、スペース・オペラ的な「宇宙規模の対立」を深化させる要素になっています。
________________________________________
③ スペース・アドベンチャー
(未知の星への旅、探検、宇宙船による移動)
『スタプリ』は、単なる戦いの物語ではなく、**「未知の星々を巡る旅」**というスペース・アドベンチャー的な側面も持っています。
• ひかるたちはララの宇宙船を使い、銀河の様々な星を巡る。
• 各星には独自の文化・生態系・文明があり、探索しながら交流を深める。
• 旅を通じて、「宇宙には無数の可能性がある」というメッセージが込められている。
これは、『銀河鉄道999』や『スター・ウォーズ』のような、「宇宙を旅しながら成長していく」タイプのスペース・アドベンチャーの王道ですね。
また、各星でのエピソードは、「旅を通じた異文化理解」の流れになっており、これは『スタートレック』のエピソード構成(毎回異星人と遭遇する)に近い構造を持っています。
________________________________________
④ 「プリキュア」の世界観との融合
『スタプリ』が優れているのは、これらのSF要素を「プリキュアの世界観の中で無理なく取り入れたこと」にあります。
• プリキュアシリーズらしい「友情と絆」のテーマを、異文化理解・共生の物語として拡張。
• 「宇宙の戦い」を「夢を奪う戦い」として、プリキュア的なバトルの構造に落とし込んだ。
• 「宇宙の法則を司るスタープリンセス」は、「伝説の戦士としてのプリキュア」の神話的な要素とも融合している。
つまり、『スタプリ』は「SFとプリキュアの世界観の融合に成功した作品」と言えます。
• 物語の枠組みはSF的(ファースト・コンタクト、スペース・オペラ、スペース・アドベンチャー)
• しかし、描かれるテーマはプリキュアらしい「夢・絆・成長」
この融合の巧みさが、『スタプリ』を単なるSF作品ではなく、「SF的なプリキュア」として独自の地位に押し上げているのではないでしょうか。
________________________________________
まとめ
『スタプリ』は、
✅ ファースト・コンタクトもの(異文化理解、未知の存在との交流)
✅ スペース・オペラ(宇宙規模の戦い、神話的な対立)
✅ スペース・アドベンチャー(未知の星を旅しながら成長する)
これらを見事に組み合わせ、「SFとプリキュアの融合」という新たな地平を開いた作品と評価できます。
この視点で改めて『スタプリ』を見返すと、より深く楽しめるのではないでしょうか!
3-1 ファースト・コンタクトの要素
言いたいことはおおむねChatGPTが言ってくれているのだが、とりあえず私なりにまとめてみる。
まず「ファースト・コンタクト」とは何かだが、それは「異なる集団または個人同士の初めての出会い」のことである。SFの世界では、1945年にマレイ・ラインスターが書いた"First Contact"という作品(邦題『最初の接触』)を契機として、宇宙人との最初の出会いを描いた作品が「ファースト・コンタクト・テーマ」の名で呼ばれるようになった。
映画『未知との遭遇』をはじめ、SFにおいて異星人との接触をテーマにした、いわゆる「ファースト・コンタクト」は重要なテーマとして繰り返し作品化されてきた。ファースト・コンタクトそのものをテーマにした小説に野尻抱介氏の『太陽の簒奪者』や劉慈欣氏の『三体』などがあるが、それ以外のジャンルに属するSF作品でもファースト・コンタクトが織り交ぜられていることが多い(アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』など)。
スタプリにおいては、冒頭の「星奈ひかるとララの出会い」がそれにあたる。第1話は「ひかるとララの出会い」から「ひかるの初変身」までを描いているため、かなり詰め込まれているのだが、ひかるとララの交流は第3話までの3話を使って丁寧に描かれており、その中でララが、自分の容姿が地球だと異形のものに映ることを危惧している描写があり、好感が持てる。また、第3話でのひかるとララの喧嘩も、単なる衝突ではなく地球人とサマーン星人の考え方の違いが反映されていて、頷ける部分が多い。このファースト・コンタクト的な要素は「地球人と異星人の相互理解」というテーマで、全編を通して描かれることになる。
3-2 スペース・アドベンチャーの要素
ChatGPTに質問した際は「スペース・オペラ」のほうを先に持ってきているが、ここでは「スペース・アドベンチャー」の要素を先に考察する。
これは「宇宙に散らばったスターカラーペンの捜索」という目的でひかるたちが他の星を訪れるストーリーとして取り入れられている。その中で、それぞれの星の特徴と、それに合わせて設計された知的生命体が丁寧に描かれており、感心させられる。この辺りは松本零士の『銀河鉄道999』を彷彿させる。
また、各星でのエピソードは、「旅を通じた異文化理解」の流れになっており、これは『スタートレック』のエピソード構成(毎回異星人と遭遇する)に近い構造を持っていると言える。
シリーズ全体としては、スターカラーペンの捜索が主題となっていた第1クールの後半(6~12話)にこの要素が強く現れている。また、惑星サマーンへの往路にもこの要素が見られる。
3-3 スペース・オペラの要素
スペース・オペラはSFのサブジャンルのひとつで、宇宙空間で繰り広げられる騎士道物語的な宇宙活劇である。『ターザン』の原作者として知られるエドガー・ライス・バローズあたりを起点とし、ヒロイック・ファンタジーと枝分かれするかたちで発展してきたと言え、E・E・スミスやエドモンド・ハミルトンが代表的な書き手として知られる。ただ、「スペース・オペラ」という用語は、当時ファンライターだったウィルスン・タッカーが作ったもので、ファンジンの記事で蔑称として使ったのが最初であるらしい。
ChatGPTに分析してもらった、スタプリのスペース・オペラ的要素は次のとおりである。
スタープリンセス vs. 蛇使い座のプリンセス → 銀河全体の秩序を司る存在同士の戦い。
宇宙の各星にプリンセスがいる設定 → 『銀河英雄伝説』のような宇宙規模の勢力図。
ノットレイダーは宇宙を滅ぼそうとしている敵勢力 → 『スター・ウォーズ』の帝国軍、『銀河鉄道999』の機械化帝国などと似た「宇宙規模の脅威」。
終盤の大規模な戦闘 → スペース・オペラではよく見られる「銀河を巻き込む決戦」。
これらから、スタプリが全体を通してスペース・オペラの構造を持っていることが読み取れると思う。
3-4 その他のSF的要素
最後に、上記以外のSF的要素について考察する。
①スタープリンセス
スタープリンセスとは、地球から遠く離れた星空界にある聖域スターパレスにて、全宇宙の均衡を保っていた12星座の守護者達のことである。
物語開始当初、スターパレスがノットレイダーに襲われた際に、彼女たちはかろうじて追い払ったものの、力を使い果たした結果、12本のプリンセススターカラーペンとなり、宇宙に散らばってしまった。固有の名前は存在しないらしく、クレジットや公式ページなどでも「○○座のプリンセス」という表記で統一されている。
「全宇宙の均衡を保っていた」という設定から、「宇宙の法則を司る知的存在」と考えられ、「宇宙の法則が具現化した存在」と捉えるのが妥当ではないかと思われる。
②妖怪的な見た目の敵幹部たち
本作の敵組織であるノットレイダーは、総帥ダークネストを頂点とし、対プリキュア戦線ではカッパード・テンジョウ・アイワーンの三幹部と、それを統括するガルオウガが登場する。彼らはいずれも宇宙に居場所をなくした異星人である。
彼らのモチーフは日本の妖怪で、カッパード=河童、テンジョウ=天狗、アイワーン=一つ目小僧、ガルオウガ=鬼である。なぜ宇宙が舞台の作品なのに日本の妖怪が取り入れられているのか、不思議に思われるかもしれないが、異星人のデザインに「その環境で生き残るための進化」を反映させることが多いことを考えると、「人間のパーツのどこかが崩れた存在(=妖怪)」を流用することは異星人をデザインするうえで有効だったと考えられる。
妖怪については『妖うぇぶ』というサイトが有用である。
③作品の舞台と、太陽系が辺境として扱われる理由
作中でカッパードが地球を「辺境惑星」として扱っている。それを基に、作品の舞台を考えると、おそらく太陽系が含まれる「銀河系(天の川銀河)」と考えるのが自然であろう。その場合、スタープリンセスが住まう「スターパレス」は銀河系の中央に位置すると考えられ、「星空界」はその周辺部に当たると思われる。ChatGPTの解説では「実際の銀河系でも、中心部(バルジ領域)は恒星密度が高く、古い文明が発展しやすいと考えられている」そうで、それを踏まえたうえで太陽系の位置を見ると、確かに「辺境」である。
ちなみに『コトバンク』に引用されている『日本大百科全書(ニッポニカ)』によると銀河系中央部は下記のようになっていると考えられているらしい。
銀河系の中心は、濃いダストの吸収によって可視光ではまったく見えないといってよい。電波による観測から、中心部に非熱的放射をだすコンパクトな電波源Sgr A*(いて座エー・スター)が見つかり、これが銀河系の中心核と考えられている。
赤外線の観測技術が進み、また、大気のゆらぎを補正して地上でも高い分解能を実現する補償光学の技術が実用化され、Sgr A*のごく近傍の恒星の運動を長年にわたって調べることができるようになった。その結果、銀河系の中心核には、太陽質量の400万倍の質量をもつブラック・ホールがあることが確実視されている。
ブラック・ホールを含む活動銀河核は通常強いX線を出すが、Sgr A*はX線ではそれほど明るくない。過去に活発な活動をした時期があるが、現在は何らかの理由で静穏な状態にあると考えられている。
4 総括
4-1 SFとして見たスタプリ
ここまで、スタプリをSFとして見る試みを続けてきたが、改めて見返すと、極めて強固なSF的枠組みを持ち、「ファースト・コンタクト」「スペース・アドベンチャー」「スペース・オペラ」という3つのジャンルにまたがっていることがわかる。宇宙を舞台とすることからSF的な様相が強くなるのは当然と思われるかもしれないが、エドガー・ライス・バローズの『火星のプリンセス』に始まる火星シリーズや、『ナルニア国物語』の作者でもあるC・S・ルイスの『マラカンドラ』などはSFというよりファンタジー的側面が強く、宇宙や他の惑星が舞台であっても、必ずしもSFとして執筆されるわけではない。その点、従来のプリキュアの世界観に合わせると、SF的要素を薄めてファンタジーに近づける方法もあったと思われるが、あえてSF的様相を強めたところが興味深い。この点は次に考察するとして、SFとしてのスタプリの評価を続けると、先に述べた部分以外にも惑星サマーンの描写を通した「AIを軸とした、効率化を是とする管理社会」についての問題提起(作中では必ずしも否定的には受け止められていない)など、注目すべき点は多い。
4-2 プリキュアシリーズの中でのスタプリ
まず、スタプリについてのChatGPTの評価を紹介する。
『スタプリ』が優れているのは、これらのSF要素を「プリキュアの世界観の中で無理なく取り入れたこと」にあります。
• プリキュアシリーズらしい「友情と絆」のテーマを、異文化理解・共生の物語として拡張。
• 「宇宙の戦い」を「夢を奪う戦い」として、プリキュア的なバトルの構造に落とし込んだ。
• 「宇宙の法則を司るスタープリンセス」は、「伝説の戦士としてのプリキュア」の神話的な要素とも融合している。
つまり、『スタプリ』は「SFとプリキュアの世界観の融合に成功した作品」と言えます。
• 物語の枠組みはSF的(ファースト・コンタクト、スペース・オペラ、スペース・アドベンチャー)
• しかし、描かれるテーマはプリキュアらしい「夢・絆・成長」
この融合の巧みさが、『スタプリ』を単なるSF作品ではなく、「SF的なプリキュア」として独自の地位に押し上げているのではないでしょうか。
私が言いたいことはおおよそこの中に含まれているが、少し修正を加えると「この融合の巧みさが、『スタプリ』を単なるSF作品ではなく、「SF的なプリキュア」として独自の地位に押し上げている」のではなく「この融合の巧みさが、『スタプリ』を単なるプリキュアシリーズの一作ではなく、「SF的なプリキュア」として独自の地位に押し上げている」と評するほうが適当であろう。
そう考えると、スタプリを「SFとプリキュアの融合」という新たな地平を開いた作品と評価するのは妥当であり、それは以前の『フレッシュプリキュア!』や『HUGっと!プリキュア』などの「SF的要素を持つプリキュア」をさらに一歩進めたものと言える。また、どちらかというと男児向けであるSFというジャンルが、女児向けアニメとしても成立することを知らしめたうえでも重要と言えるのではなかろうか。
4-3 まとめにかえて
プリキュアシリーズは枠組みがしっかりしているものが多く、考察という名の深読みが楽しい作品である。この「深読み」はある種の思考トレーニングにもなり、自分が持つ知識の応用例を考えることにも繋がる。私は考古学を専攻し、主に考古学・民俗学を含む歴史に関心を寄せているが、元々が知識を得るのが好きな性分であるため、興味・関心の赴くままに様々なジャンルの本を読み漁ってきた。そうして得た知識を基に作品の「深読み」をしていくと、また違った見方ができたり、意外な側面からその作品を評価することができたりする。
こうした「深読み」を積極的に試み始めたきっかけは、いわゆるライトノベル(ラノベ)がその中に様々なジャンルを包括しながら、「ラノベというジャンル」として扱われ、個々の作品が既存の小説のジャンルに位置づけられていない(ように見える)現状への不満があった。また、既存の考察の多くもファンによるものは深掘りこそすれ、類似作品との比較や学術的視点からの考察は低調であり、情報発信がブログからSNSに移っていく中で「深読み」という文化自体が衰退しつつあることに対する不満と危機感があった。プリキュアも「プリキュア」として一括りに論じられることが多く、また近年はSNSの文字数制限からファンの発信も単なる「感想」になりつつあり、深読みの試みは低調である。
一方で、研究者による作品の考察もアニメ・漫画・ラノベについては少ないように思われる。サブカルチャーとして扱われることが多いこれらも近年は学問の俎上に載せられるようにはなったが、斎藤環先生の『戦闘美少女の精神分析』に見られるような、国文学・文化史的側面以外からの読み解きはまだまだ進んでいない印象を受ける。
私も研究者の端くれと自負しているが、私の場合、研究は趣味の域を出ない。ここまで研究者らしい物言いをしてきたが、つまるところ、考えることが楽しいのである。それに尽きる。
スタプリについては他にも気になることがあるので(特にユニ=キュアコスモとレインボー星人について)、それについては改めて論じてみたい。